全国平均は70%超も大阪の公立高校には学校司書ゼロ 尾を引くのは16年前の「改革」

図書館司書業務を行う専任の学校司書を公立学校に置くことを努力義務と定めた改正学校図書館法の施行から10年が経過しても、大阪府の公立高校では学校司書が配置されないままとなっている。平成21年に当時の橋下徹知事が「身を切る改革」の一環として、専任司書を廃止したことが背景にあるが、全国では19県の公立高校で全校に配置、平均配置率も7割を超えるなど高い水準となっている。

文部科学省の調査によると、令和5年5月1日時点で高校における学校司書の配置状況の全国平均は71・6%。このうち、山形や栃木、滋賀など19県で全学校に司書を配置している。

全校に配置できている19県の中には学校数が50校に満たない自治体も多く、一概に比較はできないが、神奈川県では設置率100%となっているほか、学校数の多い東京都で97・3%、福岡県で99%となっており、同じく学校数が多い大阪府で0校というのは目立つ結果となっている。

大阪府教育庁などによると、府内の公立高校でもほぼ全校に選任司書が配置されていたが、財政難を理由に平成21年4月から廃止した。同年3月の府議会で当時の橋下知事は、「今の府の財政状況でやるべきことは山ほどある」と答弁、正当性を強調した。一方で、府監査委員が25年度に府立高校の約2割にあたる24校の図書館が、昼休みや放課後などに生徒が利用できない「開かず」の状態にあるとして改善を求めるなどしたこともあった。

そんな中、27年に改正学校図書館法が施行される。同法では「専ら学校図書館の職務に従事する職員」を学校司書と定義し、学校への配置を努力義務としたため、全国の自治体ではこれを受け、学校司書の配置を進めてきた。

学校司書のいない大阪の公立高校では、どうやって図書館業務を運営しているのか。

文科省によると、12学級以上ある学校には、学校図書館の専門的職務を担う司書教諭を置くと定められている。大阪府教育庁の担当者は「司書教諭を中心に学校図書館を運営している」と説明。現時点では、全府立高校で昼休みや放課後に学校図書館を開館できているとする。

一方で、司書教諭はあくまでも教諭で、学級担任や教科担任などが優先されることが多く、十分に司書業務が行えていないのではないかという指摘もある。

全国学校図書館協議会が昨年まとめた調査では、「司書教諭としての時間の確保ができる」と回答した教諭は高校で15%にとどまった。小中学校でも2割を下回る結果となっており、関係者は「司書教諭が身を切る努力をしているのかもしれない」としている。

大阪府の担当者も学校司書の必要性は認識しているとしており、国に対して財源措置などの要望を実施しているが、文科省の担当者は「財源には限りがあり、小中学校で司書が足りないところを優先している」として、現時点では大阪府の要望には応じない姿勢だ。

設置率100%の滋賀県

滋賀県教育委員会が学校司書を養成するために行っているサポーター養成講座の様子=今年8月(滋賀県教委提供、一部画像処理しています)

全日制44校と定時制・通信制併置校1校を合わせて計45の公立高校すべてに学校司書を配置している滋賀県。県教育委員会はその理由として「全校配置を基本としているため」とシンプルに説明する。

さらに、今年度からは県内の全19市町に学校司書が配置された。県教委によると、市町の学校司書は計125人で、1人で数校を受け持つやり方となっている。県教委は令和10年度までに県内自治体の全公立小中学校への学校司書の配置を目指すとしている。

そのために県教委が取り組んでいるのは学校図書館サポーター養成講座だ。徳島県や北海道などの先進事例を参考にして、6年度から始めた。

講座では本の並べ方など学校図書館の基本や、公立図書館とのつながり、学校が学校司書に求める役割などを中学校の校長経験者や識者などから学ぶスタイルで全7回。受講後は修了証が発行されるほか、市町が学校司書を募るときなどの参考にするため、希望する受講者は県教委が名簿に登録している。昨年度は大津市中心、今年度は同県東近江市を中心に、募集をしたが、いずれも申し込みが多く、すぐに定員に達したという。

県生涯学習課の担当者は「学校司書の育成は全県的な問題。いずれは養成講座を県内各地で開催できるよう調整していきたい」としている。

専修大・野口武悟教授(図書館情報学)「専任の司書は必要」

学校司書が配置された公立高校がゼロという大阪府の状況は全国的には珍しい状況だ。大学に入ると、図書館で情報収集をするのは当たり前になる。そのトレーニングという意味でも、高校でよりよい図書館環境を構築すべきだ。

学校の図書館は学習の拠点となる。学習指導要領などで「探究学習」が重視される中、本などの資料から情報を収集する力は求められている上に生徒全員が上手に図書館を使えるわけではない。生徒からのニーズにこたえていくためには、アドバイスができる学校司書という専門職は必要となってくる。

司書教諭は専任ではなく通常業務にプラスアルファで司書業務をしている場合もあり、機能しているかどうかの判断が難しい。司書業務は、本の貸し出しに加え、本の分類や図書館環境の整備、新入生への利用指導などさまざまだ。業務量を考えると、両立は大変で教員の頑張り、努力によって支えられているのではないか。それを考えても、専任の学校司書は必要となるだろう。

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