【解説】 ホルムズ海峡めぐる対立、米イラン合意の弱点があらわに
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アメリカとイランが6月に暫定合意に署名して以来続いてきた、「戦争でも平和でもない」もろい状況は、今や戦争に傾いたようだ。
断続的な休戦が、また復活する可能性はある。いらだちをますます募らせるアラブ諸国とパキスタンの仲介を通じて。そして、長期的な全面戦争には逆戻りしたくないという、アメリカとイランの双方の意向によって。
しかし、両国の間の最大の亀裂は、戦略的に重要なホルムズ海峡の地位をめぐる問題だ。イランは、この重要な水路を自国が管理する権利は、軍事・経済・外交のどのような圧力を使っても突破できないものであり、決して越えられない明確な一線なのだと、あらためて明示している。
イランの国会議長で、アメリカとの交渉団を率いるモハマド・バゲル・ガリバフ氏は12日、覚書の文面を引用しながら、「約束を守るか、代償を払え」とソーシャルメディアに書いた。
イラン政府は、この主張の根拠は、6月に急いで作成された了解覚書と呼ばれる合意の非常に曖昧な詳細の中にあるとしている。
イランは、海峡は自分たちが管理するのだと主張し、その根拠に、14項目からなる覚書の第5項を挙げる。第5項には、「イラン・イスラム共和国は、商船の安全な航行のため、最善の努力を尽くして手配を行う」と書かれている。
アメリカはこの文言について、世界の石油・ガス供給に加え、肥料の原料など重要な物資の自由な流通のため、戦略的に重要なこの海峡をイランは開放しなくてはならないという意味だと解釈している。
「(覚書の)項目にはどれも、トラックが通れるほどの大きな穴があいている」と、湾岸地域で働くアラブの石油会社幹部は評した。
数週間にわたる全面戦争、そして米・イスラエルによる相次ぐ幹部暗殺を経て、イランには新しい指導部が誕生した。その政権は、イスラム共和国の今後に向けた大まかな戦略的ビジョンについては、一致しているように見える。しかし、今後の進み方をめぐっては、意見の相違が明らかになり、その食い違いは大きくなりつつある。
「戦場での成果を、外交によって利益につなげようとする意見がある。一方、停戦は時期尚早だった、イランがアメリカにもっと打撃を与えてから停戦するべきだったという意見もある」と、NGO国際危機グループのロバート・マリー氏は分析する。マリー氏は、2015年の画期的なイラン核合意を交渉したアメリカ代表団の一員だった。トランプ氏は第1次政権で、この核合意から離脱した。
イランは最近、オマーン南部沿岸に近い航路を航行中のカタール船籍の液化天然ガスタンカーを含む3隻の船舶を攻撃した。これについてこの地域の外交筋は、これはイスラム革命防衛隊(IRGC)内の「暴走部隊」がしたことだと話した。
イランでは今や、IRGCが圧倒的な役割を担うようになった。そしてそのイランは現在、船舶は指定された航路を順守しなくてはならないという点を、譲れない一線と位置づけている。
この緊張激化の砲撃音から遠く離れた場所で、イランの国会は13日夜、「ホルムズ海峡およびペルシャ湾の安全保障と持続可能な発展のための戦略的行動」と題する、海峡管理に関する新たな法案をさりげなく提出した。
イランがいつ管理権を手放すのかと私たちが質問すると、委員長は「決して手放さない」と、短く鋭く答えた。
ホルムズ海峡の管理権は「敵に立ち向かうための資産」だと、委員長は表現した。
イランは、アメリカと交渉中に戦争や脅迫が繰り返された経験から、アメリカの約束を全く信用していないし、決意を固めている。
イランは海峡の管理権を、行き詰まった現状における交渉材料としてだけでなく、新しい影響力、新しい抑止力として認識している。制裁が解除されず世界中で自分たちの資産の凍結が続く場合は、海峡の管理権は自国にとって経済的な生命線にもなると捉えている。
