「世界の警察官」の座を降りたアメリカの「ギブアップ宣言」がもたらしたもの…なぜアメリカは「唯一の超大国」ではなくなったのか

ロシアによるウクライナ侵攻、世界的な移民排斥運動、権威主義的国家の台頭、トランプ2.0、そして民主主義制度基盤の崩壊……。

「なぜ世界はここまで急に揺らぎはじめたのか?」。

講談社現代新書の新刊、『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』(川北省吾 著)では、共同通信社を代表する国際ジャーナリストが、混迷する国際政治の謎を解き明かすために、国際政治学者や評論家、政治家や現場を知る実務家へのインタビューを敢行。辿り着いた答とは?

本記事では、〈プーチン、習近平、トランプを突き動かす「たった一つの強烈な意志」…世界で起きている「同期現象」を解き明かす〉に引き続き、アメリカが「世界の警察官」を辞めることになった経緯や、それによる国際秩序の混乱について詳しく見ていく。

※本記事は、川北省吾『新書 世界現代史 なぜ「力こそ正義」はよみがえったのか』より抜粋・編集したものです。

「警察官」の退却

2013年9月10日、残暑の続くアメリカ合衆国の首都ワシントン。世界の命運を左右するパワーセンター、ホワイトハウス(大統領官邸)の「イーストルーム(東の間)」には興奮が渦巻いていた。

ホワイトハウスで最も広い儀典室。壁には初代大統領ジョージ・ワシントンの肖像画が飾られ、歴史の重みを感じさせる。国賓歓迎や条約調印をはじめ、重要な国家行事の場として利用されてきた。

この夜、第44代大統領バラク・オバマがこの部屋から、国民向けに演説することになっていた。「プライムタイム」と呼ばれるテレビの高視聴率帯。記者たちの期待はいやが上にも高まっていた。

午後9時。白い円柱が並ぶ廊下の赤じゅうたんを踏みしめ、オバマが部屋に近づいてきた。演壇に立つと、カメラを真っすぐ見つめて口を開く。「皆さん、今夜はシリアについてお話ししたいと思います」

バラク・オバマ photo by gettyimages

オバマはなぜ、遠く離れた中東のシリアについて話をする必要があったのか。演説の内容を紹介する前に、その点を押さえておく必要があるだろう。きっかけは3年近く前の出来事にさかのぼる。

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