コラム:トランプ・モバイル、企業震え上がらせる「臆面なき利益相反」

 6月16日、米企業経営者にとっては、ホワイトハウスからまた恐ろしい知らせが聞こえてきた。写真は同日、ニューヨークのトランプタワーで撮影(2025年 ロイター/Eduardo Munoz)

[ニューヨーク 16日 ロイター Breakingviews] - 米企業経営者にとっては、ホワイトハウスからまた恐ろしい知らせが聞こえてきた。トランプ米大統領の子どもたちが率いる複合企業が、新たな携帯電話サービス「トランプ・モバイル」と「米国製」スマートフォン販売を始めると表明した。サービスはベライゾン・コミュニケーションズ(VZ.N), opens new tab、AT&T(T.N), opens new tab、TモバイルUS(TMUS.O), opens new tabという大手3社の通信回線を利用する。米企業社会においては、臆面もない利益相反がまん延することが「新常態」になるという、ぞっとするような事態になった。

長男ドナルド・トランプ・ジュニア氏と次男エリック氏が率いるトランプ・オーガニゼーションは16日、モバイルサービスの開始を明らかにした。通話やテキストメッセージ、データの送受信は無制限で、遠隔医療を受診できる特典が付き、100カ国以上への国際通話も無料となっており、特に米軍基地向けにアピールしている。毎月の料金は、トランプ氏が第45代と第47代の大統領であることにちなみ、47.45ドル(約6900円)に設定。ゴールドカラーのスマートフォンは8月に499ドルの価格で売り出され、現在100ドルを支払えば予約ができる。

ホワイトハウス当局者らは、トランプ・モバイルの運営者がトランプ氏の息子たちである以上、このサービスを巡るトランプ氏の個人的ないし職務上の利益相反を懸念すべき点はないと主張している。ただ足元で公表されたトランプ氏の2024年資産報告書によると、同氏は暗号資産(仮想通貨)や、自身の名前を冠した時計、聖書、スニーカー、香水といった製品のライセンス料などで6億ドル余りの収入を得たことが分かっている。同氏の顔を描いた炊飯器、食器に発生するロイヤルティー収入もあるという。

AT&T, Verizon and T-Mobile service revenue

現実的な話をすると、トランプ・モバイルは途方もない論争を呼ぶことになる。1つには、通信事業が非常に規制された産業という点が挙げられる。5G(第5世代)移動通信ネットワークの無線周波数帯を監督する連邦通信委員会(FCC)のブレンダン・カー委員長と、トランプ氏の関係は親密だ。負債を抱える米通信衛星会社エコスターのチャーリー・アーゲン会長に対し、カー氏が未使用の周波数ライセンスを一部売却するよう命じた際には、トランプ氏が両氏の間に入って問題解決を促したとブルームバーグが先週伝えた。

トランプ・モバイルはAT&T、ベライゾン、Tモバイルを非常に難しい立場に追いやる恐れも出てくる。大統領の息子たちとビジネスをしつつ、米政府にサービス提供を続けることになるからだ。トランプ氏は既に、多様性プログラム撤廃を掲げて法律事務所や大学、企業に対してさまざまな権力を行使してきた。自身をブランド化した携帯電話サービスは、そうした政治的圧力やグッズ販売収入よりもずっと深く一線を越え、大企業を震え上がらせるようなメッセージを送りつけている。

●背景となるニュース

*「トランプ・モバイル」が通信事業参入、499ドルのスマホ投入へ もっと見る

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jennifer Saba is a columnist based in New York. Her focus is media, technology and retail. Prior to joining Breakingviews in 2015, she was a reporter with Reuters news. She began her career in advertising.

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