時を超えたロマン。曾孫が語るワナメーカーの信念とリスクに挑んだ新王者A・ライ【米男子ツアー】 (1/2)
メジャー大会の重圧と熱気が渦巻く、ペンシルベニア州アロニミンクGCの最終日。18番グリーンの傍らで、静かに、しかし圧倒的な威厳を放ちながら勝者を待ち受けている巨大な銀杯がある。全米プロゴルフ選手権の覇者にのみ与えられる栄光の証、「ワナメーカー・トロフィー」だ。 この日、その歴史的モニュメントのすぐ側に、一人の特別なゲストが姿を現した。トロフィーの名前の由来となった百貨店王にして大会創設の立役者、ロドマン・ワナメーカーの曾孫にあたるジョン・ワナメーカー氏である。地元フィラデルフィアで開催された今年の大会に足を運んだ彼は、110年(2度の大戦の影響で今年は第108回大会)という途方もない時間を経て、曾祖父の遺産が世界最高のスポーツイベントとして人々を熱狂させている光景に胸を熱くしていた。トロフィーの隣に立った彼は、湧き上がる感情を抑えきれずに「歴史の鎖の輪の一部であることを誇りに思う」と語った。大観衆の歓声が響き渡る中、彼は天を仰ぐように「ひいおじいちゃんも喜んでいると思う」と、偉大なる曾祖父へと静かなメッセージを送った。
全米プロの覇者に送られる「ワナメーカー・トロフィー」
ジョン氏の口から語られた曾祖父ロドマン・ワナメーカーの素顔は、世間が抱く“豪快なビジネスマン”というイメージとは少し異なっていた。「彼は非常に控えめで、シャイで静かな人物だった」というのだ。しかし、その物静かなる内面には、決して消えることのない情熱の炎が燃えたぎっていた。
表彰式後、アーロン・ライに祝福を述べるジョン・ワナメーカー氏(左)
ロドマンは、自らが表舞台に立つことよりも、「すべてを懸けてリスクを負う人々」を愛し、支援することに人生の無上の喜びを見出していた。彼が支援した「リスクテイカー」のスケールの大きさは、ゴルフの世界にとどまらない。なんと彼は、あのチャールズ・リンドバーグと大西洋横断飛行を競ったバード少将のスポンサーを務め、アメリカ製の多発機を建造する資金を提供して、前人未到の空の旅へと挑戦させたという歴史的なエピソードがあるのだ。
未知なる領域へ踏み出す者、己の限界を超えようとリスクを取る者。ロドマンが彼らに寄せた無償の愛と敬意は、そのままワナメーカー・トロフィーの金属に深く刻み込まれている。そして108年が経過した現代においても、その精神は色褪せることなく、極限のプレッシャーの中でリスクを恐れずにフェアウェイを歩くプロゴルファーたちへと、脈々と受け継がれているのである。
現代のリスクテイカー、アーロン・ライの奮闘
そして迎えた2026年の全米プロ。ワナメーカーが愛した「リスクテイカー」の精神を見事に体現し、栄光のトロフィーを掲げるにふさわしい新王者が誕生した。イングランド人として実に107年ぶりとなる全米プロ制覇という歴史的快挙を成し遂げた、アーロン・ライである。
最終日のライは、決して順風満帆な道のりを歩んでいたわけではない。サンデーバックナインを目前にした前半、6番と8番でボギーを叩き、流れは確実に悪い方向へと傾きかけていた。しかし、ここで彼は守りに入らなかった。彼がいかにリスクを恐れず攻め抜いたかを象徴するのが、直後の9番ホールのセカンドショットである。
【動画・約18分半】アーロン・ライ、最終日ハイライト。9番Hのプレーは07:27~【全米プロ公式YouTube】
