「それでも妻が大好きです」 不倫、自らの性的動画販売…奔放すぎる妻を殺めた夫の執着

性に奔放な妻に翻弄された夫は、執着の末に妻を殺害した

「今も妻のことを思っている。大好きです」。口論の末、17年間連れ添った妻=当時(49)=を包丁で刺して殺害したとして殺人の罪に問われた夫(49)は、法廷でこう口にした。それなのになぜ、妻を手にかけたのか。裁判で浮かび上がったのは、性に奔放な妻とのいびつな夫婦関係だった。

夜の生活マンネリ化に不満

大阪地裁で開かれた裁判員裁判によると、夫婦が結婚したのは平成19年。互いに再婚で、子供にも恵まれた。共働きで戸建ての家を持つなど、一見すると順風満帆な家庭。だが、夫婦にはある秘密があった。

夜の夫婦生活がマンネリ化している-。令和元年ころ、妻からこんな不満を打ち明けられた。そして、インターネットサイトで見つけた第三者の男性に、性的な行為に協力してもらうことになったという。被告人質問で夫は、妻の提案に困惑し何度も断ったが「応じなければ浮気する」といわれ、渋々従うことにした、と説明した。

妻の所持品に位置情報機器取り付け修羅場に

妻の望むままに生活する中で、今年1月、妻がネットを通じて出会った男性と不倫関係になっていることが発覚。さらに問い詰めると、妻は自身の性的な動画をネット上で販売していることなども明かした。

夫は裏切られた悲しみや、動画が拡散され家族の生活が脅かされる不安から、食事がのどを通らなくなり、酒をあおるようになった。それでも妻は動画販売を続けると言い張った。その後、夫が妻の所持品に位置情報を把握する機器を無断で取り付けたことが分かり、反発した妻は家を飛び出した。

《今まで本当に幸せな時間をありがとう》

《傷つけてしまって本当に最低な旦那でごめんなさい》

夫は「許せない」という気持ちを抱えつつ、愛する妻と一緒にいたいという一心で、ただただ自分を責めるメッセージを送信。だが翌日、自宅に戻った妻が切り出したのは、離婚話だった。

「勝手に死んだら」

夫は動揺し、台所から包丁を取り出して自身の胸に突きつけ、自殺をほのめかした。「愛情があるなら止めてくれる」。そう期待したが、妻から返ってきたのは「勝手に死んだらええやん」という辛辣(しんらつ)な言葉だった。

そこから先は記憶が定かでない。われに返ると、胸などに複数の刺し傷を受け、血まみれになって倒れている妻の姿が目の前にあったという。約1時間半、夫は茫然(ぼうぜん)自失の状態で過ごし、自身の母親に妻を刺したことなどを伝えるメッセージを送った後、自身の胸に包丁を突き立てた。傷は心臓に達したが、駆け付けた母親の通報で救急搬送され、一命をとりとめた。

裁判で検察側は、2人は「表面上の夫婦関係」で互いに貞操義務を放棄しており、夫は妻を責められる立場にないと主張。包丁を持ち出したのは話し合いではなく脅しであり、こうした態度が直接的には事件の引き金になったと指摘した。さらに犯行は激情に任せた短絡的なもので「動機や経緯に酌量の余地は皆無」と厳しく非難し、懲役15年を求刑した。

特殊な関係を酌量

8月7日の判決で山田裕文裁判長は、妻に翻弄された夫婦の状況を細かく認定した上で、それでも「被害者に生命を奪われるような落ち度はない」と夫を断罪。一方で「犯行前後の被告の心情が疲弊し切った状態にあり、犯行に及ぶ際の感情は単純な怒りのみでは言い表せないほど複雑」と分析し、こうした特殊性を踏まえると求刑は重過ぎるとして、懲役9年を言い渡した。

毎年結婚記念日は夫婦2人で旅行するなど、事件直前まで互いに愛情を抱いていると信じていた夫。その思いは一方的なものだったのか。夫は判決前の最終意見陳述で「事件直前まで妻の優しさを見てきた。憎いと思ったことは一度もない」と語り、「死ぬまで彼女を大切に思いながら反省して生きていきます」と声を詰まらせた。

検察側と弁護側の双方が地裁判決を受け入れ、判決は確定した。(倉持亮)

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