“帝王化”進む米政権……「勝者」トランプ氏を待ち受ける「負け組」の“倍返し”(ビジネス+IT)
政治でも経済でもトランプ大統領は「勝者」だ。ニューヨーカー誌(2025/8/11号)によると、トランプ大統領は大統領職を利用して、計34億ドル(約5,000億円)の「私腹を肥やしている」という。 ペルシャ湾岸の5つの大型プロジェクト、カタールのプライベートジェット機、ハノイの広大なリゾートホテル、暗号資産の6つのプロジェクト、そしてMAGA(Make America Great Again:米国を再び偉大に)グッズ──利益相反が明らかなこの不当所得は、大統領個人が経済面で「勝ち組」たる明白な証拠だ(下の図)。 政権運営でも勢いは増す。 たとえば大統領特権の指標である「大統領令」は、1期政権4年間で総数220件(年平均55件)に対し、2期はわずか8カ月で198件、このペースで続くと1年で329件になる。 これはフランクリン・ルーズベルト元大統領(在位4期12年、計3726件)の年平均307件を超え、大統領史上最多(最速)記録である(American Presidency Project調べ)。 しかもその内容は、バイデン政策の転覆と報復から、内政、国防、通商、国際関係まで、政権公約のほぼすべての領域をカバーし、憲法・連邦法が定める大統領権限を大きく逸脱して訴訟になるケースも多い。 関税の“政治的武器”化、独立機関の権限と人事への介入、移民摘発や治安対策に軍を投入して力を誇示(国防総省という名称も、防衛だけでなく攻撃的な「戦争省」に改名)、思想や価値観の合わない有力大学や博物館などの文化・研究助成の切り捨てなど、網羅的に踏み込む。 それを可能にした最大の理由は、三権分立の均衡を破る議会および司法への支配力と、米国民主主義と法治主義を超える「帝王的大統領制」に対する組織的抵抗がないことだ。
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共和党の「トランプ党化」は、議員選挙の候補者選定から役職人事、議員構成の保守化などを通じて強まり、トランプ政策を力業で推進してきた。現在の共和党下院議員団の約2/3は2016年以降に選出された、“トランプ時代”しか知らない世代だ。 一方の民主党議員も同様にトランプ世代が多く、より高齢の中道穏健な上院議員は、政権の「報復」リスクを恐れて沈黙ないし引退の道を選んだ。 行政府スタッフも様相は同じだ。政権の“脚本”である保守派「プロジェクト2025」に従い、トランプ大統領に忠実で百戦錬磨のMAGA支持者に入れ替わりつつある。 司法の天秤も傾く。第1期政権ですでに保守派が優勢(保守派判事5、中道進歩派4)だった最高裁は、2020年の保守派バレット判事が任命されたことで、現在は6対3に。 ロバーツ最高裁長官が政治的に微妙な訴訟で中立の立場を取っても、保守優位は動かず、ワシントン・ポストが指摘するように、最高裁はトランプ大統領の権力蓄積を妨げるために「何もしてこなかった」。 2025年9月8日には、物議を醸すロサンゼルスでの大規模不法移民摘発の継続も当面容認――三権のうち二権が、明確に「トランプ流」に最適化されつつある。 トランプ大統領の権力強大化の第二の理由は、政権の実績と成果をアピールする巧みさ、「大きな変化」を矢継ぎ早に繰り出す一種の“目くらまし効果”だ。 トランプ2.0の公約実現度は、調査報道サイトPolitiFactの「MAGAメーター」によると、計52公約のうち、「達成」16%、「妥協して達成」4%、「公約破り」1%、「頓挫」8%、「進行中」40%で、達成率は2割、途中段階のものは4割だ。 しかし、少なくとも共和党支持層には、200日間で「フランクリン・ルーズベルト元大統領にも匹敵するほどの立法・政策の成果をあげた」と見えるらしい。特に税制改革、国境強化、軍事支出増、イラン核施設への攻撃が称賛されている調査結果もある。 また、世論が二分する「移民排除」から、党派を超えて関心の高い「犯罪対策」や治安にメッセージの焦点を移す“目逸らし”作戦も効果的だ。有権者は選挙前から期待した「大きな変化」の素早さに目を奪われ、政策賛否の判断を下すころには、もうトランプ大統領は別の焦点に移っているからだ。