ウーバーは客を騙している? 満足度操作の心理テクニック

「電話で呼べたらどうだろう?」  ある夜、パリの寒空の下で、トラビス・カラニックとギャレット・キャンプはどちらからともなくつぶやいた。技術カンファレンスに出席するためにアメリカから来た2人は、タクシー乗り場の長蛇の列に並びながら、誰もが身に覚えがある惨めさを味わっていた。タクシーは来るのか、いつまで待てばいいのか、「わからない」のは最悪だった。  その夜、不安と不満から生まれた単純な疑問が、後のウーバーの誕生につながった。今や65カ国、600都市で毎月1億人以上が利用するタクシー配車アプリだ。  飛行機の搭乗時刻、会議、イベントなどに遅れそうなストレスの多い状況では、1秒が1分、1分が1時間、1時間が1日のようにも感じられる。そういうときの不安は誰もが共感できるだろう。これは顧客が不確実な状況に置かれることで感じる極度の不安だ。  顧客の心理的軋轢を減らすことが、ウーバーの重要な課題となった。そこで、彼らは行動(データ)科学者、心理学者、神経科学者を集めて社内チームを立ち上げ、「ウーバーラボ」と名づけた。  そしてさっそく調査を開始し、顧客のウーバーに対する満足度やレビューに影響を与える重要な原則を発見した。  ピーク・エンドの法則、怠惰の嫌悪、オペレーションの透明性、不確実さによる不安、目標勾配効果。この5つの心理的効果(作用)を理解することで、ウーバーは業界全体を新たに再設計し、1,200億ドル規模のビジネスを生み出すことに成功した。


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 人が経験や出来事を記憶する方法を示す認知バイアス。簡単に言うと、私たちは経験のあらゆる瞬間をもれなく集計した平均ではなく、ピーク時と終了時にどう感じたかによって判断する。  重要なのは、この法則はよい経験にも悪い経験にも当てはまる点だ。企業やブランドは肝に銘じてほしい。顧客は全体の経験を、最高の(あるいは最悪の)時と終了時の2つだけで判断する。  そう考えると、休暇中、行きの飛行機でトラブルが発生しても、帰りの飛行機でトラブルが起こる場合に比べて満足度が下がらない理由がわかるだろう。すばらしいディナーが、なぜ伝票に記された予想外の追加料金のせいで台無しになってしまうのか。楽しかったパートナーとのデートで、最後の2分間に言い争いをしただけで、なぜその夜の思い出がすっかりだめになってしまうのか。  ウーバーのドライバーが目的地に到着した際、乗客が評価をしてチップを渡す直前に、それまで以上に丁寧に接するようトレーニングを受けているのも、それが理由だ。

 ウーバーラボは、忙しい人のほうが暇な人よりも幸福度が高いという調査結果を引用した。これには、忙しい状態がみずからの意思ではない(他人に労働を強制された)場合も含まれる。むしろ、単なる正当化(嘘の理由)でも行動を起こしてしまうほど、私たちの娯楽や活動に対する欲求は強い。この調査が示すのは、私たちの「目標」の多くは忙しく過ごすための言い訳にすぎないということだ。  ウーバーに当てはめて考えると、待ち時間に見たり参加したりするものを提供すれば、顧客の満足度が大幅にアップし、キャンセルが減るということになる。  そこで、ドライバーの到着予定時刻を知らせるだけでなく、顧客が待っているあいだに地図上で動く車を見られるといった魅力的なコンテンツをいくつか導入し、「暇な状態による不満」を回避しようとした。  驚いたことに、前述の調査では、車を待つあいだにすることがあれば、大多数の人が、短い待ち時間で何もできないよりも待ち時間が延びるほうを選ぶという結果が出た。レストランで料理を待つあいだに無料のサービスが提供されるのも、ネットフリックスやユーチューブなどの動画配信サービスで動画にマウスポインターを合わせるとプレビューが表示されるのも、Google Chromeで接続が切断された際に恐竜ゲームが表示されるのも(恐竜のマークを押してみて!)、すべて同じ理由だ。  顧客を忙しい状態にしておくと、満足度、維持率、コンバージョン率が25%以上向上することが複数の研究で証明されている。

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