農中の赤字1兆9000億円に、奥理事長は引責-成功体験が判断鈍らせた

農林中央金庫は20日、今期(2025年3月期)の連結純損益が1兆9000億円程度の赤字(前期は636億円の黒字)に陥る見通しだと発表した。収益性の悪化した外国債券の売却を進める。従来は最大で2兆円規模の損失を見込んでいた。

  巨額損失を受けて奥和登理事長が3月末で引責辞任し、北林太郎最高財務責任者(CFO)が昇格する人事も発表した。農林中金の純損益が赤字に陥るのは、リーマン・ショックの影響を受けて5721億円の損失を計上した09年3月期以来、16年ぶりとなる。

  同日会見した奥理事長は、巨額赤字の「責任を明確化する」とした上で、役員体制の若返りを図ることで、再起につなげる考えを示した。巨額損失を招いた背景については、「高いパフォーマンスを上げてきたという一つの成功体験があり、どこかのタイミングでは金利が下がるだろうという正常性バイアスが強かった」として適切な判断が遅れたと振り返った。

  農林中金では米金利の上昇などにより、外貨調達コストが外国債券の運用収益を圧迫する中、含み損を抱えた外債の売却を進めたことから損失が膨らんだ。新理事長に就く北林氏は、債券中心だった投資ポートフォリオの多様化や外部人材の登用など運用改革を迫られることになる。

  会見で北林氏は「健全性を第一にポートフォリオ全体のバランスも意識しながら、中長期的には貸し出しを含むクレジット資産等をさらに積み増すことで、収益の分散化を図りながら金利リスクと非金利リスクのバランスの取れたポートフォリオを目指す」と述べた。

  農林中金は、外債売却の一方、より収益力を高めるため、株式やプロジェクトファイナンス、ローン担保証券(CLO)といった証券化商品などへの投資を進めている。

  ムーディーズ・レーティングスのシニア・クレジット・オフィサー、鈴木智哉氏は「不採算の外債売却などを通じた有価証券ポートフォリオの再構築が進み、収益性が安定軌道に戻るかが課題」との見方を示した。

  農林中金は来期(26年3月期)の純利益が300億-700億円程度と黒字回復を見込むとの見通しも発表した。低利回り資産を引き続き売却することで、安定的な黒字を確保していく。同期末の前提として、日本の政策金利が1.00%、米国の同金利は4.00%、1ドル=150円程度としている。

   外債運用での巨額損失を巡っては、農林水産省の有識者検証会が外部人材の登用などを提案として盛り込んだ報告書を先月、取りまとめた。農林中金は提言を受けた今後の対応方針についても発表した。

  具体的には、従来一体化していた財務戦略と投資執行にかかるガバナンスを明確に分離し、新たにCFOを議長とする財務戦略委員会を設置する。財務戦略と投資執行のそれぞれの独立性を高めることで、従来よりも機動的な経営判断が可能になるという。

  北林氏は外部人材の採用を検討することについて、幅広く金融機関や運用会社などから「いわゆる市場、非市場の資産を含めていろいろな形で経験のある方を外部の人材として採用できたらと考えている」と述べた。  

  経営の執行を担う理事会に外部の有識者を非常勤の外部理事として参加できるよう検討する。外部理事を実現するためには、農林中央金庫法の改正が必要のため、それまでの間は同委員会に専門性を有する外部見識者の招へいを検討する。

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