しかし、イランが地域のルールを書き換えようと決意を固めるなか、同国と、今回の危機で仲介役として大きな役割を果たしてきたカタールをはじめとする近隣諸国との間に、そしてイランの長年の同盟国として舞台裏で役割を果たしてきたオマーンとの間に、緊張が走っている。
海峡通航にイランが何らかの「サービス料」を課すなどといった、イランが海峡管理権を主張する計画について、アラブ首長国連邦(UAE)などの湾岸諸国は容認できないし、容認すれば危険な前例になると、反対姿勢をこれ以上ないほど明確に示している。
交渉の関係者によると、イランが覚書の第5項目に盛り込んだ、「ホルムズ海峡の今後の運営および海上サービスを定義するため、イラン・イスラム共和国はオマーン・スルタン国と対話を行う」という文言に、オマーンは異議を唱えたという。
オマーン政府は今や、アメリカとイランの意向の板挟みになっている。なにより、湾岸地域の外交を舞台裏で仲介してきたという自国に対する長年の評価を、オマーンは維持したいのだ。
「オマーンは、良好な近隣関係を維持しようとして、これまでイランに対して非常に忍耐強く対応してきた」。オマーンのアナリスト、アブドラ・バーブード教授はBBC番組「ニューズアワー」でこう話した。
「今回の出来事を受けて、オマーンはかなり強い姿勢を取らざるを得なくなった。(中略)それでも私たちは、対話によってこの紛争が解決されることを望んでいる」
一部の識者は今なお、最終的に妥協が成立する可能性はわずかながらあると見ている。
2015年の核合意交渉でイギリス代表団の一員だった元外交官のサイモン・ガス氏は次のように話す。
「素晴らしい解決策は今のところないと思う。しかし、海峡を通過する船舶に通行料を課さない一方で、イランが権威の維持を示せるよう、何かしらの貨物運搬料をとれるようにするなど、そういう取り決めがあり得るかもしれない」
イランとアメリカは根本的に相手を読み違えた。それが、今回の紛争の背景にある。
双方とも、この戦争で優位に立ったのは自分だと考えている。双方とも、相手はその弱点ゆえに先に譲歩するしかないはずだと考えている。
イランには「痛みを吸収する力」があると、以前からそう指摘されてきた。
両国の覚書に基づき、アメリカはイランの石油輸出制裁を一時的に免除した。このチャンスをイランは有効活用したが、アメリカはすでにその制裁免除措置を撤回している。
イランを最近訪れた際に私たちは、深刻化する経済・金融危機が国民生活にどれほどの悪影響を与えているかを目の当たりにした。インフレ率は驚異的な80%にまで急上昇している。この紛争の影響に加え、史上最長のインターネット遮断によって、数百万もの雇用が失われた。
経済危機に加えて、イランは1年足らずの間に二つの戦争を経験している。さらに大規模な反政府デモが鎮圧され、数千人が死亡した。
トランプ大統領自身も政治的、経済的な圧力に直面している。それだけに、アメリカの交渉団も、たとえ出たり入ったりだったとしても、交渉の場に戻る可能性はある。
この戦争によってホルムズ海峡という重要な水路が閉ざされ、それに伴う危機が、停戦交渉の中心になってしまった。おかげで、イラン核開発計画のあり方という核心的な問題についての議論が、ほとんど不可能なってしまった。
覚書には、集中的な交渉のための60日間という期間が盛り込まれていた。しかしそれはそもそも現実的ではなかった。これもまた弱点の一つだ。
「どちらの側も、完全に自分たちの思い通りにはいかないのだと、すぐに分かるはずだ。なので、停戦の覚書が何らかの形で復活する可能性は、十分にあると思う」と前出のマリー氏は述べた。
「しかし、双方の機能不全を考えると、完全に回復するとも思えない」