米陸軍の155mm砲弾増産計画、ハイリスクな時間短縮案に賭けて失敗
米陸軍は155mm砲弾の増産計画について「2025年までに月10万発」と目標を掲げていたが、国防総省監察官は9日に公開した報告書の中で「2026年3月時点の砲弾生産は月3.6万発止まり」「ハイリスク・ハイリターン承知で企業が提案した時間短縮案に賭けて失敗した」と報告した。
参考:Evaluation of the DoW’s Capability and Capacity to Produce 155-Millimeter Artillery Ammunition (Report No. DOWIG-2026-095) 参考:Manufacturing woes hamper US 155-mm ammo production
米陸軍はウクライナ戦争で需要が急増した155mm砲弾を増産するため、弾殻・信管・爆薬・装薬の生産施設を拡張し、砲弾の最終組み立て=LAP(装填・組立・包装)ラインの能力を強化し、新たにテキサス州メスキートに砲弾殻製造工場、アーカンソー州カムデンにLAP工場、カンザス州パーソンズにLAP工場を建設し、メスキート工場とカムデン工場はGeneral Dynamics Ordnance and Tactical Systems(GD-OTS)に、パーソンズ工場はDay&Zimmermannに運営が委託された。
出典:U.S. Army メスキート工場
155mm砲弾の生産は2023年春までに月2万発、2024年春までに月5.7万発、2025年までに月10万発を目標に掲げており、これを達成する上で重要な役割を果たすのは砲弾殻を鍛造方式ではなく、トルコが得意とするフロー成形(flow forming)方式を初採用するメスキート工場と、155mm砲弾専用として設計されたLAPラインをもつパーソンズ工場で、メスキート工場の3つの生産ラインがフル稼働すると月3万発の砲弾殻を生産できるようになり、月10万発目標において最重要の存在だった。
当初計画では2024年5月に工場完成、2024年11月に第1ライン稼働、2025年4月に第2ライン稼働、2025年3月に第3ライン稼働の予定だったのだが、トルコのRepkonから調達したフロー成形機器(フロー成形、シアーフォーミング、ホットスピニング)に基づいた生産ライン=60mmから155mmまでの砲弾殻製造を切り替え可能な自動化された高速生産ラインの実証・調整作業につまずき、ソフトウェア変更やツール調整だけでは問題が解決せず、生産ライン自体の初回テストが6回以上も延期されている。
つまり「メスキート工場は出荷用の砲弾殻を1発も生産できていない」という意味で、戦術航空・陸上戦力小委員会のロブ・ウィットマン委員長は2026年2月の公聴会で「メスキート工場の新生産ラインはまだ完全に稼働してない」「GD-OTSは155mm砲弾を含むあらゆる砲弾を1発も作っていない」「これでは『この施設の将来はどうなるのか』と問わざるを得ない状況だ」と厳しく陸軍を追及。
ブレント・イングラハム陸軍次官補も「我々は現状の砲弾生産に満足していない」「GD-OTSとの契約打ち切りも検討したが最終的に契約打ち切りは見送って交渉を続けている」「現在の155mm砲弾生産量は全体で月5.7万発だ」と明かし、弾薬調達の責任者を務めるジョン・ライム少将も「目標の月10万発にどれだけ近づいているのか」という質問について「納入面において目標に近づいていない」「メスキート工場での砲弾生産計画に関する再調整は素早く具体化する」と述べた。
出典:U.S. Army メスキート工場
ウィットマン委員長は「失敗するなら早く失敗しろ、そこから必ず教訓を得ろ、投入した資源をできる限り回収しろ、そしてリスクを一緒に背負ってくれるパートナーを確保しろ」「メスキート工場においてはこれが重要だ」「陸軍は失敗したと認めたくないのかもしれないが、目標への軌道修正に対する明確な道筋が見えないなら『申し訳ないが次に進むべきだ』『多少の出費もあったが学びもあった』『この取り組みを次の段階に進めるべきだ』と率直に話せる勇気を持ってほしい」と促していたが、国防総省監察官は155mm砲弾増産計画の報告書を9日に公開して注目を集めている。
この報告書は「砲弾殻ラインの能力増強は既存のスクラントン工場、ウィルクスバリ工場、インガソル工場で月7.1万発を、新施設のメスキート工場で月3万発を生産して月10万発を達成する予定だった」「既存施設の砲弾殻生産増強は月1.4万発から月4.6万発止まり」「メスキート工場は砲弾殻を1発も生産できていない」「砲弾の最終組み立て=LAP(装填・組立・包装)ラインの能力増強も月3.6万発止まり」「よって2026年3月時点の155mm砲弾生産能力は月3.6万発=年間43.2万発」「砲弾殻ラインの能力増強は既存3施設が2026年9月までに月7.1万発、LAPラインの能力増強は2027年12月までに月14万発に達する見込み」と指摘。
出典:Department of War Office of Inspector General
メスキート工場が砲弾殻を1発も生産できない原因について「155mm砲弾=新型のM795専用生産設備を発注すると1から製造することになるため、すぐ入手可能なM107専用生産設備を購入し、これをM795製造に改造・適合して使用するという企業の提案をハイリスク・ハイリターン承知で受け入れた」「この実績のない未検証のプロセスへの賭け裏目に出て、M107専用生産設備をM795生産に改造・適合させる過程で重大な技術的課題が発生した」と説明している。
要するに「Repkonから調達したフロー成形機器に基づいた生産ラインは旧型の155mm砲弾殻=M107を製造できても、新型のM795を製造した実績はなく、これをM795製造に改造・適合して時間を節約しようとハイリスク・ハイリターン承知で試みたが上手く行かなかった」という意味で、現時点でもメスキート工場の問題を解決できる見込みは立っていないらしい。
出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Parker Peichel
メスキート工場が生産ラインの稼働にどうしてここまで手こずるのか謎だったが、米陸軍はスクラントン工場で20年の砲弾殻製造経験をもつGD-OTSの提案に懸けて失敗しただけだった。
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※アイキャッチ画像の出典:U.S. Marine Corps photo by Lance Cpl. Micah Thompson