トランプ氏通商政策のコストは1兆ドル、通商政策と関税で-BE分析

トランプ米大統領が15日、主要7カ国(G7)の舞台に戻ってくる。2期目の政権を発足させたトランプ氏は、米国が貿易と安全保障、国際関係の最終的な決定権を握り、経済的な恩恵を浴する世界の実現を目指し、世界経済にジェットコースターのような急変動をもたらしている。

  そうした中で、米国の関税政策は国内外でますます強い反発に直面している。G7開催国カナダや中国、欧州連合(EU)など米国の主要貿易相手国は、トランプ政権に対して1期目よりもはるかに強く抵抗する構えだ。さらに米国の裁判所は、トランプ関税の多くを無効とする可能性も示している。

  米国経済は今夏に物価上昇と雇用の鈍化に直面し、消費者の不満が高まる恐れがある。関税発動の脅しは今や市場を毎日のように揺さぶっている。今週は米中が貿易戦争の暫定的な休戦に合意したにもかかわらず、ドルは急落した。

  世界の貿易体制を一変させようとするトランプ氏の試みは、1期目の2017年1月に既に始まっていた。同氏はオバマ政権が交渉した環太平洋連携協定(TPP)から離脱し、中国を抑え込み世界の貿易規則を米国有利に書き換えることを狙って慎重に構築された枠組みを見捨てた。代わりに、保護主義の強化へとかじを切った。

  この決定による経済的な代償は小さくない。ブルームバーグ・エコノミクス(BE)の予測によると、トランプ氏が現在の関税措置を維持するなら、米国がTPPにとどまっていた場合と比べて2030年までで世界経済の規模は1兆ドル(約144兆円)小さくなる。この3分の1強は米国経済によるもので、世界の貿易に占める米国の比率はずっと低くなる。一方で、中国はほぼ変わらない。結果的に、米国の雇用は69万人分少なくなる。

  G7の3カ国(日本、カナダ、英国)は米国が離脱した後のTPPの加盟国となった。1期目のトランプ政権発足時点で米国とG7の4カ国(フランス、ドイツ、イタリア、英国)の環大西洋貿易交渉も進んでいたが、やはり放棄された。

  しかし、トランプ氏と同氏を支持する多くの人々にとって、貿易体制を作り替えるコストは誇張されていると映る。仮に誇張でないとしても、米国にとって根本的に不公平であると見なす世界の貿易体制を再構築し、長年のグローバル化で空洞化した米国の製造業を再生するためなら、支払う価値のある対価だとこうした人々は考えている。

  トランプ政権はまた、中国や英国との間で合意された暫定的な合意を「勝利」と主張し、今後さらに多くの成果がもたらされると約束している。

  ホワイトハウスの通商担当上級顧問、ピーター・ナバロ氏は「グローバリストが考案したTPPに米国が加盟していれば、自動車産業は日本やベトナムなどアジアに完全に移ってしまい、米国の製造業は大打撃を被っていただろう。それを理解しているのはトランプ氏だけだ」と、今回の記事作成にあたり送付した質問状に回答。ナバロ氏はBEの分析の信ぴょう性に異議を唱え、過去に予測された関税の深刻な打撃は実現しなかったと論じた。

  失われた経済生産について嘆いたり、トランプ氏と対決したりしても、G7首脳にとっては建設的ではないかもしれない。G7ではこのところ合意を形成するのも難しくなり、今回の首脳会議では共同声明の発表も見送られる見通しだ。それでもBEの分析は、世界経済に対する関税のコストを指摘する最近増えつつある研究に連なる。

  貿易への衝撃は、既に世界の経済成長に打撃を及ぼしている。中でも大きな打撃を被っているのは、実は米国だ。経済協力開発機構(OECD)や国際通貨基金(IMF)に続き、世界銀行は今週、世界経済の成長見通しを下方修正した。OECDは米国の成長率が昨年の2.8%から今年は1.6%に急低下すると見込んだが、その理由の多くはトランプ氏の関税にあると指摘した。

  トランプ氏が攻撃する自由貿易体制は、これまで世界経済の成長を支え、インフレ抑制に寄与してきたと評価されている。しかし、その恩恵を誰もが浴したわけではなかった。自由貿易は、米国内から中国やメキシコのような低コスト地域へ生産拠点を移すことができた企業経営者や、安価な製品を購入できるようになった消費者にとっては有利だったが、雇用を海外に奪われた米国の工場労働者は不利益を被った。

  トランプ氏の関税政策は、こうした不均衡の是正を図るものだ。そこで、この政策のプラスとマイナスをBEは分析した。関税で外国製品はより高価になる一方、米国を拠点とする製造業は恩恵を受ける公算が大きい。鉄鋼や自動車、せんいなどで工場労働者の需要が増し、2030年までに合計で120万人分の雇用が創出されると見込まれる。これが実現するなら、トランプ氏が主要目標の一つに掲げる米製造業の再興が果たされることになる。

  だが、関税がゼロだった場合と比べ、サービス業の雇用は160万人分減る恐れがある。全体的な成長低下や競争力の喪失が響くことになる。

  TPP加盟が米国の雇用にもたらす影響は前向きなものだった可能性が高いが、恐らくあまり大きくはなかっただろう。BEのモデル分析はサービス業に加え、それよりも小規模ではあるが製造業も恩恵を受けていたことを示す。ピーターソン国際経済研究所など他の研究でも、製造業で小幅な雇用減少のリスクがあるものの、サービス業の増加で打ち消されると論じている。

  関税上昇で問題となるのは雇用だけではない。多くの国々にとって米国が主要な経済パートナーであり続ける地位や、米政府が世界的な経済問題について行使できる影響力もまた損なわれる。

  BEのモデル分析によれば、TPPは世界貿易における米国と中国の相対的な比重を安定させる役割を果たした可能性があるが、トランプ氏の関税政策は世界貿易に占める米国のシェアを22%から16%へと低下させるリスクを伴う。

  このリスクは、中国が既に大きな存在となっているアジアで既に顕著に表れている。アジアとオセアニアのTPP全加盟国の輸出入に対し、中国が相手の割合は23%に上る一方、米国は13%でしかない。

  トランプ氏の関税で米国の割合は11%に低下する見込みで、中国との差はさらに拡大する。一方、米国がTPPに加盟していれば米国の割合をやや押し上げ、中国の割合は21%に低下していたはずだった。

原題:Trump Tearing Up the Free Trade Playbook Has $1 Trillion Cost(抜粋)

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