永ちゃん、聖子…豪華だが課題と期待が交錯した昨年の紅白 「歌合戦」はどこへ行く
「つなぐ、つながる、大みそか」。放送100年の締めくくりにふさわしいテーマを掲げた昨年の「第76回NHK紅白歌合戦」は、CANDY TUNE(初)から松田聖子(25回目)まで世代を超えた歌手が勢ぞろいし、豪華だったが、司会進行の段取りの悪さが目につくなど課題も残した。
多すぎた「特別企画」
日本レコード大賞3連覇のMrs.GREEN APPLE(以下ミセス、3回目)、同最優秀新人賞のHANA(初)らを主軸に、昨年を彩った歌手・グループ42組が出場した。
これとは別枠で、13年ぶりの矢沢永吉(3回目)、5年ぶりの松田らビッグネーム8組が「特別企画」として登場した。矢沢や松田は昨年が周年。ただ、紅組の岩崎宏美(15回目)も白組の布施明(26回目)らも周年だったので「特別」の基準は今ひとつ分からなかった。
特別企画として登場した歌手は白組と重複した福山雅治(18回目)を含め紅白どちらにも属さない立場だが、乱立すれば「歌合戦」の看板が泣くだろう。
白組が勝ったが、何をもって審査したのか。昨年は放送100年の特例だったのだろうから、今後は「特別」な出演者も紅白いずれかに振り分けて「歌合戦」の体裁を守るべきだ。または、紅と白の定義を見直し、男女混交でチーム分けする時期かもしれない。
懐メロで始まり…
「放送100年 紅白スペシャルメドレー」と銘打ったオープニングは肩透かしだった。ミセス、HANA、アイナ・ジ・エンド(初)らが「夢であいましょう」「ひょっこりひょうたん島」など昭和・平成の名曲を歌い継いだのは紅白ならではの試みだったが、その歌もほんの一節ずつで物足りなかった。「放送100年」の説明を歌でなぞっているだけのようで、開幕の勢いをそいだ。
第76回NHK紅白歌合戦のオープニング=令和7年12月31日、東京・渋谷のNHKホールしかも結局、懐メロで始まり懐メロで終わる形となり、これで次世代に「つながる」のかは疑問だった。
「皆が知っている歌」がない
本来「今年を代表する歌で1年を振り返る」番組だが、近年は「今年の歌」だけでは成り立たないというジレンマもあるのだろう。
NHKは公共放送として放送を「あまねく」届ける使命を負う。紅白も届けるべきは「皆が知っている歌」ということだろうが、「今年のヒット曲」で「皆が知っている歌」など、もはやほとんど存在しない。
だから石川さゆり(48回目)は名曲「天城越え」と「津軽海峡・冬景色」を交互に歌い続け、坂本冬美は隔年で「夜桜お七」を披露するのだろう。三山ひろし(11回目)がけん玉に挑み続け、水森かおり(23回目)がドミノ倒しを恒例化しているのも、せめて皆がおなじみの場面を紅白の中で作りたいからだろう。
第76回NHK紅白歌合戦で、けん玉チャレンジを成功させガッツポーズを見せる三山ひろし(中央) =令和7年12月31日、東京都渋谷区・NHKホール(佐藤徳昭撮影)しかし、懐メロのメドレー後のCANDY TUNE、FRUITS ZIPPER(初)、新浜レオン(2回目)の流れは良かった。若い歌手が元気に昨年のヒット曲を届けた。
大島優子、前田敦子らOGを擁したAKB48(13回目)の「20周年スーパーヒットメドレー」も見応えがあった。OGたちはキラキラと輝いていた。
第76回NHK紅白歌合戦で披露されたAKB48スペシャルステージ。(手前左から)高橋みなみ、大島優子、板野友美、前田敦子=令和7年12月31日午後、東京都渋谷区・NHKホール(佐藤徳昭撮影)福山が白組として歌った「クスノキ-500年の風に吹かれて-」は、長崎の被爆クスノキを題材にした曲で、戦後80年の昨年届けることに深い意義があった。
