【FC東京】大逆転負けに「なぜ」はない。松橋力蔵監督「どんな戦術をもっても守れない」と遠藤渓太「僕がどうこう言って変わる話じゃない」の意味 (1/2)

5月17日に行われた明治安田J1リーグ第17節で、FC東京は浦和レッズに2-3で大逆転負けを喫した。望まれない結果にはさまざまな理由がつきまとうが、削ぎ落としていって残る芯の部分は、つまりは「戦術以前」のこと。松橋力蔵監督や選手たちの反省の弁からその核心をあぶり出してみる。

上写真=試合を終えてスタンドに頭を下げる選手たち。この逆転負けが生まれ変わるきっかけになるか(写真◎J.LEAGUE)

■2025年5月17日 J1第17節(観衆:36,002人@埼玉)浦和 3-2 FC東京得点:(浦)石原広教、松本泰志2

   (F)マルセロ・ヒアン、遠藤渓太

「バラバラだった」

 試合直後の記者会見。松橋力蔵監督はいつものポーカーフェースを崩さない。2-2の同点に追いつかれ、最後に逆転されるまでの80分以降の展開について、「(選手の)心の中は見えないですけれども」と前置きしてから、こう表現した。

「特にそんな焦りを感じたわけではないです。ただやはり、会場のエネルギーを圧力として少しは感じながらというところで、一歩、一手というものがちょっと遅れたのかなと。とはいえ、会場のボルテージは何の言い訳にもならず、やるべきことをしっかりやる、寄せるところはしっかり寄せる、例え(クロスを)上げられてもしっかりタイトにつく。これは当たり前のことで、そこができなければどんな戦術をもっても守ることはできないので、しっかり詰めていかなくてはいけない」

 チーム戦術以前の話、ということになる。

 脳しんとうの影響から2試合ぶりに復帰した高宇洋も、首を傾げる。

「ボールを動かしながら進入したり、エリアを取りにいくことはできているところもありました。でも、体力的な部分なのか、ガクっと落ちたときになかなかボールホルダーに行けないし、奪ったボールもなかなかつながらなくて、常に押し込まれる展開が多くなっていった。そこで全員の意思統一はもっと必要かなと思います」

 9分に先制しながら32分に追いつかれ、68分に突き放したと思えば80分にまたも並ばれ、ついに90+3分には逆転ゴールを浴びた。

 3つの失点はどれも横にボールを動かされて食らったもの。最初はFC東京から見て右からのクロスをヘッドで合わせられ、バーに当たったこぼれ球を石原広教に蹴り込まれた。2度目は右からのCKが流れて逆から放り込まれ、松本泰志に押し込まれた。長い長いVARチェックの末にオフサイドでもハンドでもなくゴールが認められた。最後は左CKをクリアしきれず、左から逆に送られてまたも松本に蹴り込まれた。いずれも安易にシュートを打たれ、あるいはノンプレッシャーでクロスを許している。

「最後の失点のところもそういう部分からだと思います。まだ映像で振り返ってないですけど、甘さは出たと思います」

 そう言って唇を噛みしめる高が危惧した「意思統一の欠如」については、土肥幹太も同じ意見を持っていた。

「(逆転されたあとの)最後のパワープレーも、どこにボール放り込むか、あるいはスローインも早くやっていくのかセットしてやったほうがいいのか、そういうところでチームでバラバラだった。そこをもっとやっていかないと、勝ち点を拾っていけない」

 先制したあとにはボールを保持しながらも前に出ていけず、最終ラインから前にボールを運ぶためにはロングボールしか選択肢がなかった。2-2とされたあとも気圧されたように相手の攻撃を受けてしまって押し返しきれなかった。それはどうしてなのか。

 土肥の悔恨がその答えの一端を示す。

「やっぱりメンタル的な部分もありますし、守備の部分でウイングバックがいつもより守備のときに引いてしまった。そこをセンターバックの自分からも押し出していかなければいけなかった。もっと自分が早く準備するのか、全体でスライドを早くさせるのか、直さなければいけないところはいっぱいあると思っています」

 土肥が自分に矢印を向けた問題点は、「個人戦術」のこと。だから、松橋監督の言葉から類推できる「チーム戦術以前」の問題と同じ地平にあり、遠藤渓太も厳しく指摘している。先制点のPKを獲得したのはこの人の突破からで、69分に突き放したのは自身の今季初ゴールだった。87分にはピッチをあとにしたが、それだけに悔しさもひとしおだ。

