【126】“母になる前”から始まっている? 子どもの思春期への影響

こんにちは。産婦人科医の齊藤英和です。 今回は、母親の妊娠歴、特に妊娠中の異常や合併症が、生まれてきた女児の思春期の成長に影響を及ぼすかどうかについて、検討した研究をご紹介します。

適切な妊娠計画を行うことは、親子の健康向上に重要

妊娠中の母体の健康状態は、胎児の発育や妊娠経過、また出生した児に大きな影響を及ぼすことが知られています。また、妊娠前の健康をより良い状態にしてから妊娠すると、妊娠中のトラブルが減少し、胎児の発育もより順調になり、出生後も健康に発育するようになります。

このことから、妊娠中の母体の健康のために、妊娠する前から健康に気を付けることがとても大切になっています。特に、近年は出産年齢の高齢化に伴い、年齢に伴う生理的な生殖機能の低下や種々の病気が妊娠に合併するリスクが増えていますので、妊娠前から健康に注意することは、とても大切になります。

私のコラムでも、知っておくと将来、自分や子どもの健康に役に立つ情報を中心にお話ししていきています。今回は、母親の妊娠歴、特に妊娠中の異常や合併症が、女子の初潮のタイミングや乳房発達のスピードに顕著な影響を及ぼすかどうかについて、検討した研究をご紹介します(Zhang Q, et al. Hum Reprod. 2025 Apr 1;40(4):675-682. doi: 10.1093/humrep/deaf015.PMID: 39954707)。

この研究では8年間にわたりデータ収集を行っています。研究対象は1,390名の子供(女子710名、男子680名)、年齢範囲は6.58~19.26歳(女子)および5.81~19.28歳(男子)です。

アンケート調査項目は、性別、生年月日、家族の社会経済的状況(例えば、平均月収や親の教育レベル)などで、参加者データをアンケートで収集しています。さらに、母親の初潮年齢、両親の出産時年齢、妊娠中の病歴、分娩方法、出生体重、早期の授乳パターン、および妊娠歴(過去の妊娠状態や経産回数など)についても、参加者の母親から情報を取得しています。

子供の思春期発達の評価については、男女ともTannerの発育段階基準を用いて評価しています。初潮の有無については、女子自身が報告し、前回の訪問以降の発現状況とおおよその発現時期を調査しています。児の思春期の状態と母親の妊娠歴の関連を線形回帰モデルで解析しています。

この結果、初産の母親のから生まれた女児は、経産婦の母親から生まれた女児に比較し、初潮年齢が平均0.22年遅くなりました(95% CI: 0.05, 0.38)。また、初産の母親のから生まれた女子のほうが経産婦から生まれた女児よりも乳房発達の速度が有意に速い傾向にありました(0.06; 95% CI: 0.01, 0.11)。特に母親が妊娠中に異常を経験していた場合、この影響は顕著でした。一方で男子においては、母親の妊娠歴が思春期発達に与える影響は有意な差を認めませんでした。

研究は、サンプルサイズが比較的小さく、一部データ欠損や未成熟な参加者が含まれていた点は考慮しなければなりませんが、研究結果により、母親の妊娠歴、特に異常妊娠の経験は女子の思春期進行に顕著な影響を及ぼす可能性があることが示されました。影響が0.22年(2.6か月)と、それほど大きく遅れるわけではありませんが、現在、世界的な傾向として出産年齢の高齢化、出生率の低下、ライフスタイルの変化、医療技術の進歩が進んでおり、若い母親が初産を経験する機会が減少しています。これらのことを考慮すると、適切な妊娠計画を行うことは、親子の健康向上に重要であると考えられます。

PROFILE齊藤英和先生

1953年東京生まれ。梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長。昭和大学医学部客員教授。近畿大学先端技術総合研究所客員教授。国立成育医療研究センター臨床研究員。浅田レディースクリニック顧問。専門分野は生殖医学、特に不妊症学、生殖内分泌学。

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