小浜の珍味「小鯛のささ漬け」は良いぞ! 明治の京都民は感動したはず / 曲亭馬琴も認知

福井県小浜市を取材中に、私は違和感を覚えていた。どうもこの地域では、レンコダイがマダイよりもビッグに扱われている感がある。

レンコダイとは、小鯛やバジロなどと呼ばれるタイの仲間。マダイより往々にして小型で、ピンク色が強いように思う。そんなに黄色くはない。

とてもおいしく、マダイと甲乙つけがたい魚だ。しかしマダイには縁起物というバフがかかっている。全国どこでもタイ科の王者はマダイ。それが日本。

だが小浜ではなぜかマダイを差し置いて、レンコダイがビッグな存在。マダイもとれるのに。首をかしげていると、ガチ福井民から興味深い情報が出てきた

・ささ漬け

小浜では、ささ漬けっていうのがあるんですよ」 詳しく聞くと、ここ小浜市ではレンコダイを塩と米酢締め、杉の樽に詰めた珍味が名物らしい。

現代では「小鯛のささ漬け」として売られているもよう。何かとレンコダイがセンターをはっているのはそういう関係か……。

こいつは発酵食品の扱いだが、そんなに長持ちせず、ほぼ鮮魚の鯛みたいな感じらしい。どういうことだろう。

調べると、農水省のHPに参考になる記述があった。「小鯛のささ漬け」の登場は明治時代後期だが

冷蔵技術が発達していない頃に塩漬けと酢漬けの2つの工程を絶妙に調整することにより、保存性を有しながらも生に近い風味を実現した” ということだそう。

またレンコダイについて “京で人気の魚種であった” とも書かれている。それなら保存ができるよう加工して鯖街道で京都まで輸送する需要もあったろう。

ちょっと待てよ。私たちの多くは、意図せずこいつを知っているかもしれない。

観光エッセイのベストセラー、曲亭馬琴の「羇旅漫録」だ。七十六「京地の酒樓」に “若狭より来る塩小鯛塩あわび”と書かれている。この塩小鯛は「小鯛のささ漬け」そのものか、その原点だろう。

若狭のレンコダイに関心を抱いたら、文学まで話が広がった。こういうことがあるから地方の歴史ある名物は面白い。ちょうどそこに丸海の「小鯛ささ漬け」がある。1836円だ。買ってみよう。

ところで、これって福井民はしょっちゅう食べるんですか? 件のガチ福井民に聞くと「そんなことは無いです(笑)」と正直に答えてくれた。

ですよねー! しかし福井民であっても、別の地域で見ることはそんなに無いもよう。小浜の名物なので、福井民同士でも小浜土産としてもらったりするとか。

福井民が福井民に贈ることもある名産品ということか。それは珍味レベルが高くて面白そうだ。やはり試さねばなるまい。

・生の刺身感

それでは開封の儀から。箱を開けると、紙で包まれた樽が出てきた。

紙の内側には食べ方が。刺身としてのほか、酢の物や吸い物など、多様な食べ方に対応できるそう。

樽の底にはプラスチックのカップが添えられており、染み出た液体が溜まっていた。汁が染み出るのは仕様だ。

樽のトップは木で栓がされている。

そんなに硬くないが、緩くもない。それなりに締まっている。

そして待望のレンコダイ。見た感じは、本当に生の鯛だな

臭いは特になく、身もしっかりしてハリを保っている。身の白濁具合に、酢で締めたことによるタンパク質の変性が見て取れるくらいか。

基本的に生の刺身という様相で、ビジュアルと香りともに発酵食品らしくない。食べると、さらなる驚きが待っていた。

_人人人人人人人人_ > 鮮魚感すげぇ <

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塩と米酢ということなので塩辛いか酸っぱいか、何にせよ保存食相応のフレーバーを予想していた。こいつは鯛風味と旨味だけエンハンスされている感があり、そのままでも美味い。

フレーバー面への樽詰めの影響はそれくらいで、レンコダイを使った別料理ではなく、鮮魚の刺身として楽しめる領域に留まっている!!

・画期的だったのでは

この味わいについて明治時代の消費者目線で考えると、とても感心できる。想像してみよう。京都に住んでいて、人気な若狭のレンコダイをふと食べたくなるわけだ。

しかし鯖街道を通ってやってくる魚介類は基本的に塩漬けか生干で、夏場は腐りがち。しかし、ささ漬けは鮮魚の刺身に近しい味わいを維持し、鮮魚の刺身に近しい状態で味わえる。

画期的な商品だ。海の鮮魚が貴重な当時の京都の食卓で、大いに喜ばれたのではないか。

鮮魚がどこにいても手に入る現代においても、これは土産としてとても魅力的だ。まずこの、木の樽入りという仕様。特別な食べ物という雰囲気がする。

そして味わい。これで寿司を握ったら、それも美味いだろう。今回は用意が無いのでそのまま食べているが、気持ちのいい弾力と、滲み出る旨味がたまらない。ああ、茶漬けも良いのではないか。

包み紙に書かれていた通り、様々な活用が可能だろう。全くの鮮魚の刺身よりも旨味が強まっている点が、可能性を広げていると思う。

参考リンク:農林水産省 執筆:江川資具 Photo:RocketNews24.

▼記事本編終了後の晩酌コーナー。こちらにガチ福井民こと、福井新聞社I氏から取材後に土産として頂いた「早瀬浦 大吟醸 さかほまれ」がある。

「さかほまれ」は、福井県が約10年かけて開発した新型の酒米。2019年から栽培が開始された。山田錦と越の雫をかけあわせたもので、澄んだ味わいと上品な香りに定評がある。

「早瀬浦」は皆さんもご存じでしょう。福井で日本酒を飲むなら、私の好みとしては「黒龍」か「一本義」か「早瀬浦」かみたいな。嘘です「梵」や「常山」も、他にも色々好きです。本当に美味い酒が多いんですよ。福井はね。

「早瀬浦 大吟醸 さかほまれ」は初めて飲んだが、これは美味い! 香りは洋ナシっぽい爽やかな感じ。口に含むと、まるで水の如き風味の透明度で、液体としての存在感が稀薄。

「磨かれた」という言葉がそのまま味になっている。しかし液体の通過と共に香りは強く感じられ、研ぎたての日本刀のようなキレと共に旨味が舌に深く浸透していく。こいつは良いぞ!

3月14日に早瀬浦を飲む私的な集まりがあるのだが、今年は「早瀬浦 大吟醸 さかほまれ」を持って行こうと思う。「小鯛のささ漬け」との相性もいい。ワサビ醤油でささ漬けを食べ、早瀬浦でキュッとやる。極上だ。

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