トランプがグリーンランド「所有」に固執するトンデモ理由(ニューズウィーク日本版)

物腰の柔らかい銀行家のスピーチが話題になることはめったにない。だがカナダ銀行とイングランド銀行の総裁を歴任したカーニー現カナダ首相が、カナダのような中堅国の団結を呼びかけた演説は、まさにその例外だった。カーニーは世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で、かつての「自由世界のリーダーである隣国」アメリカを真っ向から非難した。 【動画】グリーンランド人がアメリカ文化を嘲笑する動画にネット爆笑 「私たちは別の道を歩み出した。地球規模の問題解決のため、共通の価値観と利害に基づき、課題に応じてさまざまな連合を組み替えることを追求している」 「北極圏の主権に関しては、グリーンランドとデンマークを固く支持し、グリーンランドの将来を決定する固有の権利を全面的に支持する」 「(集団的自衛権の行使を定めた)NATO条約第5条に対する私たちのコミットメントは揺るぎない。同盟の北方と西方の防衛をさらに強化するため、(他の)NATO加盟国と協力している」 さらにカーニーは、アメリカの覇権時代は終わったと宣言した上で、貪欲な超大国の露骨な力の行使に対抗することを他国に幅広く要請した。 そもそもトランプ米大統領はなぜグリーンランドに執着するのか。トランプの大統領復帰を目指したのとほぼ同時期に、欧州委員会が「重要原材料」と認定したレアアースがグリーンランドに豊富に存在することが調査で判明した。AIの発達と普及で世界のエネルギー需要が増大している今、これを開発すれば中国への依存を減らせる。 加えて北極圏は、大国間の競争の舞台だ。中国は2018年の北極政策白書で自国を「近北極」国家と位置付け、「北極シルクロード」構築の意欲を示した。既に中国はグリーンランド南部の鉱山プロジェクトに重要な権益を確保している。 複数の評論家は、トランプには息子の事業のために莫大な富を獲得する狙いもあると推測している。トランプ自身も最近、あるジャーナリストにグリーンランドの「所有権」がなぜそこまで重要なのかと質問された際にこう答えている。「成功のために必要だと心理的に感じるからだ。所有権はリース契約や条約の話をしている場合と違って、それなしでは不可能なことを可能にしてくれると思う」 大富豪イーロン・マスクはトランプが創設したパレスチナ自治区ガザの暫定統治を監督する「平和評議会」について、トランプの望みは「ピース(平和)」なのか、それとも「ピース(領土や権益の一部)」なのかと冗談を飛ばした。本人は大受けだったが、聴衆は言葉を失った。かつてアメリカが主導していた西側世界にもたらされた恐怖と衝撃の大きさを物語る。 トランプの人生において、主要な競争上の武器は常に「ブランド」だった。西半球の支配権を主張する「ドンロー主義」も今やブランドだ。国際政治学者のイアン・ブレマーはこう喝破する。「彼はこのブランドの構築に全力を注いでいる。今やそこにより多くの装飾品を飾る必要がある。それがまさにグリーンランドだった」 実は1951年のデンマークとの協定で、アメリカは既に軍事プレゼンスを強化する権利を認められている。ニューヨーク大学教授のスコット・ギャロウェーは指摘した。「私たちは攻撃用ライフルAR15に実弾を装塡してスターバックスに入店し、6.46ドルのグランデ・ラテを要求した。銃も脅迫もなしに手に入れることができるのに」 トランプはあるインタビューでこう語った。「私自身の道徳観。私自身の心。私を止めることができるのはそれだけだ」 カーニーがあのスピーチを行った理由がここにある。

サム・ポトリッキオ(ジョージタウン大学教授)

ニューズウィーク日本版
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