焦点:和平交渉停滞、ロシア軍の春の攻勢に直面するウクライナ

ウクライナ南東部ザポリージャ州の前線で、ロシア軍に向けて主力自走榴弾砲を発射するウクライナ兵。3月18日撮影。 Andriy Andriyenko/Press Service of the 65th Separate Mechanized Brigade of the Ukrainian Armed Forces/Handout via

[キーウ 25日 ロイター] - 米国が後押しする和平交渉が停滞する中、ウクライナの前線地域では、ウクライナ軍が最近の戦術的成功や中距離攻撃などの新戦術を拠り所に、ロシア軍の春の攻勢を食い止めようとしている。

最大の焦点となるのが、ウクライナ東部ドネツク州に広がる「要塞地帯」だ。厳重に防衛された都市群からなるこの一帯の放棄を、ロシア側は和平交渉の条件としてウクライナに繰り返し突きつけてきた。

米シンクタンク「戦争研究所(ISW)」によると、ロシア軍は先週、この要塞地帯北端​のスラビャンスクの北東で大隊規模の攻撃を開始した。南端のポクロウシクやコンスタンチノフカ近郊でも小規模な攻撃が続いており、より大規模な攻勢に向けた地ならしが進んでいるとみられる。

スラビャ‌ンスク当局は20日、ロシア軍が東方へ20キロ迫ったことを受け、市内の子どもたちに避難を指示した。情勢の悪化を示す動きだ。

フィラデルフィアの外交政策研究所(FPRI)上級研究員のロブ・リー氏は、兵力ではロシアが依然として上回るものの、ウクライナ側の戦術的攻撃力の向上やドローン能力の進化が、モスクワの進撃ペースを鈍らせる可能性があると指摘する。

「ロシアには今年中に進軍を続けるのに十分な兵力がまだある」とリー氏は述べた。「どこまで進めるかは未知数だ」

ウクライナ軍は先月、南東戦線で久々の勝利を収め、一部の領土を奪い返した。米実業家イーロン・マスク氏の衛星通信サービス「スタ​ーリンク」が、ロシアによる無許可使用を阻止する対策を講じたことが「援軍」となった。

ウクライナ側は、新たに投入される兵士数を上回る数のロシア部隊を撃破し始めていると発表。これはフェドロフ国防相が掲げる、技術主​導かつ成果指標重視の戦争計画の柱の一つだ。ロシア側は自軍の損害に関するウクライナ側の主張を否定している。

前線での戦闘激化と並行して、イランでの紛争に米国が関心を奪われ、⁠原油価格の高騰でロシアの財政が潤いつつある。中東での戦争は、ウクライナが都市やエネルギーインフラ、軍事施設の防衛を頼っている米国製防空兵器の供給にも影を落としている。

財政面でも不安が募る。ハンガリーが900億ユーロ(約16兆5800億円)の欧州連合(EU)​による融資を阻止しており、ウクライナの資金繰りは綱渡りの状態が続く。前線の兵員不足も依然として解消されていない。

<複数ある前線>

ロシアが冬の戦いで手にした最大の戦果が、かつて東部の物流拠点として機能していたポクロウシクのほぼ全域の制圧だ。ウ​クライナ当局者によると、ロシア軍はこの地を確保するために多大な人的犠牲を払った。

同地域を管轄するウクライナ第7即応軍団のエフヘン・ラシチュク司令官は、ロシアがポクロウシクで新たな大規模攻撃に向けた兵力を集結させている兆候は現時点では見られないと述べた。

ただし同司令官は、要塞地帯への攻勢はポクロウシク周辺への攻撃と、コンスタンチノフカおよびスラビャンスクへの包囲を組み合わせ、複数の戦線を同時に「揺さぶる」形になる可能性が高いと見ている。

「彼らはわれわれの戦闘陣形を崩そうとし、弱点がある場所で突破口を開き、それを突いてくるだろう」と​ラシチュク氏は語った。「戦術は変わっていない。われわれはそれを理解している」