https://www.youtube.com/embed/60BHewFFSdM?feature=oembed
Aaron Rai | Round 4 Highlights | 2026 PGA Championship
www.youtube.comピンまで260ヤード。メジャーのサンデーアフタヌーンという極度の緊張感の中、少しでもミスをすれば致命傷になりかねない距離で、ライは迷わず5ウッドを抜き放ったのだ。僅かな追い風に乗ったボールは、彼の強靭な意志に応えるように、見事にグリーンの手前へと着弾した。
残されたのは、約45フィート(約13.7メートル)という非常に長いパット。ここでライは、複雑なラインよりもスピード(距離感)だけに集中し、絶妙なタッチでこのイーグルパットを完璧にねじ込んでみせたのだ。このリスクを恐れない果敢な一振り、そしてそれを完遂した勇気が、停滞していたラウンドの空気を一変させ、彼をメジャーの頂点へと押し上げる最大のブレイクスルーとなった。
アイアンカバーに込められた謙虚さと、泥臭いジャーニー
リスクを取る大胆でアグレッシブなプレーの一方で、ライの人間性を深く形作っているのは、地に足の着いた「謙虚さ」と感謝の念である。
彼のその人柄を表す有名なエピソードがある。プロゴルファーとしては極めて珍しく、彼は今でもアイアンの一つ一つにヘッドカバーをつけてプレーしているのだ。敗れたジョン・ラームが「子供の頃に手に入れたクラブを大切にするために、今でもアイアンにカバーをつけている。彼ほど素晴らしい人間はいない」と絶賛したように、道具を大切にし、初心を忘れない実直さが彼にはある。
彼が世界最高峰の舞台に立つまでの道のりは、決してエリート街道ではなかった。ジュニアゴルファー時代からの地道な成長、そしてプロの世界に入って痛感した「プロゴルフのレベルがどれほど高いか」という厳しい現実。一歩一歩、泥臭く這い上がってきた彼自身が「信じられないような道のり(ジャーニー)だった」と語るように、今の彼があるのは、数え切れないほどの挫折と、両親の計り知れない犠牲があったからだ。常に感謝の念を忘れず、驕ることのないその姿勢こそが、メジャーのプレッシャーに打ち勝つ最強の盾となった。
ワナメーカーの精神は受け継がれる
時代は移り変わり、ゴルフというスポーツのプレースタイルやテクノロジーも大きく進化した。しかし、108年前に大西洋横断飛行に夢を託し、挑戦者たちを心から愛したロドマン・ワナメーカーの熱き精神は、決して過去のものではない。
26年全米プロ優勝はアーロン・ライ
自らの限界に挑み、絶体絶命のピンチでもリスクを恐れずに5ウッドを振り抜き、栄光を掴み取ったアーロン・ライ。ワナメーカーが愛した「リスクを負う挑戦者」の魂は、この素晴らしい新チャンピオンの胸の中で、今も確かに脈打っている。彼が掲げた重厚なトロフィーは、その美しい歴史の繋がりを、世界中のゴルフファンに証明して見せたのだ。
写真/PGAオブ・アメリカ
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滋賀県「蒲生ゴルフ倶楽部」にて5月21日(木)~5月24日(日)の4日間で開催される、国内男子ツアー「第93回 日本プロゴルフ選手権大会」。日本初のプロトーナメントとして1926年に第1回大会が開催され今年で100年を迎える大会。その長い歴史と注目の大会概要、観戦に役立つ情報を紹介!
