ADHDの先延ばし癖を「レシートプリンター」を使ったライフハックで克服できたというエピソード

メモ

ゲームやSNSならいくらでもやり続けられるのに、仕事のタスクや日常の家事などはどんどん先延ばししてしまうという人もいるはず。ADHDに関連した先延ばし癖に悩み、20年以上にわたり生産性を高める方法を試行錯誤してきたというローリー・エロー氏が、「レシートプリンターを使ったライフハックで先延ばし癖を克服した方法」について解説しています。

A receipt printer cured my procrastination [ADHD]

https://www.laurieherault.com/articles/a-thermal-receipt-printer-cured-my-procrastination

◆なぜゲームには中毒性があるのか? エロー氏は21歳の時に起業し、カスタムアプリの開発やPOSツールのコンサルティングに携わってきましたが、長年にわたりADHDの症状に関連する先延ばし癖に悩まされてきたとのこと。エロー氏はクライアントからのストレスや経済的なプレッシャーに頼って物事を成し遂げてきたものの、このやり方は燃え尽き症候群や会社の倒産といった犠牲を伴うものでした。 タスクの先延ばし癖に苦しむ一方で、エロー氏はどういうわけかビデオゲームなら何時間でも熱中し続けられることに気付きました。そこでエロー氏は、ゲームに集中できるなら脳は他のタスクにも集中できるはずだと考え、なぜゲームには夢中になれるのか、なかなかクリアできないタスクにゲームの仕組みを応用するにはどうすればいいのかを検討し始めたとのこと。 まずエロー氏は、ファーストパーソンシューティング(FPS)ゲームを例に挙げて、ゲームが持つ中毒性について解説しています。さまざまなタイプの銃で相手を倒すFPSは、「照準」→「射撃」→「命中 or ミス」というシンプルなループ(ゲームループ)で構成されています。「命中」または「ミス」の結果は、音や映像を通して即座にフィードバックされます。FPSのゲームループを単純に図示したものが以下。

ゲームを中毒性があるものにするには、ゲームループを頻繁に繰り返して強いフィードバックを与える必要があります。たとえば、「30分に1回しか敵に遭遇しないFPSゲーム」を想像してみれば、ゲームループが頻繁に繰り返されることがどれほど重要か理解できるはずです。 また、ゲームのフィードバックは時と共に大きく進化しており、初期のゲームでは「敵に弾が命中すると血しぶきが飛ぶ」という程度だったものが、現代のゲームでは「照準の十字線が一瞬変化して命中したことを示す」「敵の頭上にダメージ数値が表示される」「効果音が鳴る」「敵の死亡アニメーションが流れる」「プログレスバーが進む」「新しいスキルが解放される」「ランダム報酬がもらえる」など多種多様になっています。

加えて、ゲームには複数のゲームループが存在することもあります。たとえば「キャラクターの装備をランダムに入手できる宝箱」「新しいキャラクターを入手できるガチャ」「さまざまな報酬がもらえるサイドミッション」など、メインとなるゲーム要素の他にフィードバックがある場合も多くあります。 また、ゲームループが中毒性を持つには、「ゲームの種類が個人的に楽しめるものであること」「難易度が自分のスキルに合っていること」など、さまざまな要素が関連してきます。そして何よりも、「ゲームを始めるのが簡単であること」も重要です。 これらすべての要素が組み合わさると、ゲームループを回すたびに少量のドーパミンが放出され、それが連続するフロー状態に突入できます。このフロー状態に入ることができれば、人々は目の前のタスクに完全に集中し、時間の感覚を失い、複雑なタスクをより簡単に処理できるとエロー氏は主張しています。

エロー氏は中毒性のあるゲームに重要な点を以下のようにまとめています。これらの要素をタスク管理に取り入れることができれば、仕事や家事といったタスクにもゲームのような中毒性を持たせられるというわけです。 ・ゲームループが頻繁に繰り返されること ・ループからのフィードバックが強力であること ・モチベーションが低くても簡単に始められること

◆ゲームループをタスクに適用する方法

現実世界のタスクも一種のゲームループのように考えることができますが、ここで重要なのは1日のゲームループをできるだけ多くするということです。たとえば「家を掃除する」というタスクを例にとってみると、このタスクは「キッチンを掃除する」「作業部屋を掃除する」「寝室を掃除する」といったより小さな複数のタスクに分割できます。 しかし、これら1つ1つのタスクを行うのに20分、3つのタスクで合計1時間かかるとすると、1時間で得られるループはたった3回しかありません。また、1つのタスクに20分かかると考えると、タスクを開始するのが面倒くさくなって先延ばししてしまうリスクが高まります。 そのためエロー氏は、「キッチンを掃除する」というタスクなら「皿を洗う」「料理台の表面を拭く」「床を拭く」「ゴミをまとめる」など、さらにタスクを細分化することにしました。1つの1つのタスクを2~5分程度で終わるマイクロタスクに分割することで、タスクに取りかかる労力を可能な限り抑えると共に、すぐにフィードバックが得られるようになるというわけです。