技量と熱量…ベテランの凄み
「特別」勢が花を添えたのも確かだ。例えば矢沢は生パフォーマンスのすごみを伝えて圧倒的だった。新曲「真実」を東京タワーの前で歌い終えたかと思いきや、NHKホールに突如現れた。一昨年のB’zに続くサプライズ演出だったが、ライブの締めくくり定番曲「止まらないHa~Ha」と「トラベリンバス」を畳みかけた。76歳とは思えぬパワフルなシャウト唱法。派手なマイクさばき。技量と熱量で、若手を軽々としのいでみせた。
白組大トリのミセスは「日本を明るくするために作った歌で心と心をつなぎたい」と語り、「GOOD DAY」を披露。「ラララ」の大合唱で会場は一体となったが、直後、〝シン・大トリ〟として松田が登場。ミセスの余韻を断ち切る形になり、座りの悪さを懸念したが、純白のドレスをまとった〝聖子ちゃん〟は「青い珊瑚礁 ~Blue Lagoon~」を披露。「その歌声で私たちの心をつなぐ」(司会の有吉弘行)力を見事に発揮した。それをスターのオーラと呼ぶのだろう。
世界とどうつながるか
郷ひろみ(38回目)が「70歳を一つの区切りに」と紅白卒業を宣言したのは寂しかった。今年から「コールドスリープ(休眠)」を宣言していたPerfume(17回目)は、演出により星のように闇へ消えていった。
第76回NHK紅白歌合戦でポーズを決めるPerfume=令和7年12月31日、東京都渋谷区・NHKホール(佐藤徳昭撮影)ベテラン勢のパフォーマンスはSixTONES(4回目)や米津玄師(3回目)の合間に差し込まれたが、若い視聴者の心までつなげられたのだろうか。世代間の分断を招いていなければよいのだが。
韓国の4人組aespa(初)は、メンバー一人が体調不良で休場し、3人でけなげに歌った。過去に原爆のきのこ雲をイメージしたランプの写真を投稿したことで批判を浴びた問題もあったが、今後、日本のアーティストも海外進出が盛んになる。世界とどうつながるか、真剣に考える機会としたい。
妙な間にノイズ…目立ったトラブル
司会の4人は段取りが悪かった。歌の前に妙な間ができる場面がしばしばあった。俳優の今田美桜と綾瀬はるかが不慣れなのは仕方ない。有吉弘行と鈴木奈穂子アナがフォローすべきだったのではないか。俳優やお笑いタレントが司会に適任なのか。また、審査員にももっと話を聞けなかったのか。
第76回NHK紅白歌合戦の司会を務めた(左から)今田美桜、有吉弘行、綾瀬はるか=令和7年12月31日午後、東京都渋谷区・NHKホール(佐藤徳昭撮影)カメラの前を人が横切る。マイクが風切り音のようなノイズを拾う。ミスあるいはトラブルも散見され、歌の合間に受信料徴収をアピールしている場合ではなかった。
「つながる」というテーマは、視聴者にきちんと伝わっただろうか。
離れる歌と世間、来年の挑戦に期待
音楽への関心そのものが薄れつつある時代になった。日本レコード協会が昨年3月に公表した調査によると、「音楽無関心層」は16・2%(平成22年)から46・4%(令和6年)へ急増し、半数に届く勢いだ。若者の過半数が音楽に興味を持たない時代が、すぐそこまで来ている。
歌は世につれ、世は歌につれ。戦後、並木路子と霧島昇の「リンゴの唄」は焼け野原の日本人に希望を届けた。ピンク・レディーの振り付けを誰もがまねした時代もあった。しかし今、歌と世間は静かに離れつつある。
それでも、いや、だからこそ放送200年へ向けて紅白を続けてほしい。歌が聴かれない時代の紅白はどうあるべきか。NHKの挑戦に期待しつつ、今年の大みそかも楽しみにしている。(石井健)
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