「高齢者の運転は危険」はウソだった…事故データを分析して見えてきた若者の事故のほうが多いという事実
※本稿は、堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■75歳以上に多い交通事故の原因
交通事故の原因を考えるうえでは、自動車の性能などの観点のほかに、ヒューマンファクターといえる人の行動がどのように関わっているのかを理解することが重要です。2023年のデータでは、事故原因は大きくいくつかの項目に分けて分析されています。
まず、65歳未満の運転者では、「前方不注意」や「漫然運転」が最も多く、約26%を占めています。次いで「交差点での安全確認不足」が約16%、「速度超過」が約11%と続きます。「操作ミス(ペダルの踏み間違いなど)」は約8%となっています。
一方で、年齢が上がるにつれて、事故の原因の傾向は変化します。特に75歳以上では、「操作ミス」が最も多く、約3割を占める大きな要因となっています。これに加えて、「前方不注意」や「安全確認不足」も引き続き多く見られます。
■高齢者には「速度超過」「飲酒運転」は少ない
若い世代では「スピードの出し過ぎ」や「不注意」が主な原因であるのに対し、高齢になると「操作のミス」、特にペダルの踏み間違いなどが事故に大きく関わるようになります。逆に「速度超過」や「飲酒運転」は、高齢者では少ない傾向にあります。
事故の原因だけでなく、「どのような死亡事故が多いのか」という点についても見ていきましょう。図表1は、平成25年から令和5年(合計値)における、交通死亡事故の年齢層別事故類型の構成を65歳未満、65~74歳、75歳以上の3つのグループで比較しています。
出典=内閣府「令和6年版交通安全白書」特集 36図まず、65歳未満では「人対車両の事故」が最も多く、なかでも横断中の割合が高いことがわかります。
一方で、75歳以上になると死亡事故の傾向は大きく変わります。「人対車両の事故」の割合は大きく減り、代わって増えてくるのが、車両単独の「工作物衝突」や「路外逸脱」です。
実際に、単独死亡事故は65歳未満では約22%ですが、75歳以上では約41%まで増えています。
■若い世代に多い事故の特徴
また、「車両相互」の出会い頭や正面衝突による死亡事故も、高齢になるほど割合が高くなる傾向が見られます。
若い世代では「人対車両」や「車両相互」の事故が多いのに対し、高齢になると「自分の操作や判断が関わる事故」が増えていくことが特徴です。
こうした違いは別の統計データでも確認されており、特に「単独事故」や「出会い頭の事故」は75歳以上で増える傾向があることが明らかになっています。
この結果は、先に記した事故原因の特徴とも一致しています。つまり、高齢ドライバーでは「操作ミス」や「確認不足」が、死亡事故の形としても表れていると考えられます。
■高齢者に必要な「クリープ現象」活用テク
高齢ドライバーにとっては、スピードの出し過ぎを抑えるだけでなく、「交差点での確認」や「操作ミスを防ぐ工夫」といった点が、より重要になってくるといえます。
たとえば、「交差点での確認」を改善する方法としては、高齢運転者を対象とした実践型の交通安全セミナーに参加することで、プロの指導員とともに自身の悪い癖を見直したり、加齢に伴う身体機能の変化が運転に与える影響を学んだりすることが考えられます。
「操作ミスを防ぐ工夫」としては、操作ミスの代表であるアクセルとブレーキの踏み間違いであれば、踏み間違い防止装置によるリスク軽減が可能ですし、日頃からクリープ現象と呼ばれるような、最初はアクセルを踏まずに、ブレーキを緩めてゆっくり発進させて進行方向を確認してから、その後にアクセルを踏むような発進方法を行うことなどが有効でしょう。
■高齢者は、事故=死亡に結び付きやすい
また、免許保有者10万人あたりの交通事故死者数(第一当事者)を、年齢別に示した表を見てみましょう。この表は、各年代の死亡事故件数を、35~44歳を基準(1.0)として比較したものです。
この結果から、20代後半から40代前半は、免許保有者も多く、死者数の少ない年代であることがわかります。
一方で、特に75歳以上では、死者数が多くなっており、35~44歳群の約8.6倍に達しています。65~74歳の層でも、約3.1倍、55~64歳の層でも約1.9倍という数値になっています。
既に記したように、高齢者は車両単独の事故が多いことも考慮すると、実は高齢者の事故受傷時における身体的脆弱性が影響していることも指摘できます。高齢者はひとたび事故を起こせば、若年層に比べて事故が発生した際に大きなダメージを受けやすいということです。
出典=警察庁交通局『令和6年中の交通事故の発生状況』(2025年2月公表)総務省統計局『人口推計』令和6年10月1日現在警察庁交通局運転免許課『運転免許統計令和6年版』
■高齢者の交通事故数は減少傾向
免許保有者10万人あたりの交通事故件数も見てみましょう。若年層と高齢者層で多く、中間の年代で少なくなるU字型の傾向が見られます。
