鋼鉄のように強く、しかもめちゃ軽い木材「スーパーウッド」が建築を変える?
待って。その木は何で切ったらいいの? ちょっと削りたいときはどうすれば? 気になる…。
木材のように見えて、鋼鉄のように強い。そんな夢のような素材が、ついに市場に登場しましたよ。
メリーランド大学(UMD)の研究チームが天然木材の12倍の強度と10倍の靭性(壊れにくさ)を備えた木材の製造法を発見してから6年。ついにUMDのスピンオフ企業であるInventWoodが「スーパーウッド」の商業販売を始めたとCNNが報じました。
同社は、この新素材が将来的に鋼鉄やチタン合金と競合することを夢見ています。
鋼鉄並みに強いのに低コストなスーパーウッド
2018年に科学誌Natureに掲載された論文で、研究チームは
「天然木材は低コストで豊富に存在する材料であり、何千年もの間、建築や家具の材料として使用されてきました」
とした上で、天然木材をそのまま高性能な構造材に変えるシンプルで効果的な方法を発見したとしています。それによって、強度、靭性、耐弾性が10倍以上に向上し、寸法安定性も高まるとのこと。
スーパーウッドは、鋼鉄と同等の強度を持ちながら、重量は6分の1。しかも、破壊するには天然木材の10倍のエネルギーが必要です。
研究の主執筆者であり、InventWoodの共同創業者でもあるLiangbing Hu氏によると、スーパーウッドはカーボンファイバーに匹敵する性能を持ちながら、低コストなのだそうです。
製造工程では、木材のリグニン(木材を硬く褐色にする成分)を除去し、66度の熱を加えながら圧縮します。この工程でセルロース繊維が極めて密に固められ、穴や節などの弱い部分が圧着されて、木材の厚みが5分の1まで薄くなります。最後に塗装を施して完了です。
研究チームによると、この圧縮によって木材の繊維同士が強力な水素結合を形成するのだそう。大学の声明は、「まるでぎゅうぎゅう詰めの人たちが手をつないでいるような状態」と表現しています。
スーパーウッドの強靱さは特筆もので、弾丸のような投射物を撃ち込んでも、貫通せずに途中で止めたといいます。
現在、エール大学で材料科学を研究するHu氏は、声明で「松やバルサのような成長が早く環境に優しい軟材は、チーク材のような成長が遅くて密度が高い木材に代わって、家具や建築物に使用できる可能性があります」と述べています。
しかし、チームの野心はもっと大きいようで、
「この種の木材は、自動車や航空機、ビルなど、鋼鉄が使用されるあらゆる用途に活用できるでしょう」
と付け加えています。木造の車や飛行機…?
鋼鉄のような木材は低炭素
Inventwoodは、最初の商業生産施設をメリーランド州フレデリックに構えました。CNNによると、同社はまずデッキなどの屋外用建材を手がけてから、フローリングや家具などの内装へと展開する計画を立てています。
同社はまた、現時点におけるスーパーウッドの製造プロセスについて、通常の木材よりも高コストで炭素排出量も多いものの、鋼鉄と比較すると90%以上排出量が少ないと主張しています。
しかし、InventWoodとは関係がないニューサウスウェールズ大学(オーストラリア)の建築家であるPhilip Oldfield氏は、同社が直面する別の課題を指摘します。
同氏はCNNの取材に対し、「木材建築を普及させる際の障壁は、強度不足ではありません。建設業界がリスクを避けたがり、変化の速度が遅いことが真の障壁です」と述べています。
さらに、建設業界で木材の利用を増やすには、実証プロジェクトや業界に対する教育、規制の枠組みの改善が必要だとも話しています。
それでも、Oldfield氏は、スーパーウッドの可能性について次のように語っています。
「スーパーウッドのような高強度の木材があれば、建築家はより大きな構造物を設計したり、耐久性の高い仕上げを施したりできるようになります。これは業界にとって有益で、木材のさらなる普及を促す可能性があります。」
スーパーウッドが低迷する建設業界に革命を起こす力を秘めているのかどうか、楽しみに見守りたいと思います。