M7級、首都圏全域で発生の可能性 「首都直下地震」新たな被害想定をグラフィックで解説

政府の中央防災会議の作業部会が19日に公表した首都直下地震の新たな被害想定は、都心南部直下でのマグニチュード(M)7級および相模トラフ沿いでの大正型関東地震のM8級を基に算出された。このうち都心南部直下地震は、多摩川下流付近に震源を設定。都心の大半や東京湾岸などで震度6強以上の強い揺れとなり、首都圏の広い範囲で大きな被害が予測される。

死者1.8万人 新たな被害想定、半減目標届かず

「今後30年間で70%程度」

M7級は都心南部直下に限らず、首都圏全域で発生する可能性がある。政府の地震調査委員会は、関東地方南部の直下でプレート(岩盤)の沈み込みに伴うM7級の地震が発生する確率について、発生場所を特定せずに「今後30年間で70%程度」としている。

内閣府の有識者会議は、M7級として都心南部直下を含む計19種類を例示。地域ごとに最大の揺れや被害が想定される地震の種類は異なり、多くの自治体で最大震度が6強以上とされた。

一方、相模湾や房総半島沖に延びる相模トラフ沿いでのM8級の大正型関東地震は、約100年前の関東大震災を念頭に置く。揺れに加えて大津波にも警戒が必要で、特に神奈川、千葉両県や伊豆諸島では数分で到達するケースもあり、迅速な避難が求められる。

帰宅困難者、都内だけで480万人

都心南部直下地震で震度6弱以上となる地域は、東京、神奈川、千葉、埼玉の1都3県では全面積の約4割を占める5000平方㌔に達する。都心では東京湾岸や河川沿いに加え、昔は入り江だった日比谷、丸の内周辺などの地盤が弱い地域で特に揺れが強く、東京都江東区の一部は震度7となる。

人的被害は地震発生時の季節や時間帯、風速によって差がある。最悪の場合、都内で死者が最も多いのは揺れや建物倒壊などで4600人(冬・深夜)。火災の4200人(冬・夕、風速毎秒8メートル)が続き、ブロック塀転倒なども300人(冬・夕)に上った。前回想定との比較では火災による死者の減少が目立つが、依然として課題は大きい。

建物被害も甚大だ。都内で全壊棟数が最も多いのは火災で10万1000棟(冬・夕、風速毎秒8メートル)。次いで揺れが7万棟、地盤の液状化も4800棟に上り、いずれも地震が発生したタイミングは問わない。東京湾岸では岸壁や石油コンビナートが被害を受ける。

首都圏のJRや私鉄は全線が不通となり、特に震度6弱以上の地域では運転再開まで時間を要する可能性がある。道路の被害なども含めた交通網の寸断により、平日の正午に地震が発生した場合、帰宅困難者は都内だけで480万人と想定された。

羽田空港では滑走路4本のうち1本で一部が使用不能となる可能性があり、新幹線も東京から小田原、小山、熊谷の各駅までは不通となる恐れがある。

津波到達は最短1分

津波については、大きな津波を伴うM8級の海溝型地震として、1923年の大正関東地震と、揺れは小さいが大きな津波を起こす津波地震だったと指摘される1677年の延宝房総沖地震の2種類を念頭に置いた上で、中長期的な防災・減災対策の対象とした。

大正型関東地震では、相模トラフに直面する相模湾や房総半島南部の沿岸に、ごく短時間で津波が押し寄せる。高さ1メートルの津波が到達する時間は神奈川県小田原市で最短1分、千葉県館山市、静岡県熱海市、東京都大島町などで3分。高さは館山市と神奈川県三浦市で最大10メートルに達するほか、千葉県から静岡県にかけての各地で5メートル以上とした。

延宝房総沖地震タイプの津波の高さは千葉、茨城、福島各県の沿岸の一部などで10メートルを超える。特に千葉県銚子市では最大18メートルに達する。東京湾内は、ほぼ2メートル以下とされた。

相模トラフ沿いでは、東日本大震災を受け、あらゆる可能性を考慮した上での検討も行われた。最大クラスの地震が起きた場合、津波は高い場所で20メートル以上となる。

一方、M7級の地震でも津波が発生する可能性はあるが、東京湾内はいずれの場合も1メートル以下とされた。

直下型19種類、海溝型はM8級

首都直下地震の新たな被害想定で検討対象となったのは、M7級の19種類の地震とM8級の海溝型地震だ。

M7級のうち、首都機能が直接的な打撃を受ける都区部の直下地震は都心南部▽都心東部▽都心西部|の3種類を想定。ライフラインが被災して首都機能が間接的な打撃を受ける、首都圏の中核都市などの直下地震は東京湾▽横浜市▽川崎市▽千葉市▽羽田空港▽成田空港▽立川市▽市原市|の8種類を想定した。計11種類の地震の規模はM6・8~7・3で最大震度は7としている。

また、首都圏が乗る陸側プレート(岩盤)と、その下に沈み込むフィリピン海プレートの境界で起きる地震は茨城県南部▽茨城・埼玉県境|の2種類を想定。主要活断層の活動によって生じる地震は立川断層帯▽深谷断層帯▽綾瀬川断層▽三浦半島断層群▽伊勢原断層帯|の5種類。他に伊豆半島東方沖の地震で西相模灘の地震を想定した。これら計8種類の地震の規模はM6・8~7・6で、今後30年以内の発生確率は0~11%とされた。

一方、M8級の海溝型地震は、過去に相模トラフ沿いで起きた関東地震や、日本海溝付近で起きた延宝房総沖地震を念頭に置いた。地震の規模は元禄型関東地震がM8・5、大正型関東地震がM8・2、延宝房総沖地震タイプがM8・5としている。

元禄型の発生間隔は2000~3000年で直近は1703年に起きており、今後30年以内の発生確率はほぼ0%とされる。一方、大正型は発生間隔が最短で180年とされ、1923年の関東大震災から既に100年以上が経過。今後は発生の可能性が高まるとしている。延宝房総沖地震タイプは繰り返しの発生が確認されていないが、油断は禁物だ。(小野晋史、伊藤壽一郎、松田 麻希、黒田悠希)

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