CRISPRの先駆者が新会社を設立。希少疾患向けオーダーメイド遺伝子編集治療の次章へ

2025年2月、米国のある乳児が、彼のためだけに設計されたオーダーメイドの遺伝子編集治療を受けた。治療は、体内に有害なアンモニアが蓄積する原因となっていた希少な遺伝子変異を修正する目的で、わずか6カ月で開発されたものだった。この乳児──KJ・マルドゥーン──は同年6月に退院した。KJの命は、この治療によって救われた可能性が高いとみられる。

現在、Aurora Therapeuticsというスタートアップが、こうした治療をより多くの希少疾患患者に広げることを目指している。共同創業者であるジェニファー・ダウドナは、遺伝子編集分野の先駆者で、遺伝子編集技術として知られるCRISPRの発明者のひとりだ。彼女はこの技術に関する業績により、2020年にノーベル賞を受賞している。

Aurora Therapeuticsは、米食品医薬品局(FDA)のマーティ・マカリーとビナイ・プラサドが昨秋に提唱した新たな規制の枠組みを活用する方針だ。「plausible mechanism pathway(生物学的妥当性に基づく承認経路)」と呼ばれるこの制度は、少数の患者データに基づいて、希少かつ致死性の疾患に対する個別化治療の承認を可能にすることを目的としている。この枠組みの詳細を、マカリーとプラサドは医学誌『New England Journal of Medicine』に掲載した論文で説明している。

通常、新薬が規制当局の承認を得るには、数百人、場合によっては数千人規模の患者を対象とした臨床試験が求められる。しかし、希少疾患の治療薬では、患者数そのものが少なく、大規模な試験を実施することは難しい。FDAが示した新たな承認経路は、無作為化された大規模試験が実施できない場合でも、治療薬の承認に道を開くものだ。

マカリーとプラサドは論文のなかで、「内容が異なるオーダーメイド治療を用いて、複数の患者に対し連続して有効性が示された場合、FDAはその製品に対する販売承認に向けた手続きに進む」と述べている。こうして得られた患者データを活用することで、製薬企業は、同じ基盤技術に基づく類似の治療薬についても承認を申請できるようになるという。

この点は、Aurora Therapeuticsにとって重要だ。同社は当初、新生児期に検査が行われる代謝性疾患「フェニルケトン尿症(PKU)」の治療に注力する方針を掲げている。PKUは、タンパク質の構成要素であるフェニルアラニンが血中に有害なレベルで蓄積する疾患で、患者は厳格な低タンパク食を続ける必要がある。

早期の治療や継続的な管理が行われなければ、PKUは脳の発達を妨げ、認知機能に深刻な影響を及ぼす可能性がある。米国では、約1万3,500人がこの疾患を抱えていると推定されている。

Aurora Therapeuticsの最高経営責任者(CEO)で小児神経科医のエドワード・ケイは、「この治療の恩恵を受けられる可能性のある患者は数多くいます。ただ問題は、この疾患を引き起こす遺伝子変異が非常に多く、1,000種類以上にのぼる点です」と指摘する。

固有の遺伝子変異を標的に

CRISPRは、ガイドRNAと呼ばれる分子を使って、編集用の分子をゲノム上の狙った位置へ運ぶ仕組みだ。ガイドRNAは自動車のGPSのような役割を果たし、あらかじめ指定された場所へ正確に導く。乳児のKJのケースでは、研究者たちが彼固有の遺伝子変異を標的とするガイドRNAを設計した。そのため、この治療はKJにしか効果を発揮しない。

Aurora Therapeuticsの戦略は、ガイドRNAを入れ替えることで、異なる遺伝子変異に対応する複数のPKU治療薬を開発することだ。従来であれば、FDAはそれぞれをまったく別の新薬として扱い、個別に臨床試験を求めてきた。しかし新たな規制の枠組みの下では、同一の技術プラットフォームを用いて、PKUを引き起こす複数の変異に対応した治療を展開できるようになる。これにより、規制上の手続きは簡素化される見通しだ。

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