米陸軍、30年ぶりにパトリオット迎撃ミサイルのPAC

RTXは「パトリオット迎撃ミサイルに対して30年ぶりとなる国内からの発注があった」と明かし、米陸軍は契約した新規製造のPAC-2 GEM-Tを5ヶ月後に取得する契約を結んでいるため、忖度なしで言えば同盟国やパートナー国向けに生産しているPAC-2 GEM-Tを取り上げる可能性が高い。

参考:U.S. Army Is Buying Older PAC-2 Patriot Missiles For The First Time In Decades 参考:Lockheed Martin cannot say when US allies will get Patriot missiles

現在、生産されているパトリオットシステムの迎撃ミサイルには「MIM-104E PAC-2 GEM-T」と「MIM-104F PAC-3 MSE」があり、前者はMIM-104D PAC-2 GEMをアップグレードして戦術弾道ミサイルの迎撃に最適化したものが、これはあくまで「PAC-2 GEMに比べて戦術弾道ミサイルへの対応能力が向上した」という意味であり、特にPAC-2 GEM-TはPAC-3 MSEが採用している姿勢制御モーターではなく従来の空力制御のみで機動するため、複雑な軌道で目標に接近してくるイスカンデルMの迎撃に効果的だとは言い難く、弾頭の爆風・破片効果で確実に迎撃できるのは有人機、無人機、ヘリコプター、巡航ミサイルぐらいだろう。

出典:NATO Support and Procurement Agency

米陸軍も保有する旧型PAC-2をPAC-2 GEM-Tにアップグレードしたものの新規調達はPAC-3 MSEのみで、RTXが新規生産するPAC-2 GEM-T(年240発/月20発)は同盟国やパートナー国のニーズに対応するもので、MBDAとRTXはまもなくPAC-2 GEM-Tのドイツ生産を開始し、2027年までにPAC-2 GEM-Tの生産能力を年420発まで引き上げる方針だ。

どれだけPAC-2 GEM-Tのバックログが積み上がっているかは不明だが、NATO支援調達庁が2024年1月に加盟国分の発注を一本化して1,000発、ドイツが2026年4月にウクライナ支援として37億ドル分(推定600発以上)、ポーランドが2026年6月に9億8,800万ドル分(推定200発以上)を発注しているため、最低でも2,000発近いバックログが積み上げっている計算で、これを全て処理するには2030年前半ぐらいまでかかるだろう。

The U.S. Army awarded Raytheon a $442 Million contract modification on April 30, 2026, for PATRIOT PAC-2 GEM-T missiles in support of Operation Epic Fury. Looks like the Army is scooping up ‘in-production’ GEM Tangos straight off Raytheon’s production line. Work completion on… pic.twitter.com/QaMiDDMBab

— Air-Power | NatSec Ledger (@NatSecLedger) May 2, 2026

RTXは四半期決算説明会で「200億ドル近い受注を獲得し、この中には50億ドルを超える海外顧客からのPAC-2 GEM-T発注と、30年ぶりとなる国内からのPAC-2 GEM-T発注が含まれる」と明かし、米陸軍は4月に対イラン作戦=エピック・フューリー作戦を支援するため4億4,160万ドルの契約をRTXと締結しており、この作業の完了は2026年9月30日を予定しているため「新規発注したPAC-2 GEM-Tを5ヶ月後に受け取る」というのは到底不可能で「現在の生産ラインに流れている同盟国やパートナー国向けのPAC-2 GEM-Tを米陸軍向けに振り替える」と解釈するのが妥当だ。

忖度なしで言えば「自国の安全保障に影響を及ぼす事情があれば対外有償軍事援助(FMS)で合意された武器取引の条件から逸脱することができる権利を行使し、同盟国やパートナー国向けに製造されているPAC-2 GEM-Tを取り上げて米軍備蓄を回復させる」という意味で、同盟国やパートナー国向けに納品するはずだったPAC-2 GEM-Tは1から生産し直す必要があり、納期は遅れ、上昇する生産コストも発注国が負担しなければならない。

出典:Lockheed Martin

ちなみにFinancial Timesは6月「ロッキード・マーティンのブライアン・ダン副社長はベルリン国際航空宇宙ショーで『需要が急増するPAC-3 MSEの増産に取り組んでいる』と述べたが、パトリオットシステムを運用するドイツ、日本、ポーランド、アラブ首長国連邦、サウジアラビアなどの同盟国に対して厳しいメッセージを送った」と報じている。

“生産能力の拡大によってユーザーの要求をより迅速なスケジュールで満たすことが出来るようになるものの、我々はミサイルの割り当てをコントロールすることはできない。各ユーザーが(優先順位)リストのどの位置にいるかを話すことは出来ない。国防総省から発注順序の変更や再編、そして誰が最初にミサイルを受け取るかについて様々な話が飛び交っている。我々はそういったことを一切コントロールできる立場にない”

出典:Lockheed Martin

ロッキード・マーティンのポーラ・ハートリー氏も「ユーザーは製品の遅延や入手困難な事態が生じることに苛立ちを覚え始めており、場合によっては米国政府に対しても不満を抱いている。その不満は理解できるが、我々はただ約束を確実に果たせるよう地道に任務を遂行し続けるだけだ」と述べており、TWZも「パトリオットシステム本体だけでなく、パトリオット迎撃ミサイルのサプライチェーンへの負荷が現在や将来の顧客に問題を引き起こしている」「ロッキード・マーティンはドイツ、日本、ポーランド、アラブ首長国連邦、サウジアラビアに対してもPAC-3納入に関する潜在的な不確実性について警告した」と指摘した。

例外的に日本はPAC-3 MSEのライセンス生産が認められ、三菱重工業が自衛隊向けに生産(年30発程度)しているものの、シーカーだけは技術移転が許可されていないためブラックボックスとしてボーイングから供給を受けており、日本もシーカー供給の部分で潜在的な不確実性に直面しているのかもしれない。

The simple fact of the matter is that no alternative country or countries can compete with the U.S. defense industrial base, either in quantity or quality. The United States, as the President says, makes the best equipment, and we make it at a scale that no plausible competitor…

— Under Secretary of War Elbridge Colby (@USWPColby) July 14, 2026

そして潜在的な不確実性はトランプ政権の意向が反映された優先順位リストに大きく左右され、トランプ大統領は2月に署名した米国第一主義の武器移転戦略の中で「同盟国やパートナー国に購入を推奨する米国製武器の販売カタログを作成し、国防支出を増やした諸国の資金を米産業能力の構築に活用し、将来の武器売却において米国の優位性と利益を確保する」「諸国への武器売却は国防支出の増額をどれだけ達成したかで優先順位付けを行う」と宣言しており、ヘグセス国防長官も5月のアジア安全保障会議で「国防費のGDP比3.5%引き上げ要求を拒むなら明確な変化に直面する」と警告。

エルブリッジ・コルビー国防次官も7月「率直にいって量においても質においても米防衛産業に匹敵する国は存在しない。大統領が言うように米国は最高の装備品を作っており、競争相手が到底敵わない規模で生産している。どちらかと言えば米国防衛産業へのアクセスは権利ではなく特権なのだ」と言及し、これは「同盟国だから米国製システムを買えて当たり前と思うな」「米国が与える最高レベルの軍事技術に対するアクセスや兵器を売ってもらえるのは特別な恩恵だと思え」という意味で、現在の米国ではこういった考えの下で同盟国やパートナー国が発注した武器・弾薬の納入順位や納期が決められている。

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※アイキャッチ画像の出典:RTX

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