武藤十夢、元アイドルとして歩む異例の道「どう乗り越えるか」学生時代の赤点、6度のAKB総選挙…「強くなれた」
元AKB48のタレント・武藤十夢(30)が、元アイドルとしては異例の道を歩んでいる。グループで初めて大学院を卒業し、難関の気象予報士試験にも女性アイドルとして初めて合格。お天気キャスターとして活動するだけでなく、経済番組など知的な番組にも多く出演している。根っこにあるのはコツコツと地道に頑張る性格。勉強ばかりの日々にも「あの経験があったからどんな仕事も頑張れる」と、過去6度出馬したAKB48選抜総選挙の思い出を語った。(浦本 将樹)
お天気キャスター、経済番組のMC、情報番組のコメンテーター、クイズ番組の解答者…。人気アイドルOGとしては珍しい、多彩な顔を持つ。武藤も「AKB48を卒業したら女優さんやモデルさんなど、もっと違う人生を想像していました。何か勉強ばかりしています」と苦笑いする。
風向きが変わったのは2019年の気象予報士合格だ。AKB在籍中に「何か私の武器になるものを」と一念発起。5年がかり、8度目の挑戦で合格率約5%の難関を突破した。合格した年は、年末年始も机に向かった。12月30日に日本レコード大賞に出演し、31日のNHK紅白歌合戦は自身の出番がなかったため塾へ。その後、民放の年越しライブとAKB48劇場の元日公演に出演し、その後、また塾へ。「めちゃくちゃ本気でしたね」と振り返る。
20年にABEMA「ABEMA Morning」でお天気キャスターを務めて夢の一つをかなえると、21年にはファイナンシャル・プランナー2級にも合格。BSテレ東「マネーのまなび」(月曜・後10時)では、MCとして“パックン”ことパトリック・ハーラン(54)と一緒に経済や資産運用について分かりやすく伝えている。「資格がお仕事につながっていますね」と実感している。
資格マニアというわけではない。他にも防災士やキャリアコンサルタントの資格も持っているものの「自分の興味が湧いたら資格を取ってみようという感じ。金融系の仕事も頂いているので、ファイナンシャル・プランナー1級もそのうちやってみたい。めちゃくちゃ難しいですけど」と意気込む。
昔は勉強が好きなタイプではなかった。中学3年の時は、赤点を取り過ぎて担任から親との三者面談を組まされそうになり、必死に断ったことも。最近出席した同窓会では「いつの間にそんな頭のいいポジションになっているの?」と指摘されたという。
ただ、小さい頃から目標を決めると、達成するまでコツコツと地道に頑張る性格だった。「この高さの鉄棒で逆上がりする。一輪車をこれだけの速さでこぐ。竹馬を…」と思い出は数知れない。小学3年からはオリジナルのリュックサックで有名な塾にも通い、中学受験でも大学付属校に合格した。
芸能界に入るきっかけは高校生の時、AKB48が好きでテレビを見ていてオーディション開催を知ったこと。「モデルさんをやってみたかったけど、身長が足りないな(156センチ)と諦めていた。でも板野友美さんが、そんなに大きくないのにモデルさんをやっていたり、女優さんとかタレントさんとかメンバーがいろんな方向に行くのを見て憧れました」
だが、入ってみて愕然(がくぜん)とした。「当たり前のようにみんなかわいいですし、いろんなことができる子ばかりだった」。大島優子(36)らテレビで見るメンバーは雲の上の存在。「鼻をへし折られるじゃないですけど、学生時代に何となく持っている自信みたいなものはなくなりました」。研究生時代は指原莉乃(32)のアンダー(代役)だったため、指原の映像を見て動きを研究する日々が続いた。
強烈な思い出として残っているのが、09~18年まで毎年ほぼ6月に行われていた選抜総選挙。ファンの人気投票によって新曲のセンター、参加メンバーが決まる。「ファンとの絆を確かめられる機会ではあるのですが、心労が本当にきつかった」と大きな目を見開いて強調する。武藤は12年から6度出馬。「6月を中心に一年が回っている感じで、3月くらいになるとポスターどうしよう、1分の“政見放送”どうしようって」。体調などの表面上には表れなかったものの、精神的に削られた。
総選挙は地方で開催されることが多く、翌日以降にその会場でライブが行われる時はホテルに宿泊した。「2人部屋になった時、片方が選挙でランクアップして、もう片方がダウンすると、部屋が地獄のような空気になります」
武藤はコツコツと地道に毎回順位を上げ、最終的には7位に。AKBで言う人気メンバー「神7」の仲間入りを果たした。「まさか自分がと思いましたが、結果的にあの年が最後の総選挙になっているので、7位に入れたのは大きかった」と思い返す。その一方で「はっきりと数字が出て自分が比べられるのは、なかなかできない体験。だからこそ強くなれたし、つらかったですが、いい経験でした」と、卒業した今になって分かることもある。
「得意、不得意があって、自分でちゃんと考えて。どう頑張るか、どう乗り越えるかを考えるのは大切」という思考回路を持つことができたことで、気象予報士などの資格取得にもつながった。今後も目標を一つ一つクリアしていくつもりだ。「子供の金融教育にも興味ありますし、キャリア支援のようなこともしてみたい」。昨年30歳になったばかり。やりたいことは次々と口をついて出てくる。
AKBのOG世代も結婚し母になる年代になった。“恋愛解禁”になって久しいが「結婚願望はあるんですけど…。相手がいなくて」。こちらはまだ、先が見えないところだが、プライベートもコツコツと地道に充実させていくつもりだ。
◆武藤 十夢(むとう・とむ)1994年11月25日、東京都生まれ。30歳。2011年2月にAKB48の第12期研修生オーディションに合格。同5月に劇場公演で研修生デビュー。12年にチームKに昇格した。愛称は「とむ」。キャッチフレーズは「逆から読んでも、むとうとむ」。総選挙の順位は12年から49位、45位、24位、16位、10位、立候補辞退、7位。妹の武藤小麟(おりん)もAKB48(16期)。血液型B。