【コラム】「ブギーマン」トランプ氏が問う日本のタブー-リーディー

トランプ米大統領が日米安全保障条約の片務性を批判し、波紋が広がっている。

  米国は日本「防衛」の義務を負い、日本は米国に「基地提供」の義務を負うのが現在の日米安全保障条約の仕組みとなっているが、この「非対称双務条約」を改める時は熟した。

  ちょっと待ってほしい。実はこの主張は、石破茂首相によるものだ。石破氏は日米同盟の在り方について長い間疑問を呈してきた。

  トランプ氏が言ったのは、「われわれは日本を守らなければならないが、日本はわれわれを守る必要はないという興味深い取り決めがある」ということだ。そして「誰がこんな取引を行っているのか」と不満をにじませた。

  石破氏ら日本政府高官は公式にこの発言を押し返したが、むしろ歓迎すべきだった。トランプ氏の国際同盟に対する軽率な姿勢は、米国の安全保障に依存する国にとっては脅威だが、それは同時に、日本が自国を守るための防衛態勢を早急に正常化する好機でもある。

  最大の障害の一つは、平和を手段かつ目標と考える国民の意識だ。防衛に対するアプローチの多くは時代遅れのままであり、平和憲法だけでなく、自ら課した規範によっても制限されている

  例えば、ロシアの侵攻開始以来、日本はウクライナを積極的に支援しているが依然としてウクライナ政府に非殺傷性の支援しか提供しておらず、武器輸出産業もほとんどない。

  石破氏は、トランプ氏を「ブギーマン」、つまり世界各地で子どもだけに見える恐ろしい存在として利用し、手遅れになる前に、日本の防衛について真剣に考えるよう国民に促すこともできる。自国の能力を強化することで支出を増やし、対米依存を減らす日本の安全保障に関するビジョンを示さなければならない。

  そのためには武器輸出に対する姿勢を転換し、この機をチャンスに変えるべきだ。そして、究極のタブーである核兵器を巡る問題に立ち向かう必要がある。

  歴史家のニーアル・ファーガソン氏らはここ数週間の「トランプ・ショック」とニクソン政権時代との類似性を指摘している。

  1972年に当時のニクソン米大統領が歴史的な北京訪問を果たした際、日本は不意打ちを食らい、中国との関係を再構築するため慌ただしい対応を迫られた。日本は新たなニクソン・ショックや大統領執務室での口論を待つような様子見をすべきではない。

「核の傘」

  日本は、この10年間で徐々に幾つかのタブーに踏み込んできた。安倍晋三政権下では集団的自衛権の行使が限定的に容認され、岸田文雄前首相は防衛費を国内総生産(GDP)比で1%以下に抑えるという目安を外した。

  しかし、変化のペースは遅々としており、どの程度の支出を行うか、何に予算を組むか、またその財源をどこから調達するかについて、ほとんど合意が得られていない。

  急速に変化する安全保障環境もまた、好機をもたらす。各国は、米国以外の友好国から防衛装備品を調達しようとするだろう。韓国はここ数年、武器輸出産業を急速に発展させており、2027年までに世界4位の輸出国になることを目指している。

  日本も同様の取り組みができるし、新たな輸出産業を育成するコストとして、安全保障費の増額をアピールすることも可能だ。

  岸田政権下で決まったGDP比2%という防衛費をどう負担するのかという議論は、ほぼ2年間にわたり繰り広げられてきたが、これをコストとしてではなく、投資として捉えることもできる。

  防衛省が新設する「防衛イノベーション技術研究所」は米国総省の国防高等研究計画局(DARPA)を参考にしているがその規模はあまりにも小さい。

  核兵器に対するスタンスほど、戦後の日本が安全保障に対して続けている姿勢を反映しているものはない。日本は核兵器の非拡散をたたえながらも、米国の「核の傘」に守られているという、二兎を追うような状況に甘んじてきた。

  プルトニウムを保有し技術的能力を持つ日本は、必要とあれば「ねじ一つ締める」だけで核兵器の開発に踏み込めると広く見なされているが、核兵器を開発すべきか否かについての議論はほとんど行われていない。

  実際、核兵器の製造や保有に関する議論を提起した何人もの政治家がキャリアを損ねてきた。日本は今もなお80年前の広島と長崎で起きた惨禍に苦しめられている。

  しかし、情勢変化のペースは速く、この「虚構」とも言える状態を続ける時間は終わりを迎えつつある。核保有国になることが何を意味するのかを考える議論は、今すぐにでも始めなければならない。

  欧州と異なり、日本の政界は分断されていない。また、依然として優れた製造能力を保持している日本だ。権力の中枢にいる人々は、自国が直面するリスクを十分に認識しているが、国民に対して誠実であるとは言い難い。

  少数与党を率いる石破氏に強いリーダーシップを期待しているわけではない。トランプ氏の対日批判への石破氏の反応を見ると、依然として安全運転をしようとしている。

  しかし、グローバルな安全保障の古い仕組みの多くは急速に崩壊しつつある。トランプ氏は、日本にとって必要なブギーマンなのかもしれない。

(リーディー・ガロウド氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストで、日本と韓国、北朝鮮を担当しています。以前は北アジアのブレーキングニュースチームを率い、東京支局の副支局長でした。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)

原題:Use the Bogeyman to Confront Japan Defense Taboos: Gearoid Reidy (抜粋)

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