【“朝ドラ”「風、薫る」第23週】「ほんの小さなことでも、今やれることを」りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が選んだ“小さな戦い”
連続テレビ小説「風、薫る」(毎週月~土曜午前8時、NHK総合ほか)第23週「歩々清風」は、まさに“一歩ずつ”の大切さを描いた週だった。戦争から帰還しても傷を抱える者、家族を失った者、母になっても働きたい者、学がなく生きる術を持たない者。人生を一気に好転させる魔法などない。それでも、今できることをひとつずつ。その小さな歩みが、やがて誰かのための道になっていく。
「おかえり」と言える奇跡
戦争が終わったからといって、すべてが元通りになるわけではない。
広島の陸軍予備病院では、吾郎(甲斐翔真)が脚気によって命を落とした。明るい未来を願って、我が子に「明」と名付けたにもかかわらず、その未来を見ることはかなわなかった。
一方、戦地から戻ってきた虎太郎(小林虎之介)は、りん(見上愛)のもとを訪れる。
無事に帰ってきた。それだけなら喜ばしい再会のはず。しかし、カラスの鳴き声にも反応して身をすくませる虎太郎の姿から、戦争がまだ彼のなかで終わっていないことが伝わってくる。
次々と運ばれてくる傷病兵。足りない薬や包帯。そして、生き残った自分と死んだ人間の間に、明確な理由などないという現実。“頑張った人間が報われる”とは限らない現実を目の当たりにした虎太郎は、これからどう生きればいいのかさえ見失っていた。
そんな彼に、りんは大仰な励ましをしない。戦地へ行く前と変わらず優しい虎太郎だと伝え、ただ「おかえり」と迎える。
その後、りんが虎太郎のハンカチーフを丁寧に洗い、自宅へ戻ってきた直美(上坂樹里)にも「おかえり」と声をかける場面まで含めて考えると、今週は“帰ってこられる場所”を意識的に描いていたのではないだろうか。
夫・吾郎を失った直美もまた、悲しみが消えたわけではない。それでも平蔵(太田光)を看護し、酒に代わる新しい“気晴らし”を一緒に探そうとする。
自分も傷ついているのに、誰かの傷に手を伸ばす。そこに、看護婦として生きてきた直美の年月がにじむ。
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それから時が流れ、看護婦という仕事は社会へ浸透していく。
かつて二人を看護の道へ導いた大山捨松(多部未華子)は、りんと直美に“これからの看護婦”を託した。二人が歩く道が、後に続く女性たちの道になる。その言葉通り、看護婦や派出看護婦会は増えていった。
しかし、広まればそれで終わりではない。知識のない看護婦を派遣したり、法外な金額を請求したりする看護婦会まで現れる。しかも、そのひとつを取り仕切っていたのが、直美と何かと因縁のある寛太(藤原季節)だった。
寛太の発想は、ある意味では看護が社会に定着した証しでもある。必要とする人が増えれば、そこに商売が生まれる。しかし看護は、流行しているからと外側だけまねすれば成立する仕事ではない。
そのことを突きつけたのが、かつてりんと直美が看護した元女郎・セツ(村上穂乃佳)だった。専門的な教育を受けないまま患者の世話をしていたセツは、患者の異変に直面する。セツは患者に水を飲ませており、その対応が大事に至らずに済む一因となった。
りんはセツを責めるのではなく、その行動を認めたうえで、寛太に「看護は命に関わる仕事」だと伝える。すでに、看護婦を“増やす”段階から、その質と信頼を守る段階へと進んでいるのだ。それは捨松が語った「看護の本当の値打ちが問われる戦い」の始まりでもある。
何も変わらないかもしれないけれど、それでも一歩ずつ。第23週のタイトル「歩々清風」が、ここで俄然意味を持ち始める。