「もちろんスタジアムの雰囲気(の影響)はあったと思うし、2-2になってからどれだけの選手がそれを跳ねのけようと思ってプレーしたか。自分はベンチに下がっていたからどうこうできなかったけれど、雰囲気にのまれてレッズの圧力にどんどんどんどん押されているようにしか見えなかったし、それをなんとしてでも脱してやろうという気概のあるプレーは見られなかった」

 つまりは、個人がどれだけ自立して戦うか。チームとしてのつながりを求めるには、個人が個人として確立していることが大前提だからだ。

「それができないようだと、こうやって負けていって、下の争いに巻き込まれていくんじゃないか。他人事じゃないけど、別に僕がどうこう言って変わる話じゃないと思うので」

 遠藤が言うそれはいわば、プロとして一人ひとりが備えていなければならない、最低限の「礼儀」のようなものだろう。

 個人個人に戦うプライドが備わっているかどうかが洗い出された「レッズショック」。これが本当の意味での「生まれ変わり」を促すきっかけになるだろうか。


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5月17日の明治安田J1リーグ第17節で浦和レッズはFC東京から今季初の逆転勝利をもぎ取った。2度のビハインドを追いつき、90+3分についにひっくり返した勝利は、交代選手が生き生きと駆け回って手にした「チーム力」の証明だった。

上写真=関根貴大は冷静なクロスで逆転ゴールをアシストしてみせた(写真◎J.LEAGUE)

■2025年5月17日 J1第17節(観衆:36,002人@埼玉)浦和 3-2 FC東京得点:(浦)石原広教、松本泰志2

   (F)マルセロ・ヒアン、遠藤渓太

「賭けた方がいいと」

 先制されても追いつき、再びリードされてももう一度、食らいつき、最後には逆転してみせる。浦和レッズがFC東京から奪ったこの勝利は、1カ月後にクラブワールドカップを控えるチームにより強固な結束をもたらした。

 それは、例えば関根貴大の言葉から分かる。

「スタメンが固定される中で、サブの選手は物足りなさはあったと思います。こういう苦しい展開になったときにサブのパワーを発揮して、チームが一つにならなきゃいけない。それが体現できたと思います」

 その関根自身が、4月からは先発で起用されていない。この日も73分からの登場だった。

「スタメン11人でサッカーしてるわけじゃない。うまくいかない苦しいゲームが絶対生まれてくる中で、サブの選手がどううまくピースをはめていけるかも大事になってくるとずっと思っていました。それが今日の試合はうまくできたかなと」

 80分の同点ゴールは67分から入った金子拓郎のクロスを、関根といっしょに73分から入った松本泰志が押し込んだもの。そして90+3分の逆転弾は、関根が送ったクロスに松本が合わせて決めた。まさに「うまくピースをはめた」のだ。

「選手が自分のポジションを勝ち取っていくには、ギラギラしたものを見せないといけない。そういうものが見せられたのなら、少しは前に進めたかな」

 逆転ゴールを導いたクロスは、右CKの流れから右にこぼれたボールを自らシュート、相手に当たったボールを今度は逆サイドに上げたものだ。群がる相手の頭上をきれいに越えるように、ふわりと柔らかく、高く送り届けた。

「速いボールを上げても良かったと思いますけど、自分がボールを受けた瞬間は、FC東京の選手が団子になっていたのが見えて、一度シュートを打って跳ね返ったときに、あそこに誰かが飛び込んできてくれるのに賭けた方がいいと思って、ああいうボールのチョイスになりました」

 松本がそこにいることを目にしたわけではなかったのだという。それでも的確な瞬時の判断を下すことができた。「なんであのシーンで冷静になれたのかちょっと分からない」と自分への小さな驚きもあったようだが、「いい判断だったと思います」と胸を張った。

 ところで、関根はマテウス・サヴィオとの交代だったから、左サイドハーフとして投入されている。これが「練習でもやっていない、ぶっつけ本番だった」のだが、その5分後に荻原拓也に代わって原口元気がピッチに送り込まれると、原口が左サイドハーフに入って、関根は左サイドバックに下がることになった。

 こうして、原口と縦に並ぶ関係が生まれた。これには心地の良い既視感があったのだと明かす。

「練習ではサブ組の僕たちはFC東京の選手のポジションでやらないといけなくて、元気くんがシャドーで僕がワイドというポジションでした。その縦関係が意外とスムーズにできて、どっちかがサイドに張ってどっちかが仕掛ける、という感じのいいイメージがあって、違和感はなかったんです」

