東京エレクトロン、半導体「1ナノ」へ新開発棟 AI進化継続へ装置磨く

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東京エレクトロンは15日、熊本県で半導体製造装置の新開発棟の竣工式を開いた。前工程の中でも同社が独走する主要装置を開発する。現在の最先端品を上回る回路線幅「1ナノ(ナノは10億分の1)メートル」の半導体の実現に向け、顧客の半導体メーカーと連携する。現在の独占的な地位を固めつつ、人工知能(AI)の性能向上につなげる。

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台湾積体電路製造(TSMC)やソニーグループの工場が並ぶ熊本県の工業団地で、同日、竣工式の神事が執り行われた。新しい研究開発棟には470億円を投じた。延べ床面積が約2万7千平方メートルの4階建てで、2026年春に稼働する。

記者会見で、生産子会社の東京エレクトロン九州(熊本県合志市)の林伸一社長は「1ナノ以降も見据えた装置開発を目指していく」と強調した。

熊本での開発能力は従来比で4倍に引き上げる。今後、空調設備などを導入し、最新の半導体工場を模したクリーンルームを設置する。顧客の半導体メーカーを交え、半導体製造のデモや新装置の評価をして実用段階までもっていく。

熊本では半導体ウエハー上に感光材(フォトレジスト)を塗布するコータ・デベロッパ(塗布現像装置)を主に開発・製造している。微細化のカギを握る主要工程である露光の前後に使う装置で、先端領域ではライバル不在の独占状態だ。

同社の塗布現像装置は、高速回転するウエハーに感光材や現像液を均一に塗布する技術に強みがある。半導体の良品率を上げるには高い精度を維持することが必須で、微細化技術に欠かせない。

現在、世界最先端の半導体はTSMCが25年内に量産を始める2ナノだ。さらにTSMCは28年に1.4ナノの量産を始めるとしている。

1ナノ以降の半導体は30年以降に普及するとみられている。1つのチップの上で動くトランジスタ(半導体素子)をより多く載せられ、たとえば生成AIの反応速度や自動運転の走行精度のさらなる向上につながる。

半導体の集積度が2年で2倍になるという「ムーアの法則」が微細化技術の指針となっていたが、物理的な限界に近づいているとされる。東京エレクトロンは最先端の「EUV(極端紫外線)露光装置」を世界で唯一手がけるオランダのASMLや、ベルギーの国際研究開発機関imecと協力して限界に挑む。

東京エレクトロンは熊本のほか、顧客の工場近くに設けた海外の開発拠点で半導体メーカーと密着し、10〜15年後の4世代先まで見据え同時並行で開発している。顧客の課題や開発動向を把握することで、継続して自社の装置を採用してもらう狙いだ。

微細化によって製造工程が複雑になると、より多くの薬剤が必要になる。今後は装置の薬剤や水の使用量削減、省エネといった環境技術を磨き、先端半導体の製造コストの削減にもつなげる。

東京エレクトロンは半導体製造の核となる「前工程」のうち成膜や塗布現像、エッチング、洗浄の4工程でシェア1位や上位の装置を手掛けている。幅広い商品群を強みとする一方、回路を形成するエッチング装置などでは競争が激化している。

開発力を高めて塗布現像装置での盤石な地位を固め、エッチングなどでの巻き返しにつなげる。

足元の業績には減速感が出ている。顧客の投資見直しや中国での半導体製造装置の販売減速などで、26年3月期は期初予想から一転、最終減益を見込む。中長期でAI需要が伸びるとの見方は変えず、成長投資は続ける方針だ。29年3月期までの5年間で過去5年の9割増となる1.5兆円以上の研究開発費を投じる。

ただ、足元では最重要顧客の一社であるTSMCとの関係が影を落とす。台湾の検察当局は8月、TSMCの2ナノ技術に関する営業秘密を不正に使用したなどとして、東京エレクトロンの台湾現地法人に在籍していた元社員を含む元技術者らを起訴した。

情報漏洩を巡ってはTSMCへの賠償が生じる可能性もくすぶる。東京エレクトロンは今回の件に関して「業績への影響はない」と言うにとどめている。緊密な協力体制を揺るがしかねず、対応が急務となっている。

(薬文江)

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