水平対向8気筒はなぜ存在しなかったのか? 中国SOUOが作った“異端エンジン”を読み解く【北京モーターショー2026】

水平対向か180度V型か……エンジン寸法は741×752×540mm

北京モーターショー2026の会場で、思わず足を止めたエンジンがあった。水平対向8気筒エンジンである。

EVやPHEVが会場を埋め尽くすなか、巨大なクランクシャフトや断面モデルまで並べて展示されていたその姿は、強烈な存在感を放っていた。どんなエンジンなのか、見ていこう。

長城汽車が披露した“水平対向8気筒”

北京モーターショーの長城汽車グループのブールの一角に展示してあった水平対向8気筒エンジン。かなりの注目を集めていた。

北京モーターショーの長城汽車(GWM)グループのブースに展示されていたのは、「水平対向8気筒エンジン」だった。

長城汽車グループ傘下の二輪ブランドSOUOのツアラーモデル、「Great Wall SOUO-S2000C Classic one-seat」に搭載されるのが、「GW8M20」という型式を持つ水平対向8気筒エンジンである。

スペックは次の通り。

  • エンジン形式:水冷水平対向8気筒DOHC
  • 排気量:1999cc
  • 圧縮比:11.0
  • 最高出力:153.68ps(113kW)/6500rpm
  • 最大トルク:190Nm/4500rpm
  • 燃料:RON95
  • エンジン寸法:741×752×540mm
  • トランスミッション:8速DCT(湿式)
  • マルチポイント電子制御燃料噴射
  • インテークVVT
  • 電動ウォーターポンプ

搭載車であるSOUO-S2000Cの燃料タンク容量は21.1L。環境規制は中国の「国Ⅳ」に対応する。

これが水平対向8気筒エンジンを搭載するツアラー「Great Wall SOUO-S2000C Classic one-seat」だ。価格は約22万〜29万元(約450万〜600万円)とされており、ホンダ・ゴールドウイングよりも低い価格帯に設定されている。8気筒エンジンを搭載しながらこの価格に収めている点も、このモデルの大きな特徴だ。初期ロットは完売したらしい。

水平対向8気筒はほとんど前例がない

水平対向エンジンといえば、スバルの水平対向4気筒/6気筒や、ポルシェ911の水平対向6気筒が有名だ。

しかし8気筒となると話は別である。

航空機用エンジンには例があるものの、自動車用・二輪車用となると量産例はほぼ存在しない。

自動車で有名なのは、1962年のF1マシン、ポルシェ718(2.0L)や、ル・マン24時間やタルガ・フローリオなどに参戦したポルシェ908(3.0L)などだ。しかし繰り返すが、量産用としては極めて珍しい。

水平対向エンジンは、重心が低く、エンジン高も低くできるうえ、振動バランスに優れるというメリットがある。半面、

  • エンジン横幅が広くなる
  • 排気系や補機レイアウトが難しい
  • コストが高くなるという欠点も抱える。

6気筒までならスポーツカー向きとして成立しやすいが、8気筒になるとかなり横長になってしまう。12気筒となれば、レーシングカーやスーパーカー向けの世界だ。

実際、ポルシェはレース用に水平対向12気筒を作った。一方、フェラーリはテスタロッサに180度V型12気筒を搭載している。

水平対向と180度V型の違い

スバルの水平対向4気筒エンジン。左右のピストンが別々のクランクピンを持つのがわかる。

ここでややこしいのが、「水平対向」と「180度V型」の違いだ。簡単に言うと、

水平対向左右のピストンが別々のクランクピンを持つ

180度V型左右のピストンが同じクランクピンを共有する

という違いがある。結果として、

水平対向向かい合うピストンが逆方向に動く

左ピストン → ← 右ピストン

180度V型向かい合うピストンが同方向へ動く左ピストン → → 右ピストン

という違いになる。

今回の長城汽車の8気筒エンジンは、展示されていたクランクシャフトや断面モデルを見る限り、左右独立クランクピンを持つ“真の水平対向”に近い構成に見えた。

少なくとも、フェラーリの180度V12のような左右コンロッド共有型には見えなかった。

クランクシャフトから見える“本気度”

ブースに展示してあったクランクシャフト。別角度の写真も下に載せる。

興味深かったのは、会場で巨大なクランクシャフト単体まで展示されていたことだ。しかも、その作りがかなり本格的だった。

クランクウェブは非常に厚く、メインジャーナル径も大きい。これは単なるショーモデルではなく、ねじり剛性やNVH(騒音・振動・ハーシュネス)をかなり重視していることを示している。