 浦和は今季、先制された試合は、3引き分け4敗だった。つまりこの日は、8試合目にして初めての逆転勝利。最終盤でひっくり返した興奮の結末は、「仮想FC東京」を命じられたサブ組の意地がもたらしたものでもあったのだ。


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松本泰志が貴重な貴重な2ゴールで輝いた。浦和レッズは5月17日の明治安田J1リーグ第17節でFC東京と対戦し、3-2で逆転勝利。松本は1-2の73分にピッチに入ると、2-2の同点ゴールと3-2とする逆転ゴールを決めて、3試合ぶりの勝利をもぎ取ってみせた。

上写真=松本泰志にとってはその力を証明する意義深い2ゴールになった(写真◎J.LEAGUE)

■2025年5月17日 J1第17節(観衆:36,002人@埼玉)浦和 3-2 FC東京得点:(浦)石原広教、松本泰志2

   (F)マルセロ・ヒアン、遠藤渓太

「つま先で触ったような」

 高々と跳び上がり、右手の拳を突き上げて、叫んだ。松本泰志が大興奮の逆転ゴールを決めて、ヒーローになった。

  2-2で迎えた90+3分、右CKの流れから右にこぼれて関根貴大がファーへ、逆サイドで待ち構えていた松本が胸トラップから右足でねじ込むと、スタジアムが揺れた。

「ちょっと体重が後ろに乗っていたので、胸で止めるしかなかったかな、と。ヘディングしてたらたぶんダメだったので」

 その判断が功を奏した。そしてフィニッシュにはちょっとした幸運もあったという。

「本当につま先で触ったような感じです。全然狙ってないです」

 でも、そのおかげでボールはうまくGK波多野豪の股下を抜けていった。振り返ったときには、きちんとミートしなかったという照れも混じった笑顔だったが、決めた瞬間のガッツポーズは渾身。思いがこもっていた。

「やっと、なんていうか、チームの力になれたというか、自分のゴールが逆転につながったっていううれしさでした」

 80分には2-2とした同点ゴールも決めていて、これは松本にとって埼玉スタジアムでの初ゴールだ。少年時代からの憧れのクラブに移籍してきて、ホームスタジアムで初めて決めた念願の一発。ただ、認められるまでに長い長い時間がかかってしまった。

 ゴールは、左CKが右に流れ、金子拓郎がクロス、逆サイドで松本が体で押し込んだもの。しかし、その直前にダニーロ・ボザがヘッドで触ったようにも見え、そうであれば松本はオフサイドになる。だが、VARの検証によりボザが触っていないと結論づけて松本の得点となり、ビジョンでもゴールと掲示された。ところが、試合は再開しない。再びVARが入って、今度は松本の左手にボールが当たった可能性を確認することになった。しかし、これもノーファウルと認められて、およそ6分40秒もが過ぎてから晴れて記念のゴールを手に入れた。

「お願い! っていうか、本当に祈る気持ちばかりで、とりあえずVARがクリアしたときはめっちゃほっとしました」

 そんなエピソードも重なって、余計に忘れられない埼スタ初ゴールになっただろう。

 この試合はサミュエル・グスタフソンが負傷から戻ってきて、松本はベンチスタート。だが、1-2で追いかける状況で出番が回ってきたときには「ビハインドの状況だと前に行くしかないので、自分のストロングがより出る」と意気揚々とピッチに躍り出た。

 そして、2度も自らの力でそれを証明してみせた。先発でも途中からでもチームの勝利に貢献できる。「浦和の男」としての存在感を強烈に印象付ける意義深い一日になった。


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明治安田J1リーグは第17節を迎え、5月17日に浦和レッズとFC東京が対戦した。FC東京が2度にわたってリードを奪う展開だったが、浦和があきらめずにゴールに向かい、最後は松本泰志が90+3分に逆転弾。浦和が3試合ぶりの勝利をもぎ取った

上写真=松本泰志が逆転弾をたたき込み、渾身のガッツポーズ!(写真◎J.LEAGUE)

