兄がボケました~認知症と介護と老後と「第22回 面会に行けませんでした」
新緑が目に美しい季節となってきましたが、日中と朝晩の寒暖差で体調を崩してしまいがちな時期でもあります。長年在宅で認知症の兄をサポートしてきたライターのツガエマナミコさんの具合も芳しくない様子。兄が施設入居をして、少し肩の荷が下りたとたんこれまで溜まった疲れが出てきているようです。
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大阪・関西万博が始まりましたね。1970年の大阪万博を見に行った人間としては懐かしい響きですが、テーマパークのようなものが一つもなかった時代のあの規模の万博は、今とは比べ物にならないインパクトがありました。子どもながらによく覚えていますし、当時、カツカツの団地住まいで、よくぞ家族で大阪まで行ってくれたと、親に感謝しております。今回の万博も是非、若者や子供たちに見て感じてもらいたい。しかし、昨今は千葉のネズミ様の国同様、スマホが使いこなせるか否かで楽しめる度合いが大きく異なるようでございます。スマホ予約、スマホ決済が当たり前で現金など持っていても役に立たないと聞いております。一番必要なのはスマホのバッテリーでございましょう。わたくしは万博に行っても大屋根リングをグルグル回るだけになりそうなので、おとなしく家にいようと決めております。テレビでもいろいろ紹介されますしね。
それはそうと、わたくし、ここにきて夜も眠れないほど咳込む症状に見舞われて、先日病院に行ってまいりました。熱はなかったので1週間ぐらい様子を見ようと思ったのですが、兄の面会のことがあるので、コロナとインフルエンザの検査だけはしないといけないと思い、受診したわけでございます。
病院の発熱外来に予約をし、コロナとインフルエンザの検査をしていただくと、どちらも陰性で「ただの風邪です。上気道炎ですね」とあっさり。血液検査の結果もすべて正常範囲内で菌やウイルスに感染している数値は出ませんでした。痰が出やすくなる薬や気管支粘膜を修復するお薬や漢方薬をたっぷり出していただいて、今はそれを毎食後飲んでおります。
ただの風邪ってこんなに辛かったのか~と認識を改めました。とにかく痰が絡んで激しい咳が止まらないのでございます。花粉症とのダブルパンチでティッシュは手放せないし、咳のし過ぎであばら骨まで痛くなったので重病説を考えたほど。でもただの風邪でした。
母や兄を自宅介護していた頃の方が、よほど心身に無理がかかっていたと思うのに「ただの風邪」など一度もひきませんでした。おそらく気を張っていたのだと思います。それに比べて今のわたくしの気はゆるゆるのたるんたるん。病気が「気の病」と書くのはこういうことなのかもしれないと解釈いたしました。
というわけで今週は兄の面会はお休み。コロナ感染症でもインフルエンザでもありませんでしたが、致し方ございません。おかげさまで順調に咳も鼻水も治まってきております。悪いものは出し切ることが肝心だと思い、鼻水と痰を積極的に出すことに全力を尽くしております。
そんな折、やはり認知症で施設に入っている叔母の様子があまり良くないという電話がありました。母の妹で、すでに82歳。70歳ぐらいからグループホーム施設に入ったと記憶しておりますが、このところ病院と施設を行ったり来たりしていて、だんだん排せつがしにくくなっているとか…。兄が入所してから「これで叔母にも会いに行けると」と思いながら後回しになっていたことを反省いたしました。しかしこんなときに限って風邪。この風邪が治ったらさっそく会いに行こうと思います。その旨を告げると「私もそうなの。咳が止まらなくてね。だから私の代わりに娘に施設や病院に行ってもらってるの」とのこと。電話口の叔母も80代半ば。「咳が止まらない」のが今の風邪のようです。みなさまもお気をつけくださいませ。
最近知った雑学は「未来永劫」の「劫」の意味でございます。
「刹那」は「きわめて短い時間」のことを指しますが、「刹那」の反対が「劫」でございます。つまり「きわめて長い時間」の意ですが、その時間の長さの表現が素晴らしくて感動したので、お伝えしたいと思いました。
ただし、諸説あることを踏まえてお読みくださいませ。
「劫」は仏教用語で時の長さの単位。一説によると1劫=43億2000万年。100年に一度天から舞い降りる天女の羽衣が石に触れ、それを繰りかえすことで石が削れてなくなる時間だそうでございます。途方もなく長い時間をこんなふうに表現できる発想力が素敵ではありませんか。数字で表してしまうと、それでしかありませんが、天女の羽衣が~とくると物語が広がって「劫」のイメージがすっと入ってまいります。「無限」や「永遠」ではなく「劫」という単位で「有限」にしているのもこだわりがあって素敵だな~と思ったりいたしました。
職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