「今より明らかに悪くなる」江川紹子さんらが法制審に申し入れ、再審法改正で「証拠の目的外使用禁止」導入に反対表明

無罪の決め手となる情報を市民に知らせることが違法になり、議論が窒息させられる──。

冤罪被害者を救うための「やり直しの裁判」で開示された証拠について、ジャーナリストの江川紹子さんらが共同代表をつとめる「司法情報公開研究会」は12月12日、再審法改正にあたり「目的外使用の禁止」を規定しないよう求める申入書を法制審議会に提出した。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●通常裁判では導入済み、なお根強い批判

裁判のやり直しをめぐっては、そもそも刑事訴訟法のうち再審手続きに関する規定がわずか19条しかなく、具体的な手続きが定められていないことで、冤罪の被害者が長い間苦しんできた。

こうした状況を受けて、超党派の国会議員が主導して再審法を改正する動きが出たが、その後に法務大臣の諮問機関「法制審議会」では、証拠開示の範囲を狭めることや、検察官による不服申し立てを禁止しない方向で議論が進んでおり、「冤罪被害者を迅速に救えなくなる」などの批判が噴出している。

今回の見直し議論で争点の一つとなっているのが、捜査機関側が新たに開示した証拠の扱いだ。

通常の刑事裁判では、2004年の刑事訴訟法改正によって、すでに「目的外使用の禁止」が導入され、開示された証拠を弁護人や被告人が裁判以外の目的で使用することが禁じられている。

この規定自体にも根強い批判があるが、再審法改正を議論する法制審の中では、再審でも同様の規定を設けるべきとする意見が出ているという。

これに対して、冤罪被害者の支援者や弁護士、ジャーナリスト、大学教授らから「市民によるチェックができなくなる」などと問題視する声が上がっている。

●袴田さんも救えない結果になる恐れ「不透明性はより深刻になる」

江川さんらが提出した申入書は、再審で無罪となった袴田巌さんの冤罪事件を例に挙げた。

検察官から開示された「5点の衣類のカラー写真ネガ」を袴田さんの支援者らが確認できたことで「再審開始に決定的な影響を与えた」と指摘している。

仮に再審で目的外使用禁止の規定が新設された場合、「証拠の内容を報道を通じて市民に知らせることも、何らかの集会や討論会を通じて市民に知らせることも一切できない」と強調。将来、袴田さんのような冤罪事件が起きても、かえって救済が困難になるおそれが高まるという懸念を示した。

さらに、再審請求審は通常の刑事裁判と異なり、公開されないことが多いため、目的外使用禁止が導入されれば「手続きの不透明性という問題はより深刻となり、制度の改悪にほかならない」と批判している。

●「現行よりも明らかに悪くなる」

司法情報公開研究会の共同代表4人はこの日、東京・霞が関の司法記者クラブで記者会見を開いた。

江川さんは「裁判は法曹三者だけでやるわけではない。再審は狭き門だが、(目的外使用禁止の導入で)門がますます狭くなるのではないか」と懸念を示した。

元共同通信の記者で早稲田大学教授の澤康臣さんは、事件関係者の「名誉」や「プライバシー」を理由に、網羅的に目的外使用の禁止を導入しようとする動きについて「すべての証拠を何も見せてはいけないというのは話に飛躍があり、デメリットが大きすぎる」と指摘した。

また、弁護士の塚原英治さんは、法制審の議論について「改正ではなく改悪。再審制度を良くするために改正を検討しているのに、現行よりも明らかに悪くなる。そこを一番訴えたい」と強調した。

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