水平対向8気筒は、エンジン幅が広くなるぶん、クランクシャフトも長くなる。すると問題になるのが「ねじり振動」だ。8気筒エンジンは90度ごとに燃焼するため、高密度でトルク変動が発生する。そのたびにクランクシャフトは捩られる。

長城汽車のクランクシャフトは、それに耐えるため、かなり剛性重視で設計されているように見えた。さらにカウンターウェイトも大型で、明らかに低振動化を狙っている。

つまりこのエンジンは、高回転スポーツエンジンというより、“超高級ツアラー用エンジン”として設計されている可能性が高い。

ホンダ・ゴールドウイングとの共通点

ホンダ・ゴールドウイング 1.8Lの水平対向6気筒エンジンを搭載する。 ゴールドウイングの水平対向6気筒エンジン。DOHCではなくSOHCだ。ホンダSC79E型水冷4ストロークOHC水平対向6気筒排気量:1833ccボア×ストローク:73.0mm×73.0mm圧縮比:10.5最高出力:126ps(93kW)/5500rpm最大トルク:170Nm/4500rpm燃料供給:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI)

燃料タンク:21L

ここで比較対象として思い浮かぶのが、ホンダ・ゴールドウイングだ。

ゴールドウイングは、水平対向6気筒エンジンを搭載する世界的に有名な大型ツアラーである。低重心による扱いやすさと、6気筒ならではの滑らかな回転フィールを特徴としており、“走る高級車”とも呼ばれる存在だ。

長城汽車のGW8M20は、その思想をさらに押し進めたようにも見える。気筒数は6から8へ増え、爆発間隔はさらに細かくなる。理論上は、回転フィールはより滑らかになり、振動もより高周波化する。

組み合わせるトランスミッションは8速DCT。これもゴールドウイングの7速より1速多い構成にしているところがミソだ。

しかも長城は、そこへ8速DCTまで組み合わせてきた。190Nmという大トルクを滑らかに扱い、長距離巡航での快適性を高めるには、DCTとの組み合わせは理にかなっている。

つまりこのエンジンは、単に「8気筒であること」を狙ったのではなく、“究極のツアラー用エンジン”を目指した結果、生まれた可能性が高いのである。

スペック以上に“感性”を狙っている

ゴールドウイングのSOHCに対してこちらはDOHCを採用する。

このエンジンの最高出力は153.68ps。現代の2000ccスポーツバイクとしては、突出した数値ではない。

しかし、このエンジンの本質はそこではない。

注目すべきは、最大トルク発生回転数が4500rpmという点だ。これは高回転型スポーツエンジンというより、“厚い中速トルク”を重視した大型ツアラー的なセッティングであることを示している。

バルブ駆動はローラーロッカーを介さない直打式 上が吸気側のカム、下が排気側。吸気側にはVVTが付く。 吸気側にはVVT(可変バルブタイミング機構)を組み込む。

インテークVVTや電動ウォーターポンプの採用も興味深い。VVTは中低速トルクと高回転性能を両立する技術であり、電動ウォーターポンプは巨大な水平対向8気筒の熱管理を最適化するための装備だろう。

燃料指定がRON95である点からも、極端な高出力化より、実用性や信頼性を優先したことが見て取れる。

そして何より面白いのは、このエンジンが“効率”だけで存在していないことだ。

電動化時代において、水平対向8気筒は決して合理的なレイアウトではない。重量もコストもかかる。パッケージングも難しい。それでも長城汽車は、あえてこのエンジンを作った。

そこには、「エンジンそのものを魅力として成立させたい」という意図が感じられる。

ピストン冠面

“機械の魅力”を見せ始めた中国メーカー

今回の展示で印象的だったのは、長城汽車が巨大なクランクシャフトや断面モデルまで並べていたことだ。

普通の来場者は、液晶ディスプレイやAI、自動運転技術を見る。しかし長城汽車は、エンジン内部構造そのものを見せていた。

つまり彼らは、「我々はエンジンを作れる」「しかも面白いエンジンを作れる」

とアピールしていたのである。

中国メーカーはこれまで、EV、PHEV、先進運転支援など、“機能価値”を前面に押し出してきた。しかし今回の水平対向8気筒は違う。

音、振動、回転フィール――つまり“機械としての魅力”を語り始めている。電動化の時代に、あえて水平対向8気筒を作る。その合理性は決して高くない。

しかし合理性だけでは生まれない価値が、機械にはある。長城汽車のGW8M20は、そのことを強く印象づける存在だった。

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