【日本プロゴルフ選手権大会の歴史】1926年に「全日本ゴルフ・プロフェッショナル卅六ホール・メダルプレー争覇戦」として始まった日本最古のプロトーナメント。初開催から節目の100年がたち、今年で93回目の開催となる。当初の出場者はわずか6人のみで、宮本留吉が初代王者に輝いた。戦前はマッチプレーで行われていた時期もあったが、その後ストロークプレーに変更され、男子プロゴルフがツアー制度を導入する半世紀も前から開催されてきた歴史ある大会だ。大会史上最多優勝を果たしているのはジャンボ尾崎の6勝。次いで4勝で宮本留吉、戸田藤一郎、林由郎、中村寅吉、3勝の中嶋常幸、青木功、谷口徹たちだ。今年から3年間はセンコーグループがタイトルスポンサーとなり、「センコーグループカップ」として開催される。
【会場】:蒲生ゴルフ倶楽部(滋賀県)/18ホール、6991ヤード、パー72
▶京都市内から車で約1時間、名古屋や大阪からも1時間半とアクセスしやすい立地にある。名匠・富澤誠造が設計した2グリーンのコースで、極端に小さく傾斜の強いグリーンが特徴。大会に向けてコースセッティングアドバイザーの桑原克典の手によって改修が行われ、「攻めるのか守るのか」で大きく戦略が変わる、技術、体力、胆力、知力が問われるスリリングなコースへと変貌を遂げている。
【賞金総額】:1億5000万円、優勝賞金:3000万円
【前回大会プレーバック】
前回大会(2025年の第92回大会)は、岐阜県の三甲ゴルフ倶楽部・谷汲コースで開催された。最終日、首位タイの生源寺龍憲を3打差から清水大成が追う白熱の展開となり、清水は12番までに7つスコアを伸ばす猛チャージを見せたが、16番でダブルボギー、17番でボギーを叩き後退してしまう。しかし、最終18番で意地のバーディを奪い、生源寺とのプレーオフに突入。両者一歩も譲らぬまま迎えたプレーオフ4ホール目、パーセーブを逃した生源寺に対し、清水はパーパットを冷静に沈めて激闘に決着をつけた。
前回大会覇者の清水大成(撮影/岡沢裕行)
【注目ポイント・見どころ】
同一コースで3年連続開催本大会は毎年開催コースを変えて行われてきたが、同一コースで3年連続で開催されるのは大会の長い歴史上初のこととなる。
キャリアグランドスラム達成なるか?小平智、蟬川泰果、ショーン・ノリスの3名は、本大会で優勝すれば片山晋呉以来のキャリアグランドスラム達成となる。蟬川は前澤杯で11位タイ、小平とショーン・ノリスは中日クラウンズで上位に入っており、偉業達成への期待が高まる。
本大会で優勝すれば国内キャリアグランドスラムを達成する小平智、蟬川泰果、ショーン・ノリス
宮本勝昌が日本タイトル最年長優勝記録に挑む宮本勝昌が本大会で優勝した場合、達成年齢は53歳269日となり、谷口徹が樹立した「50歳92日」という日本タイトルの最年長優勝記録を更新する。同時に、日本タイトル3種制覇時の達成年齢記録の更新にもなる。
谷口徹の記録に挑む宮本勝昌(撮影/岡沢裕行)
小木曽喬の日本タイトル連勝記録もし本大会で小木曽喬が優勝すると、「29歳66日」での日本タイトル連勝となる。これはツアー制施行後では5番目の年少記録であり、若手の勢いを示す大記録として注目される。
25年日本シリーズJTカップに続く、日本タイトル連覇がかかる小木曽喬(撮影/姉崎正)
前回覇者・清水大成の「大会連覇」なるか前回大会覇者である清水大成の連覇にも注目だ。日本タイトルにおける連覇は非常に難易度が高く、長い歴史のなかでもこれまでに16名(24回)しか達成していない。
今季は東建ホームメイトカップから中日クラウンズまで怪我で欠場。先週の関西オープンから復帰した清水大成(撮影/岡沢裕行)
バーディ合戦の予感と記録更新コースセッティングを担当する桑原克典は、優勝スコアを18アンダー以上と予想している。小さなグリーンで難しいコースながら、大会最多アンダーパー記録(2008年・片山晋呉の23アンダー)の更新にも注目だ。
片山晋呉(写真は2008年日本プロゴルフ選手権、撮影/岡沢裕行)
【イベント情報】
会場では、フィンランド発祥のスポーツ「モルック」体験や、内藤雄士ら人気プロのレッスン会、スナッグゴルフなど、子供も楽しめるイベントが目白押し。キッズランドや託児所も開設され、家族連れでも楽しめる。全国の名産品が集まるグルメコーナーも用意されている。
【チケット情報】
▼前売り券
【5枚綴り】練習日入場券1枚、予選・決勝ラウンド各日共通入場券4枚 ∟5月20日(水)~24日(日): 1万円(税込)
※入場券1枚につき、1名1日限り入場可