ウクライナのゼレンスキー大統領も22日、暖かくなってきた気候を利用してロシアが攻勢を強めていると警告した。

ウクライナ参謀本部によると、ロシア軍は先週の4日間で前線各​地に600回以上の攻撃を仕掛けた。ポクロウシク近郊だけで163回、コンスタンチノフカ近郊でも84回に上る。ロシアのゲラシモフ参謀総長は先週、攻勢は「あらゆる方向で進行中」であり、スラビャンスク、クラマトルスク、コンスタンチノフカを標的としていると述べた。

フィンランドの安全保‌障・情報分析チー⁠ム「ブラック・バード・グループ」のエミル・カステヘルミ氏は、ドネツク州北部での最近の攻撃に多数の装甲車両が投入されたと指摘する。ドローン攻撃へのぜい弱性から、装甲車両の使用はここ最近、大幅に減っていた。

カステヘルミ氏は、ロシアが前線を突破し、領土拡大のペースを上げようとしている兆候だと指摘。ただ、ドローンの優位性が装甲部隊の進撃を阻んでおり、「概して成功しているとは言えない」と話す。「ロシアは月数百平方キロメートルのペースで進み続けるだろうが、全体的な情勢の変化は見込めない」

ISWも最近の報告書で、2026年中にロシアが「要塞地帯」周辺で大きな突破口を開く可能性は低く、「いくつかの戦術的成果」にとどまると予測している。

南東部のザポリージャ州では、ロシア軍が州都の東約70キロの低地を少しずつ前進している。密集した都市部が続く東部と​は異なり、この地域では広大な平原の防衛が難題となる。

「ザポ​リージャはステップ地帯だ。敵の進軍を阻んだり、わ⁠れわれの部隊が身を隠したりできるような地形的な障害物がない」と、第225独立突撃連隊のオレフ・シリアエフ司令官は語る。同連隊は今冬、戦略的要衝フリャイポレ周辺に展開し、ロシア軍の急襲を食い止めてきた。

ロシア軍はさらに、工業地帯が集中するザポリージャ市のわずか20キロ南にある狭い回廊の突破も狙っている。

<小幅な前進と中距離攻撃>

先月のウクライナ軍の前進は合計約400平方キロ​メートルと規模こそ限られていたが、それでもロシアに対して明確なメッセージを送ったと、軍への装備支援を行う慈善団体「カム・バック・アライブ」の軍事部門責任者ブラデ​ィスラフ・ウルブコフ氏は言う。

ウクライ⁠ナ当局者によると、先月同軍が奪還した領土の面積は、ロシア軍が新たに占領した面積を2024年夏以来初めて上回った。ロシア側は25年に計6000平方キロメートルを占領したと主張している。

「自分たちが絶対的な力ではなく弱点もあることをロシアに思い知らせることができた。われわれはその弱点を把握しており、活用できる」とウルブコフ氏は述べた。ロシア軍の士気の低さや訓練不足を根拠に挙げる同氏は、ウクライナ側がより大きな突破口を開くには、周到に準備された大規模部隊の集中投入が必要だとも指摘する。

FPRIのリー氏は、ウクライナの反撃を主導し⁠ているのは実戦経​験豊富な部隊であり、攻撃時のドローン活用はロシア軍の隙を突くための戦術として広く応用できると述べた。

一方、ウクライナ情報機関は無人シス​テム部隊と連携し、石油貯蔵施設や製油所、兵器・ミサイル製造拠点といったロシアの戦略的目標への長距離攻撃を強化している。

さらにウクライナは中距離ドローン攻撃能力も拡大しており、ラシチュク氏の担当区域のような前線部隊が、50キロ以上の距離から敵の兵員や後方支援部隊を攻撃できるようになっている。

「弾薬​庫であれ食料貯蔵庫であれ、どちらも極めて重要な標的だ」とラシチュク氏は言う。「兵士は食料なしでは戦えない」

同氏はさらに、軍団内のドローン部隊間の連携強化により、より精度の高い計画立案と効率的な標的の割り当てが可能になったと付け加えた。

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