過去最大の弾道ミサイル101飛来と自爆無人機1077突破:ウクライナ迎撃戦闘2025年10月分の傾向(JSF)
2025年10月にウクライナ空軍司令部が報告したロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃は合計で5559飛来(ドローン5298機+ミサイル261発)でした(注:一部ミサイルを含めていない)。中でも弾道ミサイルの飛来数は101発にも達しており、集計報告上では過去最大を記録しています。また自爆無人機の突破数は1077機と過去最大、ミサイルの突破数も108発と過去最大の被害数となっています。10月は総飛来数では過去4番目ですが、突破数も打撃量も過去最大の被害が発生しています。出典:ウクライナ空軍司令部
○2025年10月:5559飛来4375排除
各種ミサイル:261飛来154排除(123撃墜+31未到達)
- 弾道ミサイル:101飛来38排除(17撃墜+22未到達)
 - 転用ミサイル:8飛来0排除
 - 巡航ミサイル:152飛来115排除(106撃墜+9未到達)
 
各種ドローン:5298飛来4221排除
- プロペラ推進:5298飛来4221排除 ※自爆型と囮型
 - ジェット推進:飛来報告無し
 
※10月5日(出典)、10月10日(出典)、10月16日(出典)、10月30日(出典)に詳しい種類を指定しない「ミサイルの未到達」が報告されている。飛来状況を判断して10月5日(6発)は巡航ミサイル、10月10日(4発)は弾道ミサイル、10月16日(18発)は弾道ミサイル、10月30日(3発)は巡航ミサイルが未到達だったものと推定する。
※10月12日(出典)と10月30日(出典)にKh-31P対レーダーミサイル1発ずつ合計2飛来の記録があるが、この記事の統計では含めていない。なおKh-31Pの報告は4月19日以来となる。
※10月16日(出典)にKh-59空対地ミサイル7飛来5撃墜の記録があるが、この記事の統計では含めていない。報告の表記が「Kh-59/69」の場合は含める。これはKh-59の射程は短いが原型を留めないほど改良した派生型のKh-69の射程はかなり長く、巡航ミサイル扱いとするため。
※ウクライナ空軍司令部は9月8日以降にドローン飛来数のうちシャヘド型自爆無人機の推定数を記載するようになっていたが(説明)、しかし10月1日、2日、3日、4日、6日はシャヘド推定数の記載が無い。データとしても正確性が疑わしい上に抜けが多いので、当記事ではこの要素を取り扱わない。
※ウクライナ空軍司令部は2025年7月24日以降にドローンの「未到達」の数を詳しく報告しなくなった(説明)
※「排除」とは撃墜または抑制(ЗБИТО/ПОДАВЛЕНО)のことで、抑制とは本来は電子妨害での無力化を意味するが、しかしここではドローンに関しては囮無人機の燃料切れ墜落による「未到達」も含む。
※ミサイルの「未到達」は滅多に報告されないが、デコイ弾の誤認や単純に外れただけの可能性がある。
※10月の大規模攻撃、50突破以上の記録。なおドローンは毎日飛来している。
弾道ミサイル10月傾向:過去最大101飛来
- キンジャール空中発射弾道ミサイル×14飛来2撃墜
 - イスカンデルM弾道ミサイル×10飛来5撃墜
 - イスカンデルM/KN-23弾道ミサイル×77飛来10撃墜
 
○弾道ミサイル:101飛来38排除(17撃墜+22未到達)
- 63突破 ※阻止率38%(未到達を除いて計算すると撃墜率22%)
 
※10月10日(4発)と10月16日(18発)の未到達ミサイル22発は全て弾道ミサイルだったものと見做して集計する。
※北朝鮮製KN-23弾道ミサイルはロシア製イスカンデルMの模倣品であり、飛行特性が同じなのでレーダーでは見分けが付かない。
10月の弾道ミサイルは101飛来と極端に多く、過去最大数となっています。これまでの弾道ミサイル最大数は2025年6月の59飛来だったので2倍近い数であり、最近の平均と比べると3~4倍近い数となっています。
ただし未到達が22発と多く、特に10月16日の18発の未到達はあまりにも多く、イスカンデルM弾道ミサイルの尾部から放出する9B899デコイ弾を誤認した可能性(関連記事)があります。もし未到達の22発全てが誤認だった場合、実際に飛来した弾道ミサイルは79発になりますが、その場合においても依然として過去最大数のままです。
2025年弾道ミサイル飛来数
- 2025年10月:101飛来
 - 2025年09月:21飛来
 - 2025年08月:50飛来
 - 2025年07月:58飛来
 - 2025年06月:59飛来
 - 2025年05月:47飛来
 - 2025年04月:26飛来
 - 2025年03月:22飛来
 - 2025年02月:27飛来確定(最大+33、詳細不明)
 - 2025年01月:20飛来
 
※2025年2月のウクライナ空軍の集計報告には迎撃戦闘の混乱で不備が幾つかあり(関連記事)、ミサイルの飛来数は数えているものの種類は不明のまま纏めて発表している。
ロシア軍の弾道ミサイル使用数は、開戦初期の混乱して集計が出来ていなかった時期を除いて(この初期に大量投入されていた可能性が高い)、その後は2023年12月までは月間平均使用数は10発程度でした。おそらく開戦初期に在庫の大半を使い切ってしまい、補充の生産が全く捗っていなかったのでしょう。しかし2023年12月以降に北朝鮮からKN-23弾道ミサイル(イスカンデルM模倣品)の供給を受け始めると、月間平均使用数は月間20~30発に上昇します。2024年は1年間で弾道ミサイル320発が飛来、2025年は5月以降に増加傾向が見えており10月経過時点で既に431発です。
キンジャール空中発射弾道ミサイルは2024年は1年間で63発が飛来。2025年は1~5月までキンジャールは飛来が無く、6~10月で54発が飛来しています。キンジャールは空中発射型ゆえに地上発射型のイスカンデルM/KN-23との判別が可能で、このキンジャールはロシア製です。
最近の傾向としてロシア軍の弾道ミサイル発射数が明らかに増えており、おそらく北朝鮮からロシアへのKN-23の供給が増えている可能性があります。ロシア国産のイスカンデルMの劇的な増産が行われているようには思えません。同じくロシア国産のキンジャールも年間を通してみると生産数は増えておらず、使用を控える期間が長かった後に増えているだけのように思えます。
転用ミサイル10月傾向:3カ月連続で飛来数は低調
- S-300地対空ミサイル×7飛来0排除 ※18日(3発)、21日(4発)
 - オーニクス地対艦ミサイル×1飛来0排除 ※1日(1発)
 
○転用ミサイル:8飛来0排除
※ここでは転用ミサイル(本来の用途ではない対地攻撃に転用したもの)は超音速型に限定しており、亜音速型は巡航ミサイルに分類する。
転用ミサイルはS-300を中心に7月(24発)は数カ月ぶりに纏まった使用がありましたが、8月(7発)、9月(10発)、10月(8発)と使用は低調な傾向が続いています。
巡航ミサイル10月傾向:秋の備蓄期間に入らず
- Kh-101巡航ミサイル×72飛来53撃墜
 - カリブル巡航ミサイル×17飛来13撃墜
 - イスカンデルK巡航ミサイル×46飛来30撃墜
 - Kh-59/69空対地ミサイル×17飛来10撃墜
 
○巡航ミサイル:152飛来115排除(106撃墜+9未到達)
- 37突破 ※阻止率76%(未到達を除いて計算すると撃墜率74%)
 
※10月5日(6発)はと10月30日(3発)の未到達ミサイル9発は全て巡航ミサイルだったものと見做して集計する。
※※10月16日(出典)にKh-59空対地ミサイル7飛来5撃墜の記録があるが、この記事の統計では含めていない。報告の表記が「Kh-59/69」の場合は含める。これはKh-59の射程は短いが原型を留めないほど改良した派生型のKh-69の射程はかなり長く、巡航ミサイル扱いとするため。
巡航ミサイルは10月(152発)は先月の9月(153発)とほぼ同じです。過去2年はロシア軍は秋に巡航ミサイルの使用を控える備蓄期間を設けていましたが(2023年10月~11月と2024年9月~10月)、2025年はまだその兆候は見られません。
10月の巡航ミサイルの顕著な傾向としてはイスカンデルKが46発と大きく増加したことです。同系統の設計のカリブルと併せると63発にも達しており、これまで巡航ミサイルの主力だったKh-101の72発に迫る数です。同じような傾向は2025年7月(関連記事)にも起きています。なお10月のKh-101は5日(42発)と30日(32発)の2回の使用しかありませんでした。
追記:ロシア軍が9M729(SSC-8)巡航ミサイルを投入か?
※ロシア軍が地上発射型の9M729巡航ミサイル(NATOコードネーム:SSC-8スクリュードライバー)を攻撃に投入し始めたと、10月31日にウクライナのシビハ外相がロイター通信に答えた。出典:ロイター通信
※同じ地上発射型のイスカンデルK巡航ミサイルは射程500km。これに対して9M729は最大射程2500kmのINF条約違反兵器で、同条約が破棄される原因となった。
※ロシア軍は2025年8月21日以降ウクライナに向けて9M729を23回使用、また2022年にも2回使用の記録。
※ロシア軍が10月5日に発射した9M729は1200km以上飛行してウクライナに着弾。
※ロイター通信は10月5日の攻撃でLapaiivka村(ロシア国境から600km)で発見されたミサイル残骸の写真から9M729の刻印が書かれた部品を確認。ミドルベリー国際大学院モントレー校のジェフリー・ルイス教授が写真を検証。
※Lapaiivka村:ラパイウカ、Лапаївка、Lapayivka、Lapaivka。ウクライナ西部リヴィウ市の西隣にある村。
イスカンデルK巡航ミサイルが増えたと思っていたものは、実は正体は9M729だったのかもしれません。
- 9M729:最大射程2500km
 - 9M728:最大射程500km(イスカンデルK)
 - 9M727:ロシア側の公式発表資料には無い型番のミサイル
 
※ウクライナ側は9M727をロシア軍のイスカンデルKとしている。
各種ドローン10月傾向:初めて突破数が1000超え
- プロペラ推進:5298飛来4221排除、1077突破 ※阻止率80%
 - ジェット推進:飛来報告無し
 
※ジェット推進ドローンの飛来報告は8月と9月に数機あったが、10月は報告されていない。
※ウクライナ空軍司令部は9月8日以降にドローン飛来数のうちシャヘド型自爆無人機の推定数を記載するようになっていたが(説明)、しかし10月1日、2日、3日、4日、6日はシャヘド推定数の記載が無い。データとしても正確性が疑わしい上に抜けが多いので、当記事ではこの要素を取り扱わない。
ドローン突破数と阻止率の推移
- 2025年10月:1077突破:5298飛来4221排除 ※阻止率80%
 - 2025年09月:736突破:5585飛来4849排除 ※阻止率87%
 - 2025年08月:697突破:4132飛来3435排除 ※阻止率83%
 - 2025年07月:723突破:6297飛来5574排除 ※阻止率89%
 - 2025年06月:757突破:5438飛来4681排除 ※阻止率86%
 - 2025年05月:715突破:4005飛来3290排除 ※阻止率82%
 - 2025年04月:381突破:2476飛来2095排除 ※阻止率85%
 - 2025年03月:377突破:4198飛来3821排除 ※阻止率91% ※突破急増
 - 2025年02月:107突破:3909飛来3802排除 ※阻止率97%
 - 2025年01月:90突破:2599飛来2509排除 ※阻止率97%
 - 2024年12月:24突破:1850飛来1826排除 ※阻止率99%
 - 2024年11月:68突破:2436飛来2368排除 ※阻止率97%
 - 2024年10月:85突破:1912飛来1827排除 ※阻止率96% ※囮機急増
 - 2024年09月:47突破:1331飛来1284排除 ※阻止率96%
 - 2024年08月:55突破:781飛来726排除 ※阻止率93%
 - 2024年07月:36突破:426飛来390排除 ※阻止率92% ※囮機確認
 
囮無人機が混じっていない2024年6月以前(1年分)
2023年7月~2024年6月:682突破:4433飛来3751撃墜
- 1カ月あたり平均:約57突破:369飛来313撃墜 ※撃墜率85%
 
※2025年3月以降に自爆無人機の急激な突破数の増加と阻止率の低下が見られる。しかし囮無人機の急増は2024年10月以降なので(2024年7月以降に囮無人機の試験投入開始)、2025年3月以降の変化の原因は囮無人機の投入の影響ではない。おそらく自爆無人機の急増と何よりも目標選定が変化した戦術変更の影響が最も大きいと筆者は推定。(2025年8月1日考察記事)
10月の長距離ドローンは突破数が初めて1000機を超えました。阻止率80%は過去1年で見ても最も悪い数字です。ただし極端に破綻した数字ではありません。ドローン阻止率の推移は最近に限らず過去3年を見ても大きな変動は無く、概ね80~95%の範囲に収まっており、特に悪い場合でも70%台が稀に記録された程度です。
なおミサイルも突破数が100を超えて108発に達し、これまでの平均の2倍近い数字です。2025年10月はドローンもミサイルの過去最大の突破数を記録しています。総飛来数では過去4番目ですが、突破された被害数と打撃量は過去最大なのです。
※ただし開戦最初期のミサイル攻撃は除く。この時は猛攻を受けていた筈だが混乱の中で正確な記録はない。
突破数の打撃力換算(青:ドローン、橙:ミサイル)
筆者作成図:ロシア軍の長距離ドローン・ミサイル攻撃の突破数の打撃力換算(青色:ドローン、橙色:ミサイル):2025年1月~2025年10月- 2025年10月:打撃力215.7点(ドローン107.7点+ミサイル108点)
 - 2025年09月:打撃力131.6点(ドローン73.6点+ミサイル58点)
 - 2025年08月:打撃力118.7点(ドローン69.7点+ミサイル49点)
 - 2025年07月:打撃力145.3点(ドローン72.3点+ミサイル73点)
 - 2025年06月:打撃力143.7点(ドローン75.7点+ミサイル68点)
 - 2025年05月:打撃力126.5点(ドローン71.5点+ミサイル55点)
 - 2025年04月:打撃力88.1点(ドローン38.1点+ミサイル50点)
 - 2025年03月:打撃力83.7点(ドローン37.7点+ミサイル46点)
 - 2025年02月:打撃力60.7点(ドローン10.7点+ミサイル50点※) ※暫定
 - 2025年01月:打撃力44.0点(ドローン9.0点+ミサイル35点)
 
※打撃力換算はミサイルとドローンの弾頭重量差を10倍とする。突破して来たミサイル1発を打撃力1点、ドローン1機を0.1点と計算する。
※2025年2月はウクライナ空軍司令部の集計に不備があり、ミサイルの飛来数は100発と発表されているが種類や撃墜数が発表されていない。そこでとりあえず前後の月とミサイルの阻止率に大きな違いは無かったものと見做し、おおまかにミサイル突破数は50発(暫定)とする。
※「突破数の打撃力換算」では突破して来たドローンは爆発した以上は全て自爆無人機と見做せるので確実性が高い。「飛来数の打撃力換算」は囮無人機の比率の推定が難しいので比較用としては不適当と思われるのでここでは紹介しない。