頭の中にリンゴをイメージできない? なら「アファンタジア」かも

目を閉じてリンゴを思い浮かべてもらう「リンゴのテスト」は、その人がどのくらい鮮明に記憶を想起できるかを調べる簡便な検査だ。(PHOTOGRAPH BY JOSE A. BERNAT BACETE, GETTY)

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 目を閉じてリンゴをイメージしてみてほしい。

 リンゴの形が見えるだろうか? 色はどうか? 宙に浮いている? 誰かの手の中にある? それともテーブルの上?

 リンゴの視覚イメージが思い浮かばないようなら、あなたは「アファンタジア」という特性をもっているのかもしれない。

 アファンタジアの人は、「自分は頭の中で視覚イメージをつくれない」と言う。彼らは生き生きとした想像力をもち、きわめてクリエイティブな生活を送っているかもしれないが、視覚イメージに関しては脳の働き方が普通の人とは少々違っている。(参考記事:「人の顔を認識できない「相貌失認」は意外に多い? 最大5%にも」

 英エジンバラ大学臨床脳科学センターの名誉フェローであるアダム・ゼーマン氏は25年前、英エクセター大学の認知行動神経学教授だったときに、心臓手術を受けた後に視覚イメージをもてなくなったという男性患者を紹介された。それまで視覚イメージをはっきり思い浮かべていた人が突然その能力を失うという症例は、ゼーマン氏にとって未知のもので、人間の脳内での心的イメージの機能についての疑問を掘り起こした。

 この患者に関するゼーマン氏の研究が2010年に学術誌「Neuropsychologia」に発表されると、一部の人から強い反響があった。「それから数年間、『私もその患者と同じです。ただ、突然そうなったのではなく、もとから思い浮かべることができませんでした』と言う人たちが連絡してくるようになりました」と氏は振り返る。

 ゼーマン氏は、視覚イメージを思い浮かべられないという21人を研究対象に加え、こうした人々を表現するために、想像力を意味する「ファンタジア(phantasia)」というギリシャ語に否定の意味の接頭語をつけて「アファンタジア(aphantasia)」と呼ぶことを提案した。

疑われがちな特性

 アファンタジアの研究をしているドイツ、ルール大学ボーフムの博士課程に在籍するクリスチャン・ショルツ氏によれば、アファンタジアに関する初期の研究の多くが心理学的研究と自己報告で占められていた。このような主観的なアプローチは一般の人々の疑念を刺激しやすいと指摘する。

 疑う人たちは、本当の違いは、心的イメージを作り出す能力ではなく、思い浮かべた心的イメージの説明の違いにあると主張する。「だから彼らは『それは単なる言葉の問題だ』と言うのです」とショルツ氏。

 氏によると、より鮮明な心的イメージをつくれる人ほど、アファンタジアを疑う傾向があると言う。自分にとってごく当たり前の能力がない人がいると信じるのは難しいのだ。

 だが、科学者たちは近年、強い視覚的想像力をもつ人とそうでない人との生理学的な違いを調べられるようになった。

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