楽天モバイル、通信費の「低価格・無制限」継続を宣言 U

 楽天モバイルは9月30日、プレスカンファレンスを開催し、物価上昇や競合の料金改定といった状況にかかわらず、低価格かつ無制限のサービスを継続していく方針を示した。

 楽天モバイルは2020年4月に本格的なサービスを開始し、「第4の携帯電話サービス」として参入。ユーザーが場所や価格を気にせず自由にインターネットを利用できる環境を提供することを目的に掲げ、そのテーマを「携帯市場の民主化」としてきた。

楽天 三木谷浩史会長

 三木谷浩史会長によれば、参入による競争の結果、日本の通信費は最大33.8%下がり、家計の負担軽減効果は約4兆円に達したという。消費者物価指数(CPI)も1.4ポイント押し下げる効果があったと説明した。

 一方で、電気料金や調達コストの増加、円安、人手不足などを背景に通信費が上昇傾向にあると指摘。それでも楽天モバイルは「最強一択」として、低価格と無制限サービスを維持していくと宣言をした。

 低価格を支える理由として、楽天モバイルは「世界で唯一の完全仮想化ネットワーク」を挙げる。従来のハードウェア依存型からソフトウェア処理へ移行したことで、複数ベンダーからの自由な調達や導入の効率化が可能になり、設備投資(CapEx)を約40%、事業運営費(OpEx)を約30%削減しているという。

 さらにAIによる基地局制御「RIC(RAN Intelligent Controller)」を導入。稼働率に応じて電力を制御し、電力消費を年間で20%削減する目標を掲げる。すでに15%を達成済みで、残り5%の削減を進めている。

 楽天モバイルはエンタメ領域でも強化を図り、U-NEXTと連携した料金プラン「Rakuten最強 U-NEXT」を10月1日から提供開始した。U-NEXTは35万本以上の動画や210誌の雑誌、3400冊の児童書を読み放題で提供しており、国内動画配信市場で日本企業として最大のシェアを持つ。

 サービス開始を記念し、2026年1月31日まで「Rakuten 最強プラン」と同額の月額3278円で提供。通常月額2189円のU-NEXTが実質無料で利用できるとアピールする。キャンペーン終了後の料金は月額4378円となる。

 楽天モバイルの契約者数は順調に増加しており、930万回線を突破し、年内1000万回線の達成を目標に掲げる。ユーザーの月間平均データ利用量は31.2GBと高水準で、データ無制限のニーズに応えている。

 この増加するデータ利用量に対応するため、ネットワークの強化策も進めている。東京エリアを中心に「つながりやすさ強化宣言」を掲げ、山手線エリアでの5G基地局の新規構築や既存基地局のアンテナ調整を進めている。主要駅の駅構内対策や、地下鉄駅内の対策も強化されており、東京メトロでは約60%、大阪メトロでは約70%の駅で対策が完了した。

――ほかの携帯電話会社は、事務手数料や、月々の料金を値上げする方向にある。一方で、今回、楽天モバイルでは料金を据え置くというメッセージを出した。あらためて、その狙いを教えてほしい。

三木谷氏 ひとつは、第4の携帯会社として、非常にリーズナブルで使いやすいネットワークを提供するというミッションがあることです。

 なかなか辛いところもありますが、我慢が必要なところだと思っています。

 幸いにも我々は新しいO-RAN(オープン・ラジオ・アクセス・ネットワーク、さまざまなメーカーの機器で通信網を構築できる技術)という、全てをソフトウェア(プログラム)で制御していくことができる仕組みを採用しています。お伝えしたいことのふたつ目は、O-RANにより、比較的、機器の調達などに優位性があり、コストを抑えられる、という点になります。

 それから、今度はAIの導入によって、電気料金が上がっているにもかかわらず、電気の消費量を20%削減することに成功したということもあります。

 この3つが大きな理由なのかなと思っています。我々は追いかける立場ですから、頑張って、少しでも価格を維持したいという思いがあります。

――家計調査などを見ても、通信料金全体でおよそ1割上がった。ユーザーからは、(国内の携帯電話料金の傾向が)一度下がったのにまた上がっているんじゃないかという不満の声もある。

三木谷氏 楽天モバイルが市場に参入する前、だいたい東京の携帯料金というのは約8000円でした。

 我々が参入した後に競争が起きたこともあり、3000円に下がっていました。

 四人家族だと月に2万円、年間だと24万円、下がったことになります。日本にとって、とても良いことではないかなと思っています。

 他社さんもさまざまな努力をされているのではないかと思っておりますし、全体的な物価に比べると、通信料金が多少上がるのは、仕方ないところなのかもしれません。

 ですが、我々としては後発ということもありますので、頑張っていきたいと思っています。

――あえて記者会見を開いて据え置くという発表をするこの狙いをあらためて教えてほしい。

三木谷氏 普通で言えば「値上げ」と思われるでしょう。

 (参入・サービス開始から)5年半経ちました。我々が頑張って、“携帯市場の民主化”を掲げていくということを、再度、皆さんに認識していただいて、賛同を得られればいいかなと思っています。