◆フィードバックを改善する方法 ゲームループを現実のタスクに適用する上では、適切なフィードバックを得られるようにすることが重要です。エロー氏は「それぞれのタスクを『付箋』に書き出し、タスクが終わると付箋を丸め、透明な瓶に入れる」という方法を考案しました。 これにより、タスクが終わるたびに「付箋をくしゃっと丸める感触」「付箋を丸めた時に鳴る音」「透明な瓶に丸まった付箋がたまって進捗(しんちょく)が可視化される」といったフィードバックが得られるとのこと。 エロー氏は、「重要なポイントは、タスクを付箋に書くと現実味が増すということです。もはや画面上の単なる文字ではありません。目の前にあるものを実際に見ることで、先延ばしにすることが難しくなります」と語っています。

◆タスクのゲームループを習慣化する方法 さまざまなタスクにゲームループを取り入れるシステムを習慣化するには、「簡単なルーチンをタスクにする」ことから始めるのがいいとのこと。RPGのように最初の敵はできるだけ弱い方が、後の強い敵に挑むための弾みになるというわけです。 エロー氏の場合、毎朝最初に行うタスクは「コーヒーを入れる」であり、その次に「1分間テキストを入力してタイピング速度を測る」「1分間キーボードショートカットの練習をする」といった簡単なタスクをこなしていきます。朝起きてから仕事の前までに付箋10枚ほどの簡単なタスクをこなすことで、1日のモチベーションが上がり、その後も仕事を続けやすくなるとのこと。また、翌日朝のタスクを書いた付箋は前夜のうちに用意しておくと、翌日の朝が楽になります。 付箋を使ったタスクのゲームループを日常に取り入れるには、ある程度の柔軟性を持たせることも重要です。1日の最初を良好なゲームループで始められると、その後の作業は勢いに乗ったまま、付箋なしで進められる場合もあります。その集中力が続いている場合は付箋を作らなくてもOKですが、やがて付箋にないタスクを先延ばしにしていることに気付いたら、数分ほどかけて集中力を高め、次の3~5個のタスクを付箋に書き出すといいとのこと。 また、「受信トレイにたまった数千件のメールを処理する」という、何カ月も積み重なった大きなタスクがあるかもしれません。その場合、1日ですべてを処理するのは難しいので、「その日の分の新しいメールを処理する」「古いメールを○件だけ処理する」という風に、少しずつでも手を付けていく方がいいとエロー氏はアドバイスしました。 この方法は、たとえ付箋やふさわしい瓶がなくても、紙と何かの入れ物さえあれば実行可能。エロー氏は、「生産性・先延ばし癖・効率性について何十もの記事を読み、数え切れないほどのYouTube動画を見てきたでしょう。さあ、今すぐ行動を起こすのです!言い訳はやめましょう」「数週間、テストを続けてください。ジムに通うのと同じように考えましょう。最初のトレーニングで巨大な筋肉を持つボディビルダーになれるわけではありません。このシステムを習慣にしましょう!」と呼びかけています。

◆レシートプリンターの導入 この方法はエロー氏が試してきたどのようなシステムよりもうまくいっていますが、ひとつ大きな問題がありました。それは、毎日数十枚もの付箋にタスクを書き出すのが面倒という点です。怠惰な気分になってしまった日は付箋を書くことができず、生産性が急落してしまったとのこと。 ある日エロー氏は海外掲示板のRedditで、「レシートプリンターを使って日々のタスクを印刷している」という投稿を見かけました。それを受けてエロー氏は、自身のタスク管理システムにもレシートプリンターを導入することにしました。

レシートプリンターは1日数十枚のタスクを簡単かつ高速に印刷でき、自動的に適切な長さで切り取ってくれます。また、「エプソンTM-T20III」のような感熱式のレシートプリンターであればインクは不要で、ランニングコストも数万円程度の本体と1本数百円の紙ロールだけで済みます。

エロー氏は毎日のタスクを印刷するためのアプリを作成し、曜日ごとにタスクリストを作り、これまでは付箋に書いてなかったようなルーチンもプリントするようになりました。その結果、作業の一貫性が保たれて生産性が大幅に上がり、タスクの抜けもまったくなくなったとのことです。 記事作成時点のエロー氏のタスク管理環境は、以下の写真のようになっています。

エロー氏は、「この方法とプリンター、そしてアプリの組み合わせはここ数カ月で私の人生を大きく変えました。今では生産性が安定しており、ADHDを持つ私にとって日常の大きな勝利と言えるでしょう。誇張ではなく生産性が2倍、3倍になったと信じています。もちろん、このシステムを使う前にも非常に生産性が高い日もありましたが、ほとんど意味のある仕事をしていない日もありました。そんな生産性の低い日が、私の生活から完全に消え去ったのです」と述べました。

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