カナダ潜水艦受注を巡るドイツと韓国の戦い、6月末までに勝者を決定

カナダは潜水艦12隻の調達や50年近い運用・維持に1,000億加ドル=11.5兆円を投資する見込みで、入札の勝者は2027年までに発表されると報じられてきたが、カーニー首相は「6月末までにドイツ案と韓国案のどちらを採用するか決定する」と述べ、両国はカナダ産業界に対する最後のアピールを行っている。

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カナダのブレア国防相は2024年7月「最大12隻の通常動力型潜水艦の取得手続きを正式に開始した」「正式な情報提供依頼書(RFI)を秋に発行する」と発言し、待望のRFIが9月に発行され「魚雷、対艦ミサイル、陸上攻撃用の長距離攻撃兵器搭載」「契約締結は2028年」「1番艦引き渡しは2035年」「海外建造=完成品の輸入」「サポート、訓練、インフラ分野へのカナダ企業参入=技術移転」を要求していることが判明し、カーニー首相は昨年8月「潜水艦入札のShort List=最終選考リストをドイツと韓国に絞った」「公正で透明な競争に尽力する」と発表。

出典:Hanwha Aerospace Europe

カナダ国営放送のCBCも入札の評価割合について「カナダが最も重視しているのは潜水艦12隻導入後の維持管理だ」「入札評価の割合は維持管理パッケージ=50%、潜水艦の能力=20%、企業の財務状況=15%、オフセットの内容=15%だ」と言及し、防衛投資庁のジェームズ・ルーク氏も「今回の調達はカナダ防衛産業を最大限活用して質の高い雇用を創出し、経済成長を促進しつつ、カナダに大きな経済的利益をもたらすものでなければならないと言及してきた」と述べ、潜水艦入札に関する最終提案は2026年3月頃に提出されたが、カナダは提案されたオフセットの内容を強化するよう両国に要求。

カナダメディアや韓国メディアはオフセット内容の強化について「カナダは米国との関税問題で国内の自動車産業基盤を拡充したいと考えている」「カナダは潜水艦調達の一環として韓国とドイツに自動車生産の約束を求めた」「カナダは韓国に現代自動車の生産拠点設立を、ドイツにフォルクスワーゲンのカナダ拠点で自動車生産を強化するよう要請した」「スティーブン・フー国防調達担当大臣は最も多くのカナダ人雇用を創出する潜水艦を入札で選ぶだろうと繰り返し述べている」と報じていた。

出典:TKMS

ドイツはノルウェーと共同でType 212CD(約2,800トン)を提案し、両国向けの生産枠の一部をカナダ向けに割り当てることで2036年までに4隻の引き渡し(残り8隻は順次引き渡し)を確約、納期と共に重要なウェイトを占めるオフセットについては大西洋側と太平洋側に潜水艦の整備拠点設置、魚雷製造工場の設立、極超音速ミサイル開発、二酸化炭素回収施設の設立、マニトバ州チャーチル港に構築する液化天然ガスの輸出拠点への投資などを提案し、カナダへの経済効果は約860億加ドルと試算され、数万〜数十万の雇用創出が見込まれている。

韓国はKSS-III Batch-II(約3,600トン)を提案し、2032年までに1番艦を、2035年までに4隻の引き渡しを、残り7隻は年1隻のペースで引き渡すと確約、さらにオフセットとしてオンタリオ州最大の鋼鉄メーカー=アルゴマ・スチールへの計3.45億加ドルの投資、潜水艦関連サブシステムの現地生産や技術移転、五大湖地域最大のオンタリオ造船所とモホーク大学への造船技術(設計・生産計画、品質管理、スマート造船システム)移転、造船専門家訓練センターの設立、AI、次世代LEO衛星通信、電子光学・赤外線センサーなどの共同開発を提案し、カナダへの経済効果は約940億加ドルと試算され、年1.5万人〜2.2万人の雇用創出が見込まれている。

出典:TEAM 212CD

ドイツ案の強みはNATO規格に対する完全な互換性と欧州との関係強化で、弱みは現時点でType 212CDの現物が存在せず運用実績もない点だ。韓国案の強みはType 212CDよりもサイズと火力が優れるKSS-IIIの現物が存在し、KSS-III提案でカナダで潜水艦保守を担当しているバブコックと手を組んでいる点で、弱みはドイツ案よりも政治・地政学的な結びつきが弱い点だ。

これまで「カナダ潜水艦入札の勝者は2027年までに発表される」と報じられてきたが、カーニー首相は5月末「6月末までにハンファ案とティッセンクルップ・マリン・システムズ(TKMS)案のどちらを採用するか決定する」と述べ、両国はカナダ産業界に対する最後のアピールを行っている。

出典:Hanwha Ocean

韓国は現物がある強みを活かしてKSS-IIIをカナダ西部ビクトリアに寄港させ、カナダ海軍やメディア関係者を招待して潜水艦技術の優位性をアピールし、ドイツのピストリウス国防相は露骨に「重要なのはどれだけ大々的な広報活動を展開するかではない。あちこちに顔を出す表面的なアピールの問題ではなく、カナダとTKMSの間で極めて重要な取引に向けた協議が進行中であるという事実を明確に示すことが肝要なのだ」と牽制しており、韓国の派手なアピールにドイツは神経をとがらせているのが興味深い。

Type 212CDとKSS-III Batch-IIのどちらもカナダ海軍の要求要件を満たしているため、入札結果の行方は「納期」と「オフセット」に大きく左右され、特に後者は産業界の支持が政治家の判断に影響を及ぼすため、オフセット=防衛装備の輸入と国内雇用の結びつきに無縁だった日本人にとって理解しにくい構造かもしれないが、それでもブログを始めた7年前と比べるとオフセットに対する偏見(オフセットを要求するような面倒くさい国には売らなくていいとか、武器を売るのにどうして技術移転をしなくてはいけないのかとか、オフセットは貧乏国が要求するものとか)は確実に減ったような気がする。

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※アイキャッチ画像の出典:Hanwha Ocean

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