「指示待ち」は若手社員の問題ではない…「日本語を話していても日本語が通じない」全国の企業で起きている現象 世代・属性を問わない「共通言語」が求められている

会社のチーム内ですれ違いをなくすにはどうしたらいいのか。東京大学で上廣共生哲学講座特任研究員を務める堀越耀介さんは「現代では“共通言語”づくりが重要になっています。共通言語をつくることによって、チーム内での齟齬がなくなる理由を説明します」という――。

※本稿は、堀越耀介『世代と立場を超える 職場の共通言語のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/maroke

※写真はイメージです

これからの時代に必須な「共通言語」とは?

本書のテーマである「共通言語」とは、「メンバーが、意味とイメージを共有できている言葉」のことです。

言葉の「意味」とは、それが何を表しているのか、言葉の「イメージ」とは、その言葉を聞くとどんな感覚や場面が思い浮かぶかということです。

たとえば「遊び心」を行動指針に掲げているが、形骸化している会社があるとしましょう。

「遊び心とはどういうものか」を部署内で対話し、たとえば「すぐに思いつく答えに飛びつかず、もっと素敵なことができないかと工夫する姿勢」という意味、かつ「定番レシピを少しアレンジしてみる」というイメージだと共通理解が生まれれば、毎日の仕事のなかでこの行動指針を活かすことができるようになります。

「今日のプレゼンは、ちょっと遊び心が足りませんでしたね」というように、フィードバックの評価基準として活用することもできるでしょう。

共通言語はどんな時代でも重要ですが、特に現代では共通言語づくりの重要性が高まっています。その背景には「VUCA」とも呼ばれる、予測が難しく変わりやすい、不確定な時代状況があります。

「共通言語」の重要性が高まっている要因

その大きな要因は、技術革新の加速とグローバル化の進展です。このような状況のなかで、特に次の3つの要因によって、共通言語の重要性が高まっています。

(1)組織内のコミュニケーションの複雑化 (2)市場のニーズの変化

(3)組織形態の変化

それぞれの要因について順を追って説明していきます。

(1)組織内のコミュニケーションの複雑化

VUCAの時代には、次のような背景で複雑なコミュニケーションが求められるようになります。

(A)世代間ギャップの拡大 (B)働き方の多様化

(C)価値観の多様化

(A)世代間ギャップの拡大

長年同じ組織でキャリアを積んできたベテラン世代と、生まれたときからインターネットが身近にあったデジタルネイティブ世代では、育ってきた時代背景や経験が大きく異なるため、言葉に対する認識や価値観にズレが生じやすくなっています。

たとえば「効率化」という言葉の捉え方にも違いが生まれます。ベテラン世代は「無駄を省き、コストを削減すること」と捉えがちですが、若手世代は「テクノロジーを活用して、よりスマートに働くこと」と捉えるかもしれません。

同じ言葉を使っていても、その意味合いやそこから生じる具体的な行動が異なれば、業務を進める上で、齟齬が生じてしまう可能性があります。また、コミュニケーションのスタイルも世代によって異なります。対面での丁寧なコミュニケーションを重視する世代もいれば、チャットやオンラインツールでの効率的なやり取りを好む世代もいます。このようなコミュニケーションスタイルの違いが、世代間の誤解や摩擦を生むことも少なくありません。


Page 2

共通言語の重要性が高まっている背景として、企業の組織形態が変化しつつあることも挙げられます。

これまで多くの日本企業は「階層型組織」の形態を取っていました。その特徴としてピラミッド状の構造、トップダウン型の意思決定、明確な役割分担、標準化された業務プロセスが挙げられます。高度経済成長期に大きな成功を収めた、比較的安定した組織運営モデルだと言えるでしょう。

他方、階層型組織については、環境の変化への対応が遅く、柔軟性に欠けることが指摘されています。現場レベルでの判断ではなく、上層部からの指示を受けることをベースにするため、構成員が「指示待ち」になり、彼らの主体性や意欲が発揮されないことも少なくありません。

また、こうした組織では、従業員一人ひとりに対して個人や自律性を活かすことよりも、常に同質的な成果を求めることによって、企業が維持されてきたという背景があることもしばしばです。こうした環境では、結果的にイノベーションが生まれにくくなる傾向もあります。

このように、変化の激しい現代においては、階層型組織の限界が感じられ始めてきています。そこで注目されているのが「自律分散型組織」です。これは、個々の従業員やチームに権限を委譲し、自律的な判断と行動を促す、フラットなかたちで構成される組織形態です。

自律分散型組織では、各チームやメンバーが自律的に目標を設定し、ボトムアップで活動します。ここでは、程度の差はあれ、構成員が自らの判断のもとに行動する自由を持ちます。すなわち、判断が上層部に集中するのではなく、現場やチームレベルでもおこなわれるのです。これにより、さまざまな変化に対して迅速で柔軟な対応が可能になるというわけです。

自律分散型こそ、組織全体の方向性を共有することが大切だ

ここでは、固定的な業務だけではなくプロジェクトベースで仕事がおこなわれ、それに応じてチーム編成がおこなわれることもしばしばです。これにより、組織内外のネットワークを活用し、チーム間で情報共有や協力が進みます。

堀越耀介『世代と立場を超える 職場の共通言語のつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)

個々のメンバーの多様性が積極的に評価され、各人が主体的に活動することで、現場からのアイデアや新しい取り組みが生まれやすくなるわけです。また、自律性が確保されることによって、構成員が自己の価値を感じやすくなり、仕事や組織へのモチベーションやエンゲージメントも向上することが期待されるでしょう。

しかし、自律分散型組織も完璧な組織というわけでは決してありません。自律分散型では、組織全体の目標やビジョンを共有する仕組みがなければ、組織の方向性や目的がばらばらになる可能性もあるからです。そこでは、目的や価値観を共有することで、「求心力」を維持しなければならないでしょう。そのためには「共通言語」をつくることが重要なのです。

もちろん、多くの国内企業が、現時点で階層型組織から自律分散型組織に移行することは考えにくいでしょう。しかし、VUCAの時代において、世代間の価値観のギャップや働き方の多様化が進むなか、従来の階層型組織も何らかの改革を必要としていることは事実です。

その際に、自分たちの企業に合った組織の形態や制度を模索していくことが求められます。その際に重要な役割を果たすのが、「よい組織とは?」「これからのリーダーシップとは?」と語り合い、共通言語をつくっていく対話なのです。

  • 1991年生まれ、東京都出身。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。学術的な知見と、5000人以上に対する対話のファシリテーションの経験を融合させ、企業が課題解決や価値創造に取り組む活動を支援している。NECソリューションイノベータ株式会社、三井不動産株式会社、株式会社SBI新生銀行、株式会社LegalOn Technologiesをはじめとする40社以上の企業に対して、「哲学」と「対話」によって組織の潜在能力を最大限に引き出すコンサルティングを実施。株式会社ShiruBeでコンサルタント/上席研究員を務め、株式会社電通と研修プログラムの共同開発をおこなうなど、活動の場を広げている。著書に『哲学はこう使う――問題解決に効く哲学思考「超」入門』(実業之日本社)。『Forbes JAPAN』をはじめ、各メディアでも幅広く活躍する。

関連記事: