旧ジャニーズ・藤島ジュリー氏へのインタビュー本と、「加害者ビジネス」を抑止する「サムの息子法」 #エキスパートトピ
元ジャニーズ事務所の社長・藤島ジュリー景子氏が、7月に一連の問題を振り返る独白本を出版することがわかった。聞き手・書き手は小説家の早見和真氏だ。
目次からはインタビューが2024年6月から12月にかけて行われたことがわかる。母・メリーと叔父・ジャニーとの関係、2016年の『SMAP×SMAP』騒動、事務所内派閥への意識、そして性加害を認めた理由まで内容は、多岐にわたる。冒頭部分は試し読みできる。
ただこうした書籍の出版には、当然倫理的な問題も生じる。以下、今回の出版に関連する記事をいかにまとめた。
ココがポイント
「こうなったら自分と、いまも自分の近くにいてくれている人の名誉のために戦いたいと思っています」出典:早見和真『ラストインタビュー─藤島ジュリー景子との47時間─』新潮社特設サイト 2025/6/10(火)
SMILE-UP.は、いまもジャニーズ事務所時代に築いた事業と資産を保有している。出典:『Yahooニュース!エキスパート』松谷創一郎 2024/4/9(火)
「事件の犯人が、その犯罪に関するネタで本、映画、テレビ番組が作られた場合、(略)受け取る収益を差し押さえることができる」出典:note(ノート):りんがる aka 大原ケイ 2015/6/11(木)
The state of New York froze Sorokin's funds back出典:Yahoo Entertainment 2022/2/8(火)
エキスパートの補足・見解
現状、被害者への補償はかなり進んではいるが、訴訟が複数生じておりけっして補償は終わった状況にはない。なにより、ジュリー氏が主要株主だと考えられる旧ジャニーズ関連会社は音楽や映像などの知的財産を保有しおり、STARTOタレントの売上がいまもSMILE-UP.関連企業に流れている。経営分離が果たされていないこの状況は、デビュー組の被害者にとって補償申告の高いハードルにもなっている。
ジャニー喜多川の性加害問題は、法の不備もあり刑事事件化していない。しかし旧ジャニーズのトップが長年のそうした犯罪的行為を認めながらも、それについて言及した書籍を一方的に出版することには倫理的な問題が発生する。
実際、アメリカでは加害者が事件についての手記やその映像化によって利益を得ることが、「サムの息子法」で抑止されている。たとえば、2022年にNetflixで配信された詐欺師を描いたヒット作『令嬢アンナの真実』では、モデルとなった女性の収益が差し押さえられた。
今回のジュリー氏の本において、そうした「加害者ビジネス」として倫理面ついての言及がないならば、それは著者である早見和真氏の瑕疵として認識されることにもなるだろう。
Matsutani Soichiro/1974年生まれ、広島市出身。専門は文化社会学、社会情報学。映画、音楽、テレビ、ファッション、スポーツ、社会現象、ネットなど、文化やメディアについて執筆。現在、朝日新聞論壇委員、NHKラジオ『Nらじ』にレギュラー出演中。著書に『ギャルと不思議ちゃん論』(2012年)、『SMAPはなぜ解散したのか』(2017年)、共著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学』、『文化社会学の視座』、『どこか〈問題化〉される若者たち』など。中央大学大学院文学研究科社会情報学専攻博士後期課程単位取得退学。 [email protected]