▼当日券(高校生以下無料) ∟練習ラウンド5月20日(水): 2000円(税込) ∟予選ラウンド5月21日(木)・22日(金):4000円(税込)
∟決勝ラウンド5月23日(土)・24日(日):6000円(税込)
【中継情報】
【BS放送】▼BSフジ ∟5月21日(木)15:30~17:30(LIVE) ∟5月22日(金)15:30~17:30(LIVE) ∟5月23日(土)12:00~15:00(LIVE)
∟5月24日(日)12:00~15:00(LIVE)
【CS放送】▼ゴルフネットワーク ∟5月23日(土)7:30~10:30(LIVE)
∟5月24日(日)7:30~10:30(LIVE)
【インターネット】▼ゴルフネットワークプラスTV ∟5月23日(土)7:30~10:30(LIVE)
∟5月24日(日)7:30~10:30(LIVE)
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「ブリヂストンレディスオープン」の練習日。パッティンググリーンやドライビングレンジを眺めると、耳にワイヤレスイヤホンを装着して調整に励む選手たちの姿が目につく。近年、モチベーション向上や集中力アップのツールとしてスポーツ界に定着したイヤホンだが、繊細な感覚が要求されるトッププロゴルファーたちは、練習中の“音”とどのように向き合っているのだろうか。使用するメリット、そしてあえて外す理由など、それぞれの考え方に迫った。
練習中はイヤホンをしていることが多い申ジエ、最近はポッドキャストも多いという
練習中にイヤホンを積極的に活用しているのが申ジエだ。「1日中ずっと聞く」という申は、音楽だけでなくポッドキャストやオーディブル(朗読本)で経済や歴史に関しての音読を聴きながら、ゴルフに集中している。
「こんなこと(知識)があるんだ~って学べますし、リズムも関係なく練習できるので楽しいです」と意外な一面を見せた。
試合前の練習ではEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)を好んで聴くと言う申ジエ。
「朝にEDMを聴くと、試合の緊張感に対応するように体が無意識に反応してくれてます。自分のペースに持っていき、脳のスイッチを入れるためのツールとして活用しています」
また、髙野愛姫もイヤホンを愛用する一人だ。髙野の場合は「イヤホンをつけると、自分の中の感覚(打感)が変わってしまう」というデメリットを認識しつつも、「試合の日は、自分の感覚よりも緊張をほぐすほうを優先している」と、メンタルコントロールにおけるメリットを重視していた。
音楽のテンポやリズムは気にせず、時にはお気に入りのYouTubeやVlogを流しながらリラックスしてスウィングを整えている。
「打球音」と「自分の世界」。使い分けと使わない派の理由
「ナシ」と言い切る永峰咲希
明確に「ナシ」のスタンスを取るのが永峰咲希だ。
永峰は「イヤホンをつけると、自分の中の感覚も鈍くなってしまう」と、音の遮断がもたらすデメリットを指摘する。さらに「練習中にイヤホンを落とさないようにと気にし始めると、意識がそこばかりに行ってしまう」という物理的なストレスも、使用を避ける理由の一つに挙げている。
一方で、気分やシチュエーションによって使い分ける選手も多い。佐藤心結は「ルーティンではなく、完全にその日の気分で決めている」と話す。イヤホンをつけるメリットとして「周りの音が聞こえなくなり、自分の世界を作りやすくなって集中できる」ことを挙げる反面、音楽のリズムによってスウィングのテンポが狂うことを警戒している。
そのために、使用する際も「片耳だけで、打音がわかる範囲に音量を小さくして聴く」か、パターの打球音そのものに集中したい時はあえて外すなど、臨機応変に変えている。
かつてはスタート前にイヤホンを着用していた青木瀬令奈も、現在はツアー会場の練習日には使用していない。
「プライベートで一般の練習場に行くときは、好きなアーティストの歌詞やエネルギーを感じながら聴く」という青木だが、本戦を控えた会場では「やっぱり打球音をしっかりと聴きたいタイプ。耳に蓋がないようにしています」と、音から得られる情報の重要性を語った。
外部の雑音をシャットアウトして「自分の世界」を作ることにメリットをとるか、あるいは繊細な打球音や打感を五感でキャッチするためにデメリットを避けるか。1打の重みが異なるプロの世界だからこそ、耳元から流れる音ひとつにも、三者三様の緻密なマネジメントが存在していた。
撮影/岡沢裕行