記者がシビれたトム・クルーズ“神返答” 「ミッション:インポッシブル」来日記

映画「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の記者会見に登場したトム・クルーズさん=東京都内で2025年5月7日、吉田航太撮影

 トム・クルーズにシビれた。「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の公開に合わせて3年ぶりに来日したトムの記者会見。ファンに対するサービス精神で知られるハリウッドの英雄は、報道陣からの質問に対する返し方も気が利いていた、というよりも、言葉に血が通っていると強く感じた。記者が心にしみた、彼の三つの“神返答”および“神行動”を振り返ってみたい。

ファン衝撃?の「緊急事態」から3年

 トム・クルーズの来日は、今回が25回目なのだそう。前回は2022年、これまた世界的ヒット作「トップガン マーヴェリック」のプロモーションのため東京にやってきた。

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 実は2年前の夏、「ファイナル・レコニング」の前編にあたる「ミッション:インポッシブル/デッドレコニング」公開に合わせ、トムら出演陣が来日する予定だったが、直前に全米の映画俳優組合が待遇改善などを求めたストライキの開始を発表した。映画に関わる仕事はすべて中断とするとして、トムの遠征も取りやめになった。「ストで来日中止」というニュースに、私を含む日本の映画ファンのため息が列島を覆った(?)はずだ。

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」©2025 PARAMOUNT PICTURES.

 しかし、トムは帰ってきた。今回の「ファイナル・レコニング」の記者会見で彼が発したのは、例えば以下のような言葉だ。よく知られているが、彼は「ミッション:インポッシブル」シリーズで、自ら主演するだけでなく、プロデューサーやストーリーの考案も担っている。

 「(日本の)皆さんに会いたかった。また来られてうれしいです」

 「私は皆さんのために映画を作っています」

 「映画を作るのは、小さいころから夢見ていたことでした。自分の夢を生きられる。それを受け入れてくれる観客の皆さんを楽しませることができるというのが、当たり前のことだとは絶対に思いません」

 こうして字にしてみると、ちょっと歯が浮くような言葉が並んでいる気もする。ただその話しぶりがとても自然で、ハマっているように聞こえた。

決して「諦めない」……Travis宮近も感激?

 さて、前述の一つ目の“神返答”である。記者会見での報道陣からの質問は「これだけハードな動きをするエネルギーやモチベーションは、どこから来るのですか?」。ちなみにこの質問者は、TBSのバラエティー番組「ニノなのに」に出演する「Travis Japan」の宮近海斗で、すべて英語での問いだった。

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の記者会見であいさつするトム・クルーズ=東京都内で2025年5月7日、吉田航太撮影

 トムが明かしたエネルギーの源は。

 「絶対的な『情熱』と『愛』です。目標を常に持ち、チャレンジするのが大好き。何があっても諦めない。人生は冒険です」

 何があっても諦めない――。今回が8作目になる「ミッション:インポッシブル」シリーズのファンなら、この言葉の重みを、感じてもらえると思う。代役のスタントを起用せず、自ら命綱を手に高層ビルの壁を垂直に走り、空中を舞う飛行機にしがみつく……といった超絶シーンの撮影に挑んできた俳優が、観客を魅了する表現方法の追求を「諦めない」というのは、説得力がありすぎるくらいある。

 実際に、過去のシリーズでは撮影中に足首を骨折し、製作が中断されたこともあった。常に本気で撮影に臨んできた彼の話は続く。

 「よく『怖くない?』と聞かれますが、もちろん怖いです。いろいろな感情は出てくるが、それは問題ない。自分がどれだけ光栄な立場にいるのか、それを当たり前と思わないようにしています」

 “神返答”と思ったのは、トムが宮近に対して、最後にかけた言葉だ。

 「やり続けることです。誰かに許可を得るなどと気にせず、どんどんやってください」

 どんどんやって、とトムに“許可を得た”宮近。彼の芸能生活の、ターニングポイントになる瞬間だったのでは。いや、そうでなくてはいけない。

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」©2025 PARAMOUNT PICTURES.

記者に刺さった「forever」

 二つ目の“神返答”は。トムがカメラの向こう側のファンだけでなく、すぐ目の前にいる相手を何よりも尊重する姿勢を感じた瞬間があった。別の記者が「ミッション:インポッシブルの元々のアイデアは、どこから生まれたのか」と質問した。

 回答したクリストファー・マッカリー監督は、シリーズ6作目の「『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』で学んだストーリーテリングを(今作で)どのように生かすかを考えた」などと熱弁をふるう。そんな盟友を、隣にいるトムはこんな言葉で評した。

 「(マッカリー監督と)出会った瞬間に、自分は彼と一生、仕事をすると確信したんです」

 トムが実際に発した英語は“forever”。聞いていた私でさえ、瞬時に「刺さった」言葉で、マッカリー監督本人がうれしくないはずはない。こういう言葉をさらりと発して、それがハマる。トムは永遠の(forever)スター、とさえ感じた。

「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」の記者会見で笑顔で手を振るトム・クルーズ(左)とクリストファー・マッカリー監督=東京都内で2025年5月7日、吉田航太撮影

後ろを振り向き、スタッフと……

 最後の三つ目は“神行動”。記者の質問を受ける前、トムが単独で姿を見せ、椅子に座って司会者と話をした後、マッカリー監督が舞台袖から登壇した。黒い服のスタッフ2人がマッカリー監督の椅子を運んで来ると、トムは180度体の向きを変えて報道陣に背中を見せ、スタッフに何事か話しかけた。

 記者席にまで聞こえてはこなかったが、おそらく「Thank You!」、もしくは日本語で「ありがとう」と、声をかけたのではないかと思う。トムはそれぞれ両手を差し出し、握手を求めた。スタッフたちは驚いていた(はずだ)。

 トムの来日に際して、何百人、何千人のスタッフが尽力したはず。スタッフ2人は、握手を求められるとは思っていなかったのでは。ファンや周囲のスタッフを大切にする――。そのメッセージも振る舞いも、彼の有言実行ぶりが随所でひしひしと感じられた、約1時間半の記者会見だった。

スパイに「定年」はない!?

 「ミッション:インポッシブル」シリーズでトムが演じるスパイ、イーサン・ハントは、世界を守る「ミッション」遂行のためとはいえ、時として相手をあやめるなど冷徹な姿を見せる。でも、ハント(=トム)の本質は「心優しい」「正義」の男。見る側は心の中にそのことを留め置いておけるから、映画を安心して楽しめるのだと実感した。

 そんなハント(=トム)の雄姿を徹底的に追跡できる「ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング」は5月23日に日米同時公開。題に「ファイナル」と銘打っているが、これが最後の作品? いや、警察署に籍を置く刑事とは違って、スパイに「定年」はない……と私は勝手な願望を抱いているが、果たして。【屋代尚則】

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