性犯罪で教員免許失効後も全国で無資格勤務 「改姓」でDBすり抜けた元教員の黒い過去
福岡県須恵町の町立中学校の補助教員として勤務していた男が、偽造した教員免許のコピーを教育委員会に提出したとして逮捕された。男は過去に性犯罪で教員免許を失効しながら別の学校でも勤務し、不正発覚後は名字を変え、偽造免許を使って学校で働こうとしていた。これまでにも無免許教員による勤務が相次ぎ、対策が講じられているが、近年は教員不足から採用の間口が広く、人手を求める学校現場が狙われやすい状況もある。
「募集ありませんか」
偽造有印公文書行使の疑いで福岡県警に逮捕されたのは、同県宇美町の補助教員、近藤正仁容疑者(66)。逮捕容疑は今年1月下旬ごろ、須恵町役場に偽造された中学校教諭1種免許状の写し1通を提出したとしている。
須恵町教委によると、補助教員は授業のサポートが業務で、昨年12月ごろ、近藤容疑者から「令和7年度の募集はありませんか」と直接問い合わせがあった。補助教員として働くのに教員免許は法律上必要ないが、同町は支援の充実のため保有を条件としていた。
近藤容疑者が提出した書類には複数の学校での勤務歴が記されており、面接時の態度にも問題はなかった。採用が決まって4月に勤務を始めたが、9月になって保護者が「教員免許を偽っているのではないか」と指摘。町教委が免許状の原本の提出を求めたところ「手元にない」と回答した。
福岡県須恵町役場保護者からは、近藤容疑者が掃除中にスカートをまくり上げていた生徒に「その姿はエロくみえる」と発言したり、女子生徒をじろじろ見たりといった問題行動の報告も寄せられた。喜ぶ女子生徒の頭に触れたとして、学校が不用意な接触をしないよう指導したこともあったという。
古畑→近藤→橋本
近藤容疑者は過去に教員免許を取得しており、当時の名字は「古畑」だった。平成17年に女子中学生を買春したなどとして逮捕されたほか、道交法違反などで有罪判決を受け、免許が失効した。
学校現場の採用では、子供へのわいせつ行為で処分された免許失効者の情報を検索できる国のデータベースがあり、同町教委も検索したが、該当しなかった。名字を変えることで、チェックをすり抜けたとみられる。
近藤容疑者は平成19年~25年に教員免許が失効した状態で、山口、埼玉、群馬の各県の高校や公立小中学校で「古畑」の名字で臨時教員などとして勤務し、教員免許法違反に問われた。それにもかかわらず、今度は九州で講師を目指した。
福岡県筑豊教育事務所によると、26年7月に「近藤」と名乗る男から「数学の講師で雇ってもらえる枠がありませんか」と電話があった。管内に数学講師が不足している学校があり、面接をすると、「近藤」と記載された免許状に不審な点はなかったが、志願書の顔写真と面接に来た本人が似つかず、県教委から「古畑正仁」という人物に関する注意喚起も出ていた。警察に相談し、免許の偽造が発覚した。
29年4月には再び名字を変えて宮崎に現れた。宮崎県教委によると、「橋本」と名乗る男が県内の自治体で講師として働くため免許更新の手続きを依頼し、免許状のコピーを提出。免許保有の有無を調べるシステムで該当せず、インターネットで調べたところ、近藤容疑者の可能性が浮上し、不正が発覚した。
任意同行される近藤正仁容疑者=10月13日、福岡県宇美町いずれも有罪判決を受けたが、今度は法律上、教員免許が不要な職種として、須恵町での補助教員のほか、令和3~7年には、福岡県篠栗町の小学校で特別支援学級の支援員として働いていたとみられる。
背景には教員不足
教員不足が深刻な学校現場では、教師の欠員を埋める講師や、授業を助ける補助教員は貴重な戦力となっている。福岡県内の教員からは「手を貸してくれる人はありがたく、経験者ならなおさら助かる」と、多様な人材確保のために門戸が広げられている状況が問題の背景にあると指摘する。
大阪府内の中学校で男性が教員免許を所持しないまま15年間にわたって授業を行うなど、無免許や偽造した免許で勤務する事例は後を絶たない。
文部科学省は採用時には免許状の原本確認や管理システムでの照会、大学の卒業証明書などを使い、改正前の氏名もデータベースで確認するよう求めているが、免許状は都道府県によって様式が異なるため偽造を見抜くのが難しいとの声もあり、改善策を検討する。
8年度には子供と接する業務に就く人の性犯罪歴を確認できる「日本版DBS」が導入される。こども家庭庁によると、就労希望者に戸籍情報の提出を求めるため、氏名を変えたとしても把握できるとしているが、男は性犯罪以外にも複数の犯罪を繰り返していた。全ての犯罪歴を確認できるシステムはなく、複数の手段を使った確認の徹底が求められている。(一居真由子)