母親が持っている「細菌」が子どもの脳の発達に影響するかもしれないとの研究結果

サイエンス

人間を含む動物の体は無数の微生物の群れに覆われており、皮膚の表面に生息する常在菌や腸内細菌叢(そう)などが健康に関係していることがわかっています。ミシガン州立大学の研究により、母親が持っている微生物が出生前の時点から胎児の脳発達に影響している可能性があると示されました。

The microbiota shapes the development of the mouse hypothalamic paraventricular nucleus - ScienceDirect

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0018506X25000686

MSU study finds tiny microbes shape brain development | MSUToday | Michigan State University https://msutoday.msu.edu/news/2025/08/msu-study-finds-tiny-microbes-shape-brain-development

Your Mother's Germs May Have Influenced Your Brain's Development : ScienceAlert

https://www.sciencealert.com/your-mothers-germs-may-have-influenced-your-brains-development 近年は、周産期の妊婦に対する抗生物質の使用や帝王切開といった産科医療が普及していますが、これによって母胎から子どもにうまく細菌が受け継がれないことが懸念されています。アメリカだけでも出産前後の妊婦の40%に抗生物質が投与され、出産全体の3分の1が帝王切開によって行われているとのこと。

ミシガン州立大学心理学部の助教であるアレクサンドラ・カスティーヨ・ルイス氏は、「出生時、新生児の体は産道を通る際に微生物が定着します。また、出生は脳の形成に関わる重要な発達過程と重なります。私たちは、これらの微生物の到達が脳の発達にどのような影響を与えるかをさらに探りたいと考えました」と述べています。

ルイス氏らの研究チームは、無菌環境で出生・飼育した新生児マウスの一部を、生後すぐに正常な微生物叢を持つ母親のもとに移し、新生児マウスの体に微生物を急速に移しました。その後、一貫して無菌環境で育てられたマウスと、生後すぐに微生物をもらったマウスと、通常通り微生物がいる環境で出生・飼育されたマウスの脳を比較しました。

研究チームが着目したのは、ストレス・血圧・水分バランス・社会行動の調節において中心的な役割を果たす「視床下部室傍核(PVN)」と呼ばれる脳領域です。以前の研究では、微生物を持たずに育てられた無菌マウスの脳において、発達初期にPVNで死滅する神経細胞(ニューロン)が多いことが示されていました。

今回の実験では、たとえ生後数日の段階で微生物が導入されたマウスであっても、出生時に無菌状態だったマウスはPVNのニューロン数が減少していることが明らかになりました。また、一貫して無菌状態で育てられたマウスも、やはりPVNのニューロン数が減少していることがわかりました。

これらの結果は、母親から子どもに受け継がれる微生物によって引き起こされるPVNの変化が、発達中の子宮内で起きていることを示唆しています。ルイス氏は、「微生物を避けるのではなく、幼少期の発達におけるパートナーとして認識すべきです。彼らはまさに最初から、私たちの脳の形成を助けてくれているのです」と述べました。

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