「出血」は日本だけでない、トランプ関税引き下げの約束はどこへ
英国のスターマー首相は5月、トランプ米大統領との貿易合意によって鉄鋼関税がゼロになると発表したが、実際にはまだ実現していない。英鉄鋼業界団体のピーター・ブレナン氏は先週、「合意の最終確定が英米双方の優先順位から外れているのではないか」と懸念を募らせた。
同様の不満と経済的損失は日本と欧州連合(EU)、韓国でも広がっている。いずれも8月7日に発効した新関税について、自動車輸出に関する譲歩をトランプ大統領から得たと発表した。しかし実際には、安全保障を理由とした米国の25%関税は続いている。鉄鋼・アルミでも50%の関税を課されており、打撃は深刻だ。
赤沢亮正経済再生担当相は15日、自動車関税について「現にダメージが出続けているので、血が流れている状態だ」とし、「1日も一刻も早く大統領令を出してもらいたい」と語った。
ホワイトハウスと米通商代表部(USTR)、米商務省にコメントを求めたが現時点で返答はない。
ドイツ自動車工業会(VDA)のヒルデガルト・ミュラー会長は14日、ブルームバーグ・ニュースへの声明で「数十億ユーロ規模のコストが積み上がっており、増える一方だ」と指摘した。元欧州委員(通商担当)のセシリア・マルムストローム氏も「このままならEUは報復を迫られるだろう」と話す。「交渉は永遠に続き、時間稼ぎばかりになる」と警告した。
日米は7月22日、包括関税と自動車関税を15%にすることで合意したが、自動車については25%が依然賦課されている。さらに既存関税への「スタッキング(上乗せ)」解消を明確にするような公式文書も、まだ発出されていない。赤沢再生相は「1時間に1億円ずつ損失が出ている企業がある」と述べている。
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経営立て直しを進める日産自動車は7月、期初に最大4500億円としていた今期の米国関税の影響見通しを、3000億円に修正した。しかしイバン・エスピノーサ社長は関税の見通しが不透明なことから、正確な予測は立てにくいと指摘した。
赤沢氏は先週の訪米で、関税率上乗せを是正する大統領令の発出と、徴収済みの関税が払い戻されることを米閣僚と確認していた。しかし、いずれもまだ実施されていない。
韓国も7月末に15%関税で合意したが、自動車には依然25%が適用されている。ブルームバーグ・インテリジェンスの分析によれば、現代自動車と起亜自動車は15%関税でさえも、追加で最大50億ドルのコスト増が見込まれる。
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スターマー首相の英国にとっても、多くの項目は発効したが25%の鉄鋼関税については引き下げが遅れている。英国で溶解・鋳造された鉄鋼のみを対象とする米側の要件が障害となっている。タタ・スチールUKの広報責任者ティム・ラッター氏は「米国当局は業務に圧倒されている」と話した。
英政府も米国と合意した主要部分が実行されるまでに54日かかった。赤沢氏はこれを踏まえ、「9月半ば」ぐらいまでに大統領令が出れば悪くないとの認識を示している。
原題:Trade Partners Grow Restless Waiting for Trump’s Tariff Breaks(抜粋)