食べるだけで日本人に特有の"長寿菌"が腸内で増加する…古くから親しまれている発酵食品の名前(プレジデントオンライン)
自然界にいる微生物は人間の体にどのように作用しているのか。内科医の桐村里紗さんは「多様な土壌微生物たちのなかでもスター選手は、古くから私たちの身近な発酵食品として、暮らしのなかで活躍している」という――。
【図表を見る】生態系を構成する動植物は、マイクロRNAを交換し共生している
※本稿は、桐村里紗『土に触れる人はなぜ健康になるのか 身体の中の自然を育てる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。■超衛生的な環境の方がまれ 最近は、「土は汚い」という感覚を持つ人も増えているようです。もちろん、傷口から入ることで破傷風を起こすような菌や、毒を持つカビ菌も暮らしていますが、健康な状態の皮膚で触っても、簡単には病気にはなりません。 人類の歴史のなかでも、現代のように超衛生的な環境に暮らす方がまれで、ヒトは多くの時間を、自然界にいる微生物たちと共生して暮らしてきました。 昔からの日本家屋には、土間があり、縁側があり、厩があり、内と外の境界線はあいまいで、環境に暮らす生き物や微生物も人とともに暮らしていました。諸外国においても、昔ながらの暮らしは同様です。 ときに、人間が接触したことのない微生物が人間界に入ってくることで、共生関係の均衡が乱れ、スペイン風邪や新型コロナウイルス感染症の大流行のように、歴史的で大規模な感染症の流行が起こることがあります。しかし私たちは、目に見えなくても、常に天文学的な数の微生物に囲まれながら暮らしています。おおむね、私たちの身の周りにいる微生物は、人間とも共生関係にあります。
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■細胞の機能を調整するマイクロRNA 土壌微生物と植物、それを食べる人は、じつは、生物界を超えたコミュニケーションをしています。土壌微生物は植物を生かし、植物は土壌微生物を生かし、それを食べる人を生かし、と、互いを生かし合っています。 近年の研究で、動植物は、「マイクロRNA」を介して、常に生物界を超えた情報交換をしていることが明らかになっています。クロス‐キングダム‐レギュレーション(界を超えた制御)といわれ、バイオインフォマティクス(情報生命科学)の分野で非常に注目されています。 特に、マイクロRNAはとても注目されており、その機能性を発見した、マサチューセッツ大学のビクター・アンブロス教授と、ハーバード大学のゲイリー・ラブカン教授は、その功績によって、2024年のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。 私たちの遺伝子(DNA)に刻まれた遺伝情報は、メッセンジャーRNAに情報転写され、タンパク質に翻訳され、そのタンパク質が、生体内のさまざまな働きを担っています。 マイクロRNAは、マイクロと名前がつくだけあって、とても短い構造をしており、遺伝子の設計図からタンパク質を直接つくる働きがないので、特に役に立たないガラクタだと考えられていました。 しかし、ノーベル賞を受賞した2人の教授は、マイクロRNAはガラクタなどではなく、メッセンジャーRNAに作用して、タンパク質の発現を調整することで、生体の機能に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。 私たちは、日常的に植物や動物を食べることで、それらの食物からマイクロRNAを情報として受け取り、細胞の機能を調整しているのです。加熱後でも完全には消失せず、一定量が残存することがわかっています。 さらに、植物は、共生する土壌微生物との共生関係の中で、マイクロRNAを受け取っています。 植物の根と共生する菌根菌が、マイクロRNAを介して、植物の栄養素や水分の吸収の改善、環境ストレスへの耐性の向上をサポートし、その植物に含まれるマイクロRNAは、人を含む哺乳類に食べられて取り込まれることで、細胞の中の遺伝子に作用して、抗ウイルス、抗腫瘍、抗炎症、抗アポトーシス、免疫調節、および腸機能調節効果など、さまざまな機能性を発揮する可能性が示唆されています(※7)。 生態系を構成するさまざまな動植物は、常にマイクロRNAを交換しながら共生関係を築いています。人も、動植物を食べることで、この恩恵に与っていたのです。■植物を食べることが持つ本当の力 たとえば、漢方薬に使われてきた甘草のマイクロRNAの免疫調節活性が、T細胞分化、炎症、細胞死に関与する遺伝子の調節に関連していること(※8)。 同様に、解毒や解熱、化膿症などに使われる生薬・スイカズラのマイクロRNA(miR2911)には、抗ウイルス活性があり、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスの複製の阻害の働きがあることが示されています。7日間の投与で、男女ともにウイルス陰性化までの期間の短縮が認められたと報告されています(※9)(※10)。 また、ブロッコリーや高麗人参に含まれるマイクロRNA(miR159)の血清レベルと、乳がんの発症率や進行は逆相関しており、25mg/kgの濃度の「miR159」を16日間、経口摂取すると、腫瘍異種移植モデルにおける腫瘍の成長が、劇的に減少することが明らかになりました(※11)。 古来、「医食同源」「薬食同源」といわれてきたものの、近代の医学で、薬以外にはその薬効を認められないとして、食品からの抽出成分が医薬品として単離されて、医療に応用されてきました。 マイクロRNAを使った、生物界を超えた情報交換の研究が進むことで、植物を食べることが持つ本当の力が解明されると期待しています。 実際に、土壌微生物の豊かな土にこだわってつくられた作物は、それ自身が病気にも強く、腐りにくく、元気である上に、人にとっても、まったく味が違っています。 子どもに食べさせると明らかです。「うちの子、野菜嫌いなんです」といわれる子に、微生物が豊かな土で育った野菜を勧めると、嘘のようにパクパク食べることはよくあります。 抗酸化力を測ると高い値が出ますが、今後はマイクロRNAについても、多様な働きが明らかになってくるのではと考えています。 ※7 A Timely Review of Cross-Kingdom Regulation of Plant-Derived MicroRNAs. Frontiers in Genetics. 12, 2021https://doi.org/10.3389/fgene.2021.613197※8 Shao HW, et.al. Extraction of miRNA from Glycyrrhiza uralensis Decoction and Its Effect on Immune Cells. Journal of Chinese Medicinal Materials. 2015;38(7):1449-1453.※9 Zhou Z, et al. Honeysuckle-encoded atypical microRNA2911 directly targets influenza A viruses. Cell Research. 2015;25(1):39-49.※10 Zhou LK, et al. Absorbed plant MIR2911 in honeysuckle decoction inhibits SARS-CoV-2 replication and accelerates the negative conversion of infected patients. Cell Discovery.2020;6(1):54.※11 Chin AR, et al. Cross-kingdom inhibition of breast cancer growth by plant miR159. Cell Research. 2016;26(2):217-228.----------桐村 里紗(きりむら・りさ)医師、天籟 代表取締役一般社団法人プラネタリーヘルスイニシアティブ代表理事。1980年岡山県生まれ。2004年、愛媛大学医学部医学科卒業。’22年~’25年、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻道徳感情数理工学社会連携講座の主宰兼共同研究員。内科医として予防医療から生活習慣病、在宅医療まで総合的に臨床医療に従事。’22年、鳥取県江府町とプラネタリーヘルス連携協定を締結。江府町に移住し、都市と限界集落の流域を結ぶ、地球再生型経済圏の基盤「nichtöne(ニッヒテーネ)」を展開。量子ゲート数理「四則和算」の社会応用に邁進する。主な著書に『腸と森の「土」を育てる』『日本人はなぜ臭いと言われるのか』(ともに光文社新書)などがある。
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