図表3は、令和6年の警察庁によるデータを基にした、「一般原付以上運転者の免許保有者10万人あたりの交通事故件数(第一当事者)」を年齢別に見たものです。突出しているのは16~19歳、次に20~24歳の年代です。これは令和6年に限らず、毎年同じような傾向にあります。
出典=警察庁「令和6年中の交通事故の発生状況」高齢運転者ばかりが話題になりがちな交通事故対策ですが、交通安全対策として若年層も重要な対象であるといえます。
また、30~64歳の年代は事故が比較的少なく、いわば基準となる年代と考えられますが、65~69歳、70歳~74歳、75歳~84歳、85歳以上のいずれの年代も、基準の年代と比べて10万人あたりの交通事故件数が2倍以上になるような差はありません。さらに高齢者のなかでも、65~74歳では30~64歳と大きな差は見られません。
ただし、75歳以上になると、年齢が上がるにつれて事故件数は増加していきます。このことから、若年層に加えて75歳以上の高齢運転者も、交通事故対策の重要な対象といえます。
また、高齢運転者による交通事故件数は、いずれの年齢層でも長期的には減少傾向にあります。
出典=警察庁交通局「令和6年における交通事故の発生状況について」特に65~69歳では減少幅が大きく、他の年代でも一時的な増減はあるものの、全体として減少しています。
これは安全対策の進展や車両性能の向上などの効果が出ていると考えられます。高齢者の事故が増えているという印象とは異なり、実際には改善が進んでいることがわかります。
■「高齢ドライバーは危険」という社会的認識と実態にズレはないか
交通事故をめぐる議論では、「高齢ドライバーは危険」「重大事故を起こしやすい」という印象が語られることが少なくありませんが、統計データでは、こうした社会的イメージと実態に必ずしも一致しない点が見えてきます。
「高齢者=危険運転」はデータとして正しいか?
前述したように、事故は高齢者に限らず、若い世代でも多く発生しています。一方で、事故の内容を見ると、高齢者は単独事故や自損事故の割合が高く、事故に遭った際に重傷化しやすいという特徴があります。
堀川悦夫・楠田悦子『免許返納を10年延ばす70歳からの運転学』(プレジデント社)加害性という観点で比較した場合、高齢ドライバーが他の世代よりも突出して危険だとは言い切れないという研究もあります。「高齢者=危険運転」という単純な図式は、必ずしもデータに裏づけられているわけではありません。
しかし現実には、高齢ドライバーの事故が大きく報道されることで、「高齢者の運転は危険」という印象が強まりやすい傾向があります。社会的な印象と実際の統計との間にズレが生じやすいことは、交通安全を考えるうえで理解しておくべき重要なポイントです。
年齢だけで危険性を判断するのではなく、客観的なデータを基に冷静に考えること、そして特定の世代を過度に問題視するのではなく、実態に基づいた議論をすることが求められています。
----------堀川 悦夫(ほりかわ・えつお)佐賀大学理工学部特任教授、福岡国際医療福祉大学特任教授。医学博士、学術博士
東北大学医療技術短期大学部助教授として勤務するなか、東北大学医学部老年内科もの忘れ外来で神経心理学的検査等を担当。その後、文科省在外研究員およびミシガン大学客員研究員として認知症、易転倒性、自動車運転等の研究を行う。帰国後、東北大学医学部助教授を経て、2004年から佐賀大学医学部認知神経心理学分野教授として赴任した後、同附属病院動作解析・移動支援開発センター長として3次元歩行解析と運転可否判断などの臨床研究データベース構築を行う。2017年から公益財団法人交通事故総合分析センター客員研究員、2019年から同特別研究員として交通事故ビッグデータ解析を行う。2020年4月から福岡国際医療福祉大学医療学部教授、ならびに佐賀大学医学部脳神経内科客員研究員として臨床研究に従事。現在は複数の病院で、もの忘れ外来や運転可否判断、運転リハビリテーションを担当している。公認心理師、臨床心理士、DRS(ADED:米国運転リハビリテーション協会基礎資格)、10代後半から20代前半にかけて長距離トラック運転手経験を有する。
--------------------楠田 悦子(くすだ・えつこ)モビリティジャーナリスト
自動車新聞社モビリティビジネス専門誌『LIGARE』初代編集長を経て、2013年に独立。国土交通省の「自転車の活用推進に向けた有識者会議」、「交通政策審議会交通体系分科会第15回地域公共交通部会」、「MaaS関連データ検討会」、SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)ピアレビュー委員会などの委員を歴任。著書に『60分でわかる! MaaS モビリティ革命』(技術評論社)、編著に『「移動貧困社会」からの脱却』(時事通信社)。
----------(佐賀大学理工学部特任教授、福岡国際医療福祉大学特任教授。医学博士、学術博士 堀川 悦夫、モビリティジャーナリスト 楠田 悦子)