インドで生き埋めにされた新生児を救出、遺棄された理由は同国にはびこる「性差別」か
インド北部ウッタルプラデシュ州で先ごろ、生き埋めにされた女の子の赤ちゃんが発見された/Photo Illustration Ian Berry/CNN
シャージャハーンプル(CNN) インド北部ウッタルプラデシュ州シャージャハーンプル県で養豚業を営むシヤム・バブさん(25)が最初に目にしたのは、小さくて弱々しい腕だった。まるで捨てられた人形のように泥の中から突き出ている。ところが、これは人形ではなかった。アリが群がった腕は、動物にかまれたとみられる出血を伴っていた。
タオルにくるまれた生後間もない女児が、30センチほどの地中に埋められていた。ほとんど身じろぎをしないものの、かすかに呼吸はしていた。
「近づいてみると、赤ちゃんの指が動いていた。さらに近づくと、心臓の鼓動を感じ取れた」と、バブさんはサトウキビ畑や水田が広がる村で先月この恐ろしい発見に至った経緯を振り返った。
「赤ちゃんが生きていることに気づいた。誰かが赤ちゃんを生き埋めにしたのだ」
恐怖に駆られたバブさんは急いで通報。すぐに人々が駆けつけてきた。
CNNが確認した映像には、警察官が慌ただしくも慎重に土を掘り返す様子が捉えられていた。生後およそ15日と推定される女児は、全身泥まみれだった。口と鼻は土でふさがれ、息も絶え絶えだった。地面から引き上げられると、女児は弱々しく、苦しそうな泣き声を上げた。
大学病院に救急搬送された女児には、重度の感染症や呼吸困難、けがに加え、敗血症がみられた。地元警察は女児の両親と動機の捜査を開始した。
地元警察はCNNに対し、三つの可能性を示唆。両親は病弱な我が子が死亡したと思い込み、地元の慣習に従って埋葬した可能性。新生児は合指症(2本以上の指が癒着する病気)を患っていたため、それを理由に遺棄された可能性もある。インドの一部地域では障害に対する偏見がはびこっているからだ。
そしてもう一つは性別だ。世界で最も人口の多いこの国では、男児を好む傾向が根強く、女児の遺棄や殺害につながることもある。
シャージャハーンプルで20年間小児科医として働くラジェシュ・クマール医師は、これまでに4~5件こうした事例を目にしてきたと語った。
ただし、「独りぼっちで取り残され捨てられるというこのような状況に置かれた男の子は見たことがない」という。
医療機器が小さな女の子の命をつなぎ止めようと稼働する中、クマール氏は当時、CNNの取材に応じ、「病院のスタッフは皆、彼女を家族のように見守っている」と語った。
間もなく、クマール氏らは女児に「パーリ」という名前を付けた。ヒンディー語で「妖精」という意味だ。
パーリちゃんが発見されたシャージャハーンプルは、インド北部の肥沃(ひよく)で人口の多い平原に位置する。300万人の住民のほとんどが農業に従事し、村々を結ぶ曲がりくねった道沿いには水田や小麦畑が広がる。
こうした農業生活の水面下では、伝統的な性役割が大きな力をふるっている。そして、この文化こそが、パーリちゃんを発見したときのバブさんを恐怖で凍り付かせた。
バブさんは「子どもを自力で助け出す勇気がなかった。みんなが私を見て、間違ったことをしていると責めるのではないかと思い、怖くなって」自分の母親を走って探しにいったという。
2011年の最新国勢調査によると、シャージャハーンプルでは男性1000人に対し女性は約872人。その乖離(かいり)は、ただでさえ均衡を欠く全国平均を上回る。
活動家や地元住民によると、この不均衡は、文化的・経済的、そして社会的に根ざした偏見が一因だ。女児の価値や、女児を育てるという状況を組織的に軽視しているという。
パーリちゃんが発見された場所からほど近いペナ・ブジュルグ村に住む女性(60)は「男の子を産めというプレッシャーがある」と明かす。「女性は多くの困難に直面する。女の子は欲しくないので、女性は寺院に行って男の子を産むための儀式を行う」
息子を好む傾向は、家父長制に根ざしている。男子は家系を継承し、財産を相続して、両親の臨終の儀式を執り行うことが期待される。
一方で娘は大きな経済的負担と見なされることが多い。
「女の子をもうけることで起きる特に大きな問題の一つは、持参金の伝統だ」と話すのは、野菜売りのアチャル・クマール・ゴータムさん(32)。持参金とは、一般的に結婚式で花婿の家族が要求する金銭または財産を指す。
違法とされているにもかかわらず、持参金は「何世代にもわたって受け継がれてきた伝統で、従わなければならない」という。
ペナ・ブジュルグ村に住む別の女性(28)は、男児を産まなければならないというプレッシャーから、胎児の性別を調べるために医療検査に頼る女性もいると話す。
「男の子ならオッケー。女の子なら中絶する。ここではそういうことが行われている」と女性は語り、「家の中でそんなことをしていて、外の人は知る由もない」と訴えた。