■2025年5月17日 J1第17節(観衆:36,002人@埼玉)浦和 3-2 FC東京得点:(浦)石原広教、松本泰志2

   (F)マルセロ・ヒアン、遠藤渓太

「勝利につながったことが一番うれしい」

「同点になったときのスタジアムの雰囲気が、もうこれは逆転できるなっていう雰囲気で、久しぶりに面白い試合だったと思います。見てる方にとっても非常に楽しい試合になったんじゃないかな」

 負傷から戻ってきたゲームで大逆転勝利をつかんだ手応えに、西川周作はうなずいた。浦和レッズが2度先行されながら、90+3分についに逆転して3試合ぶりの勝ち点3をもぎ取った。

 先にスコアを動かしたのはアウェーのFC東京だった。橋本拳人の右からのサイドチェンジパスをスイッチにして左で細かく崩し、俵積田晃太のカットインから横パスを受けた遠藤渓太が持ち出したところでファウルを受けてPKを獲得。これをマルセロ・ヒアンが左に決めて、幸先よく先制したのが9分だ。

 だが、ここからなかなか前に出ていけなくなる。ボールを保持しても中盤から先にボールを届ける場所を作れずに停滞。そうなれば、自然と浦和が相手陣内でプレーすることになる。

 だから、同点ゴールも時間の問題だった。32分、松尾佑介が左からクロス、大久保智明のヘディングシュートは強烈だったがバーに阻まれた。しかし、右でこぼれ球に反応した石原広教が右足を振って見事にニア上を打ち抜き、1-1のタイとした。

 後半には、アウェーチームがまた前に出た。68分、左から安斎颯馬がドリブルで深くまで入って中央へ、遠藤が左足で放ったシュートが相手に当たって転がり込んだ。だが、本当にスタジアムが揺れたのは最終盤だった。

 まず80分、浦和の左CKが右に流れたボールを金子拓郎がクロス、ファーに飛び込んだ松本泰志が押し込んで同点とした。このシーンでは松本が触る直前でダニーロ・ボザがヘディングで触ったようにも見えて、松本がオフサイドかどうかの確認が入ったが、ボザが触っていないとの結論で、ビジョンにもゴールが認められたことが掲示された。ところがもう一度、松本のハンドの可能性についてのチェックも入って、しかし最終的にハンドもなかったとのことで改めて松本のゴールとなった。

 2-2として急激に高まった場内のボルテージに乗るようにして、浦和はついに逆転してみせる。90+3分、今度は右CKからの流れで相手に大きくクリアさせずにこぼれたところを関根貴大が右からふわりとしたクロスを逆サイドへ、待ち構えていた松本が胸トラップから右足で蹴り込んで、土壇場で3-2としてみせた。

 松本は浦和の一員として埼玉スタジアムでは初めてのゴールを決め、さらには歓喜爆発の逆転ゴール。「得点が勝利につながったことが一番うれしい」と笑顔は爽やかだった。


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写真◎Getty Images

5月14日、鹿島アントラーズの鬼木達監督が非公開練習後に取材に応じた。11日に行なわれたJ1リーグ前節の川崎フロンターレ戦は舩橋佑と田川亨介のゴールで2対1の逆転勝利をつかんだ。次は17日に県立カシマサッカースタジアムでのJ1第17節清水エスパルス戦に臨む。

上写真=取材に応じた鹿島アントラーズの鬼木達監督(写真◎Getty Images)

清水の印象。「攻撃的なチームであることは間違いありません」

 5万9千人以上の観衆が入った国立競技場での激闘を制し、リーグ戦6連勝を果たした。AFCチャンピオンズリーグエリート準優勝の強敵・川崎Fを相手に競り勝ち、あらためて鹿島の強さを示した。5月17日の今節清水戦は、県立カシマサッカースタジアムでの一戦となる。

「(清水は)攻撃的に点を取りにいく姿勢だとか、ボールをしっかりと大事にすることだとか、そういうところがすごく表れているチームだと思います。攻撃的なチームであることは間違いありません」

 14日のトレーニング後に取材に応じた鬼木達監督は、そのように清水の印象を話す。本拠地で勝ち点3を手に入れるためにも、連勝中のここまでの戦いのように攻守に躍動感あふれる試合を見せたいところだ。

「やはり受けて立っていたらいいゲームにはならないので、しっかりと攻撃にしても守備にしても積極性が大事かなと。攻撃的な守備だったり、攻撃であればより攻撃的なプレーが重要になると思っています」

 鬼木監督率いる鹿島がホームでの勝利を目指し、清水との一戦に挑む。

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