首都直下地震の経済被害83兆円 大規模停電、キャッシュレス使えず
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19日公表の首都直下地震の新たな想定は「国難級の災害」への備えが途上にある現状を示した。経済被害は83兆円で前回想定から1割減ったものの、東京一極集中に伴う電力需要の増大で停電規模は1.3倍に膨らんだ。復旧に時間がかかれば国の中枢機能に深刻な混乱が生じかねない。官民が早急に対策を再点検する必要がある。
今回の想定は2013年の前回想定と同様、発生の可能性が比較的高く、経済活動への影響が大きい都心南部を震源とするマグニチュード(M)7.3の地震を中心に被害を推計した。
経済被害は82兆6000億円で前回想定(95兆3000億円)から1割減った。このうち住宅や建物など資産への直接的な被害は前回想定から5%減の45兆1000億円。交通網の寸断や工場停止によるサプライチェーン(供給網)の途絶など生産・サービスの低下による被害は同21%減の37兆5000億円と見積もった。
古い木造家屋の建て替えで「木造住宅密集地域(木密)」の解消が一定程度進み、全壊・焼失家屋の棟数が34%減ったことに加え、大企業を中心に事業継続計画(BCP)の策定が進展したことなどを反映した。
一方で前回想定の1.3倍と大幅に積み増したのが停電規模だ。東京湾沿岸の火力発電所が被災し、1カ月ほどの運転停止を余儀なくされる可能性があり、被害直後は9都県で1649万軒と被災地域のおよそ半数の世帯で電力供給が途絶える。都市部への人口流入で電力需要が増大している点を考慮した。
1週間後には大半の世帯で電気が復旧し、停電規模は69万軒まで減ると見込むものの、被災した電線などの復旧が遅れれば首都の中枢機能や企業活動に影響し、経済被害が想定より膨れ上がる可能性は否定できない。
停電はほかの社会インフラの機能停止も招く。固定電話やインターネットは約半数の757万回線が不通になり、携帯電話の基地局も半分が停波する見込みだ。
さらに、停電や通信障害によってデジタル技術を使ったサービスも機能不全に陥る。代表例が近年急速に普及するキャッシュレス決済だ。報告書は、キャッシュレス決済が発災後に使用できず、現金以外での決済が困難になる事態に言及した。
ATMの停止や金融機関の支店の営業停止により現金の引き出しができなくなったり、コンビニやスーパーで混乱が生じたりする恐れがあるとして「一定の現金を手元に用意しておくことが望ましい」と指摘する。
首都機能の維持には官民を挙げて日頃から備える必要があるが十分とは言い難い。大企業のBCP策定率は23年度で76%と11年度から30ポイント伸びたものの、24年度末までに100%とする政府目標は遠い。中小企業は46%とさらに遅れが目立つ。
報告書は想定を超える被害が生じた場合、「現行のBCPでは対応が困難となる可能性もある」と指摘。訓練による組織内の浸透、定期的な見直しによって実効性を高める必要がある。
老朽インフラ対策の遅れも首都機能維持の急所となりかねない。25年1月には埼玉県八潮市で下水道管の腐食が原因とみられる道路陥没事故が発生し、多くの住民や事業者が長期間にわたって下水道の利用を自粛した。
今回の被害想定でも下水道が利用できなくなる人口は最大180万人と前回想定の150万人から積み増した。停電規模と同様に被災地域の人口増が要因だが、国土交通省の調査では腐食や破損による陥没リスクが高い下水道管は全国で計300キロメートルを超えるなど対策は急務だ。
首都直下地震が発生すると、サプライチェーンが寸断されるなど企業活動への深刻な影響が懸念される。被害を最小限に抑えるため、各企業はBCPを意識した様々な対策を通じ巨大災害への備えを急いでいる。
日本通運は東京や横浜など太平洋側の港が津波などで被災した場合を想定した配送サービスを始めた。日本海側などにある国内約30拠点から釜山港にある同社倉庫に荷物を運搬。欧米やアジアなどに輸出できる仕組みを整えるとともに、平時でも災害時に備えて荷物を保管できるようにした。
医薬品卸大手の東邦ホールディングス(HD)は2020年に大型物流センター「TBCダイナベース」(東京・大田)を稼働させた。環状7号線の内側に位置するため、首都直下地震の発生時に通行が制限された場合でも迅速に都心部の災害拠点病院などに医薬品を届けられる体制を構築した。
本社機能を都心から移す動きも相次いでいる。
23年に東京から栃木県鹿沼市に本社を移転したのは、研磨剤製造大手のマイポックス。災害リスクが低いとみた同県で安定した生産体制を築くことで、世界シェアがほぼ100%というハードディスク用研磨フィルムなどの供給網が大規模災害によって寸断されるリスクを最小限に抑えた。
東京・大手町に本社を構えるNTTは22年10月、群馬県高崎市と京都市に経営企画や総務などの本社機能を分散した。事業継続できるかどうかを1年かけて検証。23年11月から、本社や都内の防災拠点が使えなくなった場合には高崎市のオフィスに災害対策本部を設置する運用を始めた。
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