アングル:シンガポールの中国人富裕層に変化、「見せびらかし」から控えめに
[シンガポール 4日 ロイター] - シンガポール在住の中国の超富裕層が、富を見せびらかす派手な行動を控えるようになった。自国とシンガポールの当局による監視強化が理由だ。この結果、高級車ベントレーからプライベートジェットに至るまで、派手な高級品の販売が大きく落ち込んでいる。
シンガポールは居住人口の約75%が華人系。政治的安定性、税制優遇、文化的親和性にひかれ、ここ数年で中国本土から巨額の資金が流入している。
コロナ禍と、それに続く中国経済・市場の混乱はシンガポールへの資金移動に拍車をかけ、高級不動産、高級車、デザイナーズブランドの需要を押し上げてきた。
しかし2023年に発覚した30億シンガポールドル(約3600億円)規模のマネーロンダリング(資金洗浄)事件と、シンガポールおよび中国当局による資産監視の強化により、超富裕層は以前より慎重に支出するようになっている。
シンガポールは銀行から不動産、ゴルフクラブに至るまで、幅広い業界に厳格な顧客確認義務を課した。また報道によると、中国当局は国民の海外所得への取り締まりに乗り出した。
<資金源>
シンガポールのゴルフ会員権仲介会社、シンゴルフの創業者であるリー・リー・ラングデール氏は、23年のマネーロンダリング事件以降、中国人顧客からの問い合わせが急減したと明かす。「クラブ側は中国人購入者の資金源を以前よりはるかに厳しく調査しており、クラブが資金源に納得しなかったため取引が成立しなかった事例もあった」という。
シンゴルフのデータによると、セントーサ・ゴルフクラブの外国人会員権価格は23年に95万シンガポールドルとピークを付けたが、今年は66万シンガポールドルまで下落した。シンガポール・アイランド・カントリークラブは、23年に80万シンガポールドルだったのが今年は47万シンガポールドルまで下がった。
シンガポールで最も高価なクラブの一つ、シンガポール・アイランド・カントリークラブのイアン・ロバーツ総支配人は、23年以降、外国人会員権の取引は減少していると述べたが、会員権を直接販売していないため価格についてはコメントできないと述べた。
一方、政府のデータによると、ベントレーはピーク時の21年の新車販売台数が103台だったが、今年1─10月は19台にとどまっている。ロールスロイスは23年に95台が売れたのに対し、今年1―10月では13台にとどまった。
法律事務所ウォンパートナーシップの富裕層部門パートナー、シム・ボック・エン氏は、数年前と比べてプライベートジェットを求める中国人顧客が減ったと説明。「21年は、ほぼ全ての家族が自家用ジェットの購入を希望していたが、最近はそうした話をほとんど聞かない」と語った。
ただ、超富裕層は今もシンガポールに資産を置いている。政府データによると、富裕層の投資や税務を扱うファミリーオフィスは21年に700件だったのが、24年末には2000件超へと約3倍に膨らんだ。
<見せびらかしは控えろ>
中国人富裕層は今、芸術品や高級ワイン、プライベートクラブなどに資金を振り向けるようになっている。
ボルドーやシャンベルタンなど高級ビンテージワインを競売するアッカー・ワインズのジョン・カポン会長は、中国人コレクターが「一貫して質・量ともに上質で希少なワインを求めている」と語る。
今年9月のある夜、中国美術を専門とするシンガポールのコレクター兼ディーラー、ゼン・グオ・フー氏は中国人実業家8人と夕食を共にした。男性らは約93平方メートルの個室で数十年物のプーアル茶を楽しみ、トランプで遊び、待機しているスタッフから夕食とビンテージワインを提供された。
ゼン氏は、過去3年でシンガポールに移住する中国富裕層が増えたが、行動様式は以前の移住者とは異なるとして「以前はもっと富を誇示していたが、今は控えめな傾向だ」と主張する。
これはシンガポールの政治指導者にとって歓迎すべき潮流だ。同国は生活費が高く地元住民が雇用に不安を抱える中、移民との所得格差問題が長年頭痛の種だったからだ。
シンガポール国立大学の社会学教授、タン・エルン・サー氏は、富の誇示が移民と結びつけられると、特定の国からの移民に対する偏見が強まる恐れがあると語った。
リー・シェンロン上級相(前首相)は10月、富裕な外国人は歓迎するが「見せびらかしは控えるべきだ」とし、「2万ドルもするシャンパンを花火とともに開けたり、俺様が来たぞと知らせるために深夜にフェラーリやロータスで爆走したりするような真似はやめてほしい」と訴えた。
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Xinghui leads the Singapore bureau, directing coverage of one of the region’s bellwether economies and Southeast Asia's main financial hub. This ranges from macroeconomics to monetary policy, property, politics, public health and socioeconomic issues. She also keeps an eye on things that are unique to Singapore, such as how it repealed an anti-gay sex law but goes against global trends by maintaining policies unfavourable to LGBT families. https://www.reuters.com/world/asia-pacific/even-singapore-lifts-gay-sex-ban-lgbt-families-feel-little-has-changed-2022-11-29/ Xinghui previously covered Asia for the South China Morning Post and has been in journalism for a decade.