――これまでも完全にクラウドネットワーク、O-RAN(オープンRAN)に基づいた低価格・無制限については、楽天モバイルがずっと訴え続けてきた。なぜ、このタイミングで表明したのか。

三木谷氏 競合他社の値上げの発表を踏まえた今を、狙いすましたわけではないんです。

 ただ、「楽天モバイルも値上げするんじゃないか」と聞かれるから、あらためて言っておこうかな、といった理由です。

――料金の維持を宣言したが、本当に維持できるのか? とユーザーとして思ってしまうところがある。「楽天最強U-NEXT」の先行キャンペーンでは、3カ月で10万人が利用したとのことだが、維持を支える部分として、楽天グループのエコシステムへ貢献したARPU(アープ、利用者一人当たりの平均収入)という面では、従来の料金プランの利用者と比べて傾向の違いはあるのか?

河野氏 分析をしていますと、もちろん先行キャンペーンへ参加していただいた方々は、データ利用量で言いますと、多くが20GBを超えています。それ以下の方々も、10月からの正式サービスで、さらに多くのコンテンツをご覧になると考えており、そういう意味での期待は正直あります。

 楽天グループのエコシステム全体ですと、たとえば男女比では半々です。今までとまたちょっと違うお客さまが加入されているように感じています。

 コンテンツの力によって、スポーツやドラマが盛り上がることによって、動きが変わるでしょうからきちんとデータを見ていきたいです。

 楽天グループとしては、楽天モバイルユーザーですと、楽天市場のお買い物が常にSPU(スーパーポイントアッププログラム)で5倍といった特典があります。総合力で勝っていきたいです。

――国内の携帯電話市場のシェアは長く寡占化されている。楽天モバイルとしては最終的にはどれくらいまでシェアを拡大していけると考えているか。1位を目指すのか。

三木谷氏 シェア1位という目標はありますが、やっぱり実際にお使いの方からの支持が大切だと思っています。

 これは、楽天はエコシステムで成り立っていくためです。コンビネーションで我々は業績を達成していきたいということから、携帯電話事業単体だけでは考えておりません。楽天市場でショッピングしてもらったり、楽天カードを使ってもらったりというところが、とても重要です。

 シェアも当然重要ですが、ヘビーユーザーのシェアでナンバーワンを目指したい。

 財務状況でも、EBITDA(イービットディーエー、金利・税金・減価償却費控除前利益)はもう既に黒字化しております。

 新規契約を獲得する際にコスト(費用)はかかりますので、新規獲得を含まないフリー・マーケティング・キャッシュフローで言えば、大幅な黒字化を実現しております。全体的には赤字ですが、大半の部分は、新規獲得にかかるコストであると考えていただいていいのかなと思っています。

――料金を維持できるのかという点に関して、ユーザー数が増え、通信量が増えるとキャパシティ(通信容量)も余裕が減っていく。その辺りの見通しは?

大前氏 ご指摘の通り、データ利用量が増えるにつれて、繋がりにくくなるという体感が発生することには、さらに強化をしていきます。

 特に、地下鉄や電車の中で、動画が多く観られるでしょうから、対策も進めています。

 4Gのみならずですね、そうした場所を5Gにしたりとか、帯域幅を拡張するといったところの動きも進めております。

三木谷氏 ソフトウェアのアップグレードは実施しています。1つの基地局あたりで収容可能なユーザー数を増やしていくことができます。

 とはいえ、やはり通信が集中している地域では、基地局を増やしていく必要があり、計画通りに増加させています。

 要するにソフトウェアでのネットワークを、自分たちで開発、運営していますから、融通が効くというのが、結構強いかなと思っています。

――9月に新型の「Apple Watch」が発表され、5G対応がアピールポイントのひとつだった。しかし、5G SAが必要ということで、楽天モバイルの名前は挙がっていなかった。5G SAの本格展開について教えてほしい。

三木谷氏 先ほど申し上げましたソフトウェアアップグレードで対応できるということなので、来年中には実現する、と思っております。

 5G SAは結構重要なんです。今の方式(NSA:Non-Standalone)は、4Gを使っていて、それがアンカーになっています。それがSA方式になると、アンカーとして使っている4Gが開放されます。5G SA対象製品へ対応するということ以上に、我々のキャパシティ(通信容量)にとって大切なんです。

 結局、優先順位としては、ソフトウェアの大規模アップデートにあります。

――KDDIのローミング契約が、来年、終わることになっている。今後の見通しは?

三木谷氏 守秘契約もあり、コメントは差し控えさせてください。ただ、継続性は重要かなと思っています。

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