「本当に優しい息子だった。真実を知りたい」17歳死亡の埼玉栄高事故、両親が初会見…学校法人など提訴
私立埼玉栄高校(さいたま市)の総合グラウンドで2024年11月、無免許の生徒が運転するグラウンド整備用の軽自動車が横転し、助手席に乗っていた高校2年の男子生徒(当時17)が死亡した事故。
事故の1カ月前にも、同じ車両で横転事故が起きていた。さらに、生徒による無断乗車は約2年間で21件、のべ73人にのぼったという。
「なぜ子どもが、こんなことになってしまったのか。学校は何の説明もなく、なぜもっと早く気づいてくれなかったのか。僕はその真実を知りたい」
亡くなった男子生徒の両親(いずれも50代)は9月2日、埼玉県庁で初めて記者会見を開き、父親はそう語った。
両親は前日の9月1日、学校法人佐藤栄学園と理事長、校長、教職員、車を運転していた生徒と同乗していた生徒、その親ら計15人を相手取り、約1億3662万円の損害賠償を求める訴訟をさいたま地裁に起こしている。
亡くなった男子生徒は県外から埼玉栄高校に進学して陸上部に入り、寮生活を送っていた。
訴状などによると、事故が起きたのは2024年11月16日の深夜。学生寮で暮らす生徒4人が寮を抜け出し、男子サッカー部がグラウンド整備用に使っていた軽自動車に乗り込んだ。車内に置かれていた鍵を使い、運転を始めたという。
ハンドルを握ったのは、無免許の同級生(当時16)だった。車両が法面(のりめん)に衝突して横転。助手席にいた男子生徒は頭部を挟まれ、翌17日未明、搬送先の病院で死亡した。
この車両は、サッカー部が部費を使って6万6000円で購入した中古の軽自動車だった。ナンバープレートは付けられておらず、自賠責保険にも加入していなかった。遺族側は、鍵も適切に管理されていなかったと主張している。
学園が設置した第三者調査委員会は2026年1月付の調査報告書で、生徒による無断乗車が2022年ごろから常態化し、学年を超えて広まっていたと認定した。
そのうえで「仮に本件事故当日までに、生徒らによって(略)無断乗車行為が行われていることを教職員が認識した場合、(略)再発を防止する施策が自発的に講じられた蓋然性は高く、その場合、本件事故当日に本件生徒が無断乗車行為を行うことはなかったと考えられる」と結論づけた。
原告側代理人の牧野裕貴弁護士は会見で、確認された無断乗車は21件、のべ73人にのぼると説明した。
しかも、事故の約1カ月前にも横転事故が起きていたという。サイドミラーが外れ、自走できない状態になったものの、学校側はサッカー部OBによるものとして扱い、原因を調べなかったと原告側は指摘している。
刑事事件としては、埼玉県警が2025年11月、運転していた生徒を自動車運転処罰法違反(過失運転致死傷)の疑いでさいたま地検に書類送検した。生徒は容疑を認め「スリルを味わうためだった」と供述したとされる。
さらに2026年3月には、サッカー部の監督とコーチの教諭2人が、業務上過失致死傷の疑いで書類送検された。
訴訟で遺族側は、学校法人に対し、在学契約・在寮契約上の安全配慮義務違反と不法行為責任があると主張。理事長や校長ら個人についても、それぞれ注意義務違反があったとしている。
さらに、運転していた生徒らと、その親権者にも賠償を求めている。
被告には、サッカー部の監督やコーチだけでなく、学生寮の舎監と、亡くなった男子生徒が所属していた陸上競技部の顧問も含まれている。
「今回は寮の管理というところも集中的に責任を追及していきたい」と牧野弁護士は話す。
学校法人の責任を考えるうえで「核心」だと牧野弁護士が位置づけたのが、第三者委の報告書も指摘した「リスク・アプローチによる安全管理体制」の欠如だ。
「車というのは、生徒の命を奪う危険性もあるもの。学校はしっかり把握したうえで、管理体制、監査体制を作るべきだった」
そのうえで「多くの職員は『知らなかった』と弁解しているが、その知らなかったこと自体が問題だ」と指摘した。
会見では、事故直前の車内で撮影された生々しい映像も再生された。
牧野弁護士は、運転していた生徒がハンドルを左に切った後、大きく右に切って法面に向かったと説明。「勢いをつけて右に、わざと当てにいっているようにしか見えない」と述べ、「殺人の故意に近いものがあったのではないか」との見方を示した。
原告側によると、運転していた生徒は、事故の1カ月前に起きた横転事故でも同じ車両を運転していたという。
今回の訴訟では、個人・法人あわせて15人を被告とした。特に責任が重いのは誰かを問われた牧野弁護士は、運転していた少年は「もちろんのこと」としたうえで、学校の責任についてこう語った。
「遺族側としては、責任者の方々こそ責任をしっかり取っていただきたい。理事長や校長は、しっかりと公的な責任を取っていただきたい。コーチら2人が刑事事件で送検された時も思ったが、これはコーチだけを処罰してなおる問題ではない。組織自体を変えないといけない問題で、現場だけを処罰してもトカゲのしっぽ切りにしかならない」
遺族側が会見で時間を割いて訴えたことがもう一つある。
亡くなった男子生徒が「窓から身を乗り出していた」わけではない、という点だ。
遺族側によると、事故後、インターネット上では「箱乗りをしていたのではないか」など、男子生徒にも事故の責任があるかのような書き込みが相次いだという。
しかし遺族側は、事故前の映像からも、男子生徒が窓から身を乗り出してはいなかったと強調する。
牧野弁護士は、こうした情報のもとになったのは埼玉県警の広報だったとして、「身を乗り出していなかったにもかかわらず、誤解を招くような断定的な広報をしてしまったのは、埼玉県警の問題だと考えている」と指摘した。
父親は会見で、亡くなった息子について「本当に優しい子だった」と振り返った。
「僕の誕生日や父の日、何か行事があるときには、ちゃんとメッセージを入れて送ってきてくれるような子だったんですよ。死ぬちょっと前にも、僕の誕生日で『パパ、プレゼント買っておくからね』というメッセージが、僕に対する最後のメッセージだった」
そして、言葉を続けた。
「なんでこんなことになってしまったのか、もう本当に信じられない。この事故に関してはもう許せないと思います」
母親は、最後にこう訴えた。
「本当に真実を明らかにしたいし、今後これで変わらなかったら、また同じような家族が……こんな苦しみはもう味わいたくないですし、そういう家族が出ないように、しっかりと訴えていきたい」
佐藤栄学園は弁護士ドットコムニュースの取材に対し、「提訴や遺族側が会見なされたことは聞いてはおりますが、実際にまだ訴状が届いておりませんので、事実関係を確認することはできません。訴状が届いたら内容を精査し、適切に対応したいと考えております」と回答した。
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