米雇用統計が悪化、日経平均4万割れ:識者はこうみる
[4日 ロイター] - 7月の米雇用統計で労働市場の減速が示され、米国の株式市場は下落、4日の東京市場でも日経平均が4万円を割り込んだ。
市場関係者に見方を聞いた。
◎ドル下値めど145円、円安圧力が下支え
<みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏>
今回の米雇用統計は大幅に悪化した。非農業部門の雇用者数は予想を下回り、過去分も下方改定された。結果、この3カ月間で雇用者数は毎月3.5万人しか増えていなかったことになった。5月以降の減速が顕著だ。
この3カ月間の雇用者数を部門別で確認すると、財の減少が目立ち、サービスは増勢が維持されている。しかし、サービスの増加は民間教育・医療部門の影響が非常に大きく、それ以外の部門は減少した。同部門が相対的に堅調なのは、トランプ関税の影響を直接的に受けないためだろう。
仮に同部門の雇用者数を除いてみると、この3カ月の非農業部門雇用者数は平均3.2万人の減少となる。4月まで堅調だった米労働市場の激変は、トランプ関税の影響がわかりすぎるほど表れているといえる。
急落したドルの当面の下値めどは、実需の買いが集まりやすい145円付近とみている。雇用統計は厳しい内容だったが、日本の貿易赤字や対外投資などによって作られた構造的な円安圧力に変化はなく、ドルの大幅な下げは見込みづらい。海外勢の間で、日本の政治を不安視する声が多いことも、円安圧力を支える一因となる。
◎9月利下げにサプライズ無し、時期や深さが今後の焦点
<りそなホールディングス 市場企画部チーフストラテジスト 梶田伸介氏>
パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は先週、連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で労働市場のダウンサイドリスクに繰り返し言及して雇用に慎重な姿勢を示しており気になっていたが、今思えばこの雇用統計についてある程度把握してのことだったのかという気がする。マーケットは当時、議長について「煮え切らない態度だ」との見方が強かったが、本人は9月の利下げも想定していたのだろう。その意味では、FRB内で9月利下げはサプライズということはなく、基本的に粛々と進めていくものと考える。
雇用統計を受けて金利先物市場では9月の利下げ織り込みが急速に進んだ。マーケットでは今後、例えば9月に50bpの利下げ、あるいは9月に続いて10月も利下げがあるのでは、など、利下げのタイミングや深さが焦点になっていくとみている。
われわれは従来から9月に25ベーシスポイント(bp)、12月に25bpの利下げをメインシナリオとしているが、引き続き、関税のインフレに与える影響を見極めながらの「緩やかな利下げ」を想定する。
今後は物価指標を見極めながらの展開となるだろう。ただ中期的にはインフレ期待の上昇を含め、FRBの独立性がテーマになってくる可能性がある。
◎米株反動売りの口実に、米CPIが次の焦点
<野村アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 石黒英之氏>
米雇用統計に対する米市場での株安の反応が大きくなった背景には、株価が全体的に安値から戻してきていた反動があったのだろう。ナスダック総合は安値から36%、S&P500は27%上昇してきており、ある程度の調整は仕方がない。
雇用の急減速とインフレへの懸念がくすぶることで、スタグフレーション的な側面が意識されている。今後の焦点は12日発表予定の消費者物価指数(CPI)になる。関税に伴って財価格のインフレ圧力は高まる一方、サービス価格のインフレが落ち着いてきている。これが緩衝材になり、インフレ圧力は限定的と予想している。
市場もどんどんインフレになるとは見込んでいない。市場予想の期待インフレ率は2年、5年、10年とも抑制された状態にある。米連邦準備理事会(FRB)はインフレを警戒しつつも、雇用最大化に軸足を置くだろう。9月の米利下げの確度は高まっている。株価の下支えになり、さほど下方向を試す感じではない。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab