火葬料金の高騰問題で東京都が姿勢変更 高市早苗政権に早期に法改正申し入れへ

東京都議会第3回定例会で所信表明を行う小池百合子知事=24日(長谷川毬子撮影)

東京都は都議会第3回定例会(3定、9月24日~10月9日)で、23区内の火葬料金高騰問題を巡る姿勢を改め、国に必要な法改正を求めていく方針を示した。3定前後の動きを振り返り、今後の都の取り組みを探った。

料金指導を可能に

「東京の火葬問題、山が動いた!」

都議会で火葬問題に取り組んできた立憲民主党の関口健太郎都議は、9月24日、X(旧ツイッター)にこう書き込んだ。

小池百合子知事が、この日開会した3定の所信表明で、「東京全体で安定的な火葬体制を確保することは重要だ」とし、新たな取り組みを示したためだ。具体的には①料金を含む火葬場の経営管理に対する指導が適切に行えるよう法の見直しを国に求める②(火葬場の)実態を把握した上で火葬能力の強化に向けた取り組みを検討する-の2点に言及した。

火葬場への指導監督は、墓地埋葬法(墓埋法)などで区市町村が担うことになっているが、同法は基本的に民間事業者を想定しておらず、民間の火葬場の料金に関する指導を担保する条文は盛り込まれていない。

このため23区側は「民間の火葬料金の妥当性にまで踏み込んで指導はできない」としている。

23区内にある9カ所の火葬場のうち公営は2カ所。7カ所は民営で、そのうち6カ所は令和2年に中国資本が入る企業の完全子会社になった「東京博善」が運営している。

同社の火葬料金は以前は5万9千円だったが、3年以降、相次いで引き上げられ、9万円となった。

値上げを問題視する都議会の複数の会派からは、区による対応には限界があるとして「東京都全体の課題と捉え、東京都として対応していくべきだ」(自民党の青木英太都議)といった意見が上がっていた。

だが、都はこれまで「法律では、特別区の地域は区が火葬場の指導監督を行うことになっている」との原則論を、半ばひとごとのように繰り返していた。

区民葬終了を発表

そういった中で都が方針転換したのは、この夏にあった火葬を巡る新たな動きや、それを受けた都議会の反応が影響している可能性がある。

「特別区区民葬儀の取り扱いを終了いたします」

東京博善は8月1日、23区の区民が、葬祭業者の協力により、比較的低廉な料金で火葬を利用できる区民葬儀(区民葬)の取り扱いを今年度限りで終了すると発表した。

同社は区民葬の枠組みからの離脱に伴い、「差額を区民の皆さまに還元」するとして、来年度から火葬料金を現行の9万円から8万7000円に値下げすることも合わせて発表した。だが、それでも区民葬の火葬料金(5万9600円)と比べると、2万7400円の割高となる。

発表は波紋を広げ、関係する区の区議や都議らが、Xなどで相次いで問題意識を表明。都議会の立民会派が火葬料金引き下げプロジェクトチームを立ち上げたのをはじめ、多くの会派が火葬問題を巡る都の姿勢を3定でただす準備を進めていた。

そうした動きを感じ取ったのか、小池氏は主要会派による代表質問などに先立ち、新たな方針を打ち出した。

区権限を後押し

小池氏はその後の議会答弁で、都内の死亡者数の長期推計と、都内全ての火葬場の火葬能力の調査を今年度中に実施する考えも表明した。調査結果次第では、23区内外での公営火葬場の新設が、都の政策課題に浮上する可能性がある。

ただ、今のところ、都は新設には慎重な姿勢だ。

「寡占企業による一方的な火葬料金の改定を抑制するためには、小規模な火葬専門施設の設置も有効策と考えている」

今月10日に開かれた都と新宿区との意見交換会で吉住健一区長は火葬場新設の検討を呼び掛けたが、小池氏は直接的な回答はせず「まずは火葬場の実態を把握することが必要だ」と述べるにとどめた。

一方で小池氏はこのとき、墓埋法の改正に関し「特別区が料金を含む経営管理の指導を適切に行えるように、都も特別区と一緒に法改正などを国に要望していく」と語った。

この発言に基づけば、都は火葬場の指導監督権限を区から都に移す法改正は想定しておらず、あくまで区の権限強化を後押しする立場をとっているようだ。

民間火葬場の火葬料金への指導を巡っては、福岡資麿厚生労働相(当時)が9月30日の記者会見で「火葬料金の指導などは、現行法の運用で可能と考えている」と述べており、国と都・区の間で認識に相違もみられた。

都は23区区長でつくる特別区長会と望ましい法改正のあり方を協議した上で、早期に国に申し入れを行いたい考えだ。申し入れ後は、高市早苗政権の対応に注目が集まりそうだ。(原川貴郎)

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