[社説]震災15年の教訓を「事前復興」の糧に

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未曽有の津波災害と福島第1原子力発電所事故に見舞われた東日本大震災から15年を迎えた。かけがえのない人を失った悲しみはいくら歳月を経ても完全に癒えることはない。2万人を超える犠牲者に心からの哀悼をささげたい。

今後想定される巨大地震の影響を最小限に抑えるには、被災後の街づくりをあらかじめ考えておく「事前復興」が大切だ。15年の節目は復興の歩みを見つめ直すよい機会である。その教訓を事前復興の糧にしなければならない。

津波の被災地ではいま、人口減少が進み、復興事業で造ったインフラの維持管理費が自治体の財政に重くのしかかっている。日本経済新聞の調査によると、被災自治体の年間の維持管理費は震災前の1.8倍に増えた。

災害は人口流出を速めるが、各地の復興計画は人口減少を直視できなかった。加えて当初は自治体に財政負担がなく、投資が過大になったことは否めない。

南海トラフ巨大地震や首都直下地震などが起きた場合、こうした事態を避けるにはどうすればよいか。東北各地で復興にあたった当時の首長の多くが教訓として口にするのが事前復興である。

来たるべき地震に備え、被害想定をもとに、住民に被災した場合もこの地に残るかを聴き、それを踏まえて住宅や公共施設などの規模や予定地を議論しておく。用地の権利関係の調整や取得まで済ませておければなおよい。それによって復興が迅速に進み、住民の流出を抑えることが期待できる。

たとえ被災しなくても、この取り組みは人口が減る街の将来像を考える機会になる。これをきっかけに居住地の集約などが進めば地域の持続可能性は高まる。災害に備えのある地域ほど人口減少にも耐性があると考えるべきだろう。

もっとも現状は目の前の業務に手いっぱいで、事前復興計画を作成した自治体が1割にも満たないのは残念だ。年内に発足予定の防災庁は、被害を減らすため事前防災を徹底し、復旧から復興まで一貫して担うという。事前復興もしっかり支援してほしい。

災害への備えは経済効果につながることもある。静岡県伊豆市の海水浴場には1200人収容の津波避難タワーを兼ねた商業施設がある。南海トラフ地震臨時情報の際も海水浴場を閉鎖せず、ほかの地域から観光客を集めた。

地域活性化にも役立つとなれば取り組みに弾みがつこう。手法にも知恵を絞り、平時から準備する裾野を広げることが大事だ。

人口減少を考慮した復興は、福島県の原発事故の被災地にも当てはまる。

政府はまだ避難指示が出されている帰還困難区域でも、住民の希望に応じて国費で除染し、インフラも整備して住めるようにする「特定帰還居住区域」を広げる方針だ。しかし、いたずらな拡大は将来の負担に跳ね返る。慎重に進めたい。

原発被災地の復興を左右するのが廃炉の行方だ。溶け落ちた核燃料(デブリ)は推計880トンあり、これまで回収できたのは試験採取した約0.9グラム。ロボットアームを使う試みも今秋以降になり、デブリの大規模な取り出しは当初の2030年代初頭から37年度以降へ延期を余儀なくされた。

これらを踏まえれば、51年までに廃炉を完了するという目標は現状から乖離(かいり)していると言わざるをえない。政府と東京電力ホールディングスに求められるのは、新たな知見をもとに工程表を改めて検討の場にのせ、現実を見据えた議論を始めることだ。

通常の原発は廃炉になれば更地に戻すが、福島第1原発は最終的にどのような形にするのか。こうした根本的な問題も含めて、技術開発の限界やリスク管理の不確実性を社会と共有し、廃炉のあり方について多様な視点から議論を深めてゆく必要がある。

15年という時の経過はつらい記憶を癒やすが、風化と表裏一体でもある。被災地には300カ所を超す震災伝承施設があり、世代をこえて語り部を引き継ぐ地道な活動を支えたい。なにより伝承を被災地にとどめず、誰もが自分ごとと受け止める姿勢が大切だ。

東日本大震災で政府は「創造的復興」を掲げた。それは原状復旧でも、地元の要望の丸のみでもない。人口減少を見据え、身の丈にあった街づくりで地域の持続性を高めることこそ、創造的といえよう。そうした復興文化を災害大国のこの国に根付かせ、幾多の尊い犠牲に報いなければならない。

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