「がんはなぜ治療が難しいのか」 腫瘍内科医に聞く、進化する薬物療法と仕事・生活を守る視点

本来、私たちの体には傷ついた細胞を修復したり、不要になった細胞を自ら死なせたりする機能が備わっている。しかし、その制御システムから外れ、「不老」となって増え続ける細胞がある。それががん細胞だ。 なぜ、がんはこれほど治療が難しく、私たちの命を脅かすのか。そして、治療が長期化する現代において、患者のがんをどう抑えながら仕事や生活をどう守ればよいのか。 がん細胞の正体から進化する薬物療法の状況、そして治療効果と共に「患者さんが大事にするもの」を尊重した抗がん剤選択まで、がんの薬物療法に精通する浜松医療センター(静岡県浜松市)腫瘍内科(しゅようないか)部長の小澤 雄一(おざわ ゆういち)先生に詳しくお話を伺った。

がんは、基本的にはもともと自分の細胞です。人間の体は無数の細胞からできており、それらは全て遺伝子という設計図によって管理されています。たとえば指の細胞は指の機能を、舌の細胞は舌の機能を果たすように定められた範囲で生きるよう、遺伝子から指示が出ているのです。 さて、私たちは普段、太陽の光や熱い食べ物、物理的な刺激などによって日々遺伝子に傷を受けながら生活しています。 しかし人の細胞にはもともと遺伝子の高い修復能力が備わっており、傷ついた箇所は次々と修復されていきます。もし万に一つ修復に失敗したとしても、その細胞は「アポトーシス」というあらかじめ遺伝子に組み込まれたプログラムによって、自然に体から死滅します。 ところが、非常にまれにその過程をすり抜けて生き残ってしまう細胞が現れます。遺伝子に異常を受け、与えられたルールから逸脱してしまった細胞、これが「がん細胞」です。 がん細胞の大きな特徴の1つに、「無限に近い増殖が可能」であることがあります。これは老化しない、つまり「不老」ともいえます。たとえばある研究者が70年以上前に採取したがん細胞は、研究室のシャーレの中で今も増え続けており、世界中で使われています。普通の細胞には増殖回数に上限があり、そこに近づくにつれて「老化」し最終的には死んでいきますが、がん細胞は環境さえ整っていればほぼ永遠に増え続けることが可能です。 「不老」と聞くと羨ましく感じるかもしれませんが、このようなルールから外れてプログラムを無視して暴走する、老化しない細胞の存在は、細胞の集合体である生物にとってはその根幹を揺るがす事態につながります。たとえば、指の細胞の一部が「指の形をつくる」という役割を忘れて勝手に増え続けたら、もう指にはなりません。私たち人間を含め生物がその形を機能的に保ち生存していられるのは、全ての細胞が定められたルールに従い必要なときにのみ増え、増殖を繰り返すことで老化し、最終的にアポトーシス(細胞死)で排出されるからなのです。

Medical Note
*******
****************************************************************************
*******
****************************************************************************

関連記事: