低所得者ほど家計が破綻 セーフティーネットを守れ
「自己負担の増加を緩和できる」は本当か
――政府は、医療費全体の中で「高額療養費は医療費全体の倍のスピードで伸びている」と説明しています。
◆高額療養費が増えているのは事実ですが、その理由を正確に分析する必要があります。
高額療養費制度は、患者の自己負担が一定額を超えた時に救済するシステムです。つまり、自己負担のルールが変われば、給付額は変動します。
2022年10月、75歳以上の後期高齢者のうち一定以上の所得がある人の自己負担割合が、1割から2割に引き上げられました。
この前後で、後期高齢者の高額療養費の支給件数・支給額は大きく伸びています。しかし支払額が倍になれば、上限を超えて高額療養費に該当する人が増えるのは当然でしょう。
――現役世代からは、「高齢者優遇制度」との批判があります。
◆一般的な統計では、医療費は高齢者ほど高くなります。ところが、レセプト(診療報酬明細書)を1件あたりの給付額で見ると、最も高いのは現役世代です。
高齢者は「広く浅く」、つまり対象者は多くても1人あたりの給付額は少ない。一方で現役世代は「狭く深く」で、該当する人は少ないものの、ひとたび該当すると非常に大きな支出になります。
決して、高齢者だけがメリットを享受しているシステムではないのです。
――今回の見直しについて、ポジティブに評価できる点はありますか。
◆「年間上限額」の設定です。これまで高額療養費は月単位の制度でした。そのため、同じ治療を受けていても、治療のタイミング次第で自己負担が変わってしまうことがありました。
何年も高額な薬を使い続ける患者にとっては大きな問題でした。
例えば、関節リウマチの患者は長期にわたる治療が必要で、5年、10年と薬を使い続ける人が珍しくありません。
しかも平均的な所得だと、ぎりぎり月の上限に届くか届かないかというケースが多く、1カ月ずつ処方すると月額上限を超えないが、3カ月分まとめると超えます。
また、先発品から安価なバイオシミラー(バイオ医薬品の後発薬)に変更すると、高額療養費に該当しなくなり、かえって自己負担が増えてしまうといった矛盾も起きていました。
年間上限が設定されれば、このような問題点はある程度解消されると期待しています。
とはいえ、年間上限は、高所得者には一定の効果がある一方、低所得者には保護として不十分な水準にとどまっています。
問われる「保険の本質」
――では、問題点は?
◆政府は、「セーフティーネット(安全網)機能の強化」を掲げ、年間上限を新設するほか、直近12カ月以内に3回、月額上限を超えたら4回目以降の負担が下がる「多数回該当」の上限を据え置くことで、自己負担の増加を緩和できるとしています。
実際、個々の患者の増減がどうなるのかを調べるため、日本システム技術が提供する健康保険組合のレセプトデータベースを使って、一般的な疾患をもつ高額療養費適用者7万8000人の実態を検証しました。
例えば多数回該当の人について、高額療養費対象となるすべての月が多数回該当ならば、負担は変わりません。
しかし多数回該当の適用者1万1000人のうち6割は、多数回該当の月と通常負担の月が混在していました。混在している人は、通常負担の月の分は負担増となってしまいます。
個々人ベースで見ると、制度が見直されると7万8000人の約8割、6万3000人が負担増となる計算で、政府の考えとは食い違ってきます。
保